「おお振り」×「◆A」15年後
【セントラルパークで】
「すごい街だね!」
三橋が目をキラキラさせながら、感激している。
沢村も頷きながら「楽しいな!」と破顔した。
三橋と沢村はついに渡米した。
最初の到着地はニューヨーク。
宿泊するのは、マンハッタンのそこそこグレードの高いホテルだ。
予定では2週間ほど滞在するつもりだった。
世界的に有名な場所はたくさんある。
2人はテンション高く、オーソドックスな観光を楽しんでいた。
エンパイアステートビル、自由の女神、マジソンスクエアガーデン。
ブロードウェイでミュージカルを見た。
ヤンキースタジアムで野球も見た。
美術館をはしごして、アートを楽しんだりもした。
ウォール街でビジネスマンが闊歩するのを見て、カッコいいなと思った。
本当に楽しい旅だ。
お金はそこそこあり、時間はたっぷりある。
ただただ聞いたことがある観光名所を巡るだけで、すぐに2週間経ってしまった。
そして今、2人はセントラルパークにいた。
緑豊かな園内のベンチに腰を下ろし、のんびりとした時間を楽しむ。
そこここで弾き語りや大道芸のパフォーマンスが行われていた。
「すごい街だね!」
「楽しいな!」
三橋と沢村はシンプルな言葉でこの街を評した。
そう、2週間みっちりと観光したいのに、まだ行きたい場所がたくさんある。
もう少し滞在しようか?
だけどそんなペースでやってたら、この旅が何年かかるかわからない。
「それにしても、物価が高いな。」
沢村の言葉に、三橋がコクコクと頷く。
楽しい旅行の唯一の問題はこのところの円安だった。
如実に感じるのは、食費の高さだ。
安くても2人で数千円。
ちょっと贅沢でもしたものなら、簡単に1万円を超える。
2人で顔を見合わせてため息をついたところで、三橋が「あ」と声を上げた。
そして「栄純君」と声をかけ、目の前の光景を指差す。
大道芸人のパフォーマンスに、多くの人が集まって、盛り上がっていた。
そしてそれを見た沢村は、三橋の意図を察した。
「こづかい稼ぎ!」
「だな。やるか!」
二っと笑い、ハイタッチをした三橋と沢村。
楽しい旅行に新たな1ページが加わる瞬間だった。
*****
「スゲェ家っすね。」
阿部はキョロキョロと邸内を見回し、ただただ感心する。
御幸は肩を竦めると「廉の実家には負けるよ」とおどけて見せた。
三橋と沢村が旅行に出る少し前。
御幸と専属トレーナーになった阿部も渡米していた。
向かったのは、御幸がこちらで借りている家だ。
最初、阿部は御幸の家の近所に部屋を借りるつもりだった。
だけど御幸が「うちに住めば?」と誘ってくれたのだ。
曰く「部屋が余って困っている」と。
阿部はその申し出をありがたく受けた。
そしてきっとデカい家なのだと思った。
かくしてやって来た御幸邸は、想像以上の広さだった。
部屋が8つもある。
しかも一部屋が阿部の実家より広いくらいの大きさだ。
いわゆる平屋、一階建てなのだが、地下室がある。
そして庭にはプールまであるのだ。
「スゲェ家っすね。」
「廉の実家には負けるよ」
「そうっすか?良い勝負な気がします。」
「治安が良い地区を選ぶと、こういう物件になっちゃうんだよな。」
「御幸先輩の好みじゃないんすか?」
「んなわけねーだろ。まぁとりあえず部屋チェックしてみろよ。」
どうやら御幸の好みではないらしい。
お許しが出たようなので、阿部は広い邸内を歩き回る。
そして一部屋ごとに驚くばかりだ。
リビングにオーディオルーム、そしてトレーニングルーム。
残りはすべてベットルームだ。
「空いてるベットルームから、好きな部屋選んでくれ。」
御幸の言葉に、阿部は「はい」と頷く。
だが庶民としては、この豪邸に慣れるのには時間がかかりそうだ。
*****
「「合言葉は雷雨決行~♪嵐に~♪船を出~す~♪」」
三橋と沢村は元気よく歌いながら、ボールを操る。
赤青黄色、色とりどりのボールが宙に舞った。
三橋と沢村はセントラルパークにいた。
2人並んで、パフォーマンス開始だ。
野球のボール大のゴムのカラーボールでお手玉をする。
それぞれ3個のボールを操りながら、歌う。
時々2人は同じタイミングでボールを高く上げた。
そしてお互いのボールを交換するのだ。
沢村の投げたボールを三橋が、三橋が投げたボールを沢村が取る。
三橋が右利き、沢村が左利きだから。
そして2人ともコントロールが良いからできる技だった。
2人の前には、いつの間にか人だかりができていた。
変則的とはいえ、お手玉なのだ。
大道芸としては、かなり初歩だろう。
だけど楽しそうにやっている2人に、客もノリノリになっていた。
もちろん急に始めたことではない。
三橋と阿部、沢村と御幸はよくシーズン前に一緒にキャンプをした。
その合間に遊びでやっていたのだ。
2人とも一応元プロの投手、コツを掴めば難しくなかった。
ちなみに歌っている曲に意味はない。
単に沢村が好きで、三橋も歌える曲がこれだった。
「「引き返す訳にゃいかないぜ~♪夢がオレたちを見張ってる~♪」」
いつしか手拍子が巻き起こり、2人のパフォーマンスも続く。
目の前に置いてあった箱には、結構な小銭が投げ込まれていた。
もちろん2人とも、これが実力とは思っていない。
単に物珍しさで受けているだけだろう。
「スッゲェ儲かったな!」
「今日は日本食!」
「だな!」
パフォーマンスを終え、お金を数えた2人はテンションを上げた。
ニューヨークの日本食レストランは、どこも値段が高かったのだ。
だけどそろそろ日本食が恋しいのだ。
日本食を堪能した翌日、三橋と沢村はニューヨークを離れた。
次の目的地はナイアガラの滝。
2人の旅はまだ始まったばかりだ。
【続く】
「すごい街だね!」
三橋が目をキラキラさせながら、感激している。
沢村も頷きながら「楽しいな!」と破顔した。
三橋と沢村はついに渡米した。
最初の到着地はニューヨーク。
宿泊するのは、マンハッタンのそこそこグレードの高いホテルだ。
予定では2週間ほど滞在するつもりだった。
世界的に有名な場所はたくさんある。
2人はテンション高く、オーソドックスな観光を楽しんでいた。
エンパイアステートビル、自由の女神、マジソンスクエアガーデン。
ブロードウェイでミュージカルを見た。
ヤンキースタジアムで野球も見た。
美術館をはしごして、アートを楽しんだりもした。
ウォール街でビジネスマンが闊歩するのを見て、カッコいいなと思った。
本当に楽しい旅だ。
お金はそこそこあり、時間はたっぷりある。
ただただ聞いたことがある観光名所を巡るだけで、すぐに2週間経ってしまった。
そして今、2人はセントラルパークにいた。
緑豊かな園内のベンチに腰を下ろし、のんびりとした時間を楽しむ。
そこここで弾き語りや大道芸のパフォーマンスが行われていた。
「すごい街だね!」
「楽しいな!」
三橋と沢村はシンプルな言葉でこの街を評した。
そう、2週間みっちりと観光したいのに、まだ行きたい場所がたくさんある。
もう少し滞在しようか?
だけどそんなペースでやってたら、この旅が何年かかるかわからない。
「それにしても、物価が高いな。」
沢村の言葉に、三橋がコクコクと頷く。
楽しい旅行の唯一の問題はこのところの円安だった。
如実に感じるのは、食費の高さだ。
安くても2人で数千円。
ちょっと贅沢でもしたものなら、簡単に1万円を超える。
2人で顔を見合わせてため息をついたところで、三橋が「あ」と声を上げた。
そして「栄純君」と声をかけ、目の前の光景を指差す。
大道芸人のパフォーマンスに、多くの人が集まって、盛り上がっていた。
そしてそれを見た沢村は、三橋の意図を察した。
「こづかい稼ぎ!」
「だな。やるか!」
二っと笑い、ハイタッチをした三橋と沢村。
楽しい旅行に新たな1ページが加わる瞬間だった。
*****
「スゲェ家っすね。」
阿部はキョロキョロと邸内を見回し、ただただ感心する。
御幸は肩を竦めると「廉の実家には負けるよ」とおどけて見せた。
三橋と沢村が旅行に出る少し前。
御幸と専属トレーナーになった阿部も渡米していた。
向かったのは、御幸がこちらで借りている家だ。
最初、阿部は御幸の家の近所に部屋を借りるつもりだった。
だけど御幸が「うちに住めば?」と誘ってくれたのだ。
曰く「部屋が余って困っている」と。
阿部はその申し出をありがたく受けた。
そしてきっとデカい家なのだと思った。
かくしてやって来た御幸邸は、想像以上の広さだった。
部屋が8つもある。
しかも一部屋が阿部の実家より広いくらいの大きさだ。
いわゆる平屋、一階建てなのだが、地下室がある。
そして庭にはプールまであるのだ。
「スゲェ家っすね。」
「廉の実家には負けるよ」
「そうっすか?良い勝負な気がします。」
「治安が良い地区を選ぶと、こういう物件になっちゃうんだよな。」
「御幸先輩の好みじゃないんすか?」
「んなわけねーだろ。まぁとりあえず部屋チェックしてみろよ。」
どうやら御幸の好みではないらしい。
お許しが出たようなので、阿部は広い邸内を歩き回る。
そして一部屋ごとに驚くばかりだ。
リビングにオーディオルーム、そしてトレーニングルーム。
残りはすべてベットルームだ。
「空いてるベットルームから、好きな部屋選んでくれ。」
御幸の言葉に、阿部は「はい」と頷く。
だが庶民としては、この豪邸に慣れるのには時間がかかりそうだ。
*****
「「合言葉は雷雨決行~♪嵐に~♪船を出~す~♪」」
三橋と沢村は元気よく歌いながら、ボールを操る。
赤青黄色、色とりどりのボールが宙に舞った。
三橋と沢村はセントラルパークにいた。
2人並んで、パフォーマンス開始だ。
野球のボール大のゴムのカラーボールでお手玉をする。
それぞれ3個のボールを操りながら、歌う。
時々2人は同じタイミングでボールを高く上げた。
そしてお互いのボールを交換するのだ。
沢村の投げたボールを三橋が、三橋が投げたボールを沢村が取る。
三橋が右利き、沢村が左利きだから。
そして2人ともコントロールが良いからできる技だった。
2人の前には、いつの間にか人だかりができていた。
変則的とはいえ、お手玉なのだ。
大道芸としては、かなり初歩だろう。
だけど楽しそうにやっている2人に、客もノリノリになっていた。
もちろん急に始めたことではない。
三橋と阿部、沢村と御幸はよくシーズン前に一緒にキャンプをした。
その合間に遊びでやっていたのだ。
2人とも一応元プロの投手、コツを掴めば難しくなかった。
ちなみに歌っている曲に意味はない。
単に沢村が好きで、三橋も歌える曲がこれだった。
「「引き返す訳にゃいかないぜ~♪夢がオレたちを見張ってる~♪」」
いつしか手拍子が巻き起こり、2人のパフォーマンスも続く。
目の前に置いてあった箱には、結構な小銭が投げ込まれていた。
もちろん2人とも、これが実力とは思っていない。
単に物珍しさで受けているだけだろう。
「スッゲェ儲かったな!」
「今日は日本食!」
「だな!」
パフォーマンスを終え、お金を数えた2人はテンションを上げた。
ニューヨークの日本食レストランは、どこも値段が高かったのだ。
だけどそろそろ日本食が恋しいのだ。
日本食を堪能した翌日、三橋と沢村はニューヨークを離れた。
次の目的地はナイアガラの滝。
2人の旅はまだ始まったばかりだ。
【続く】