「おお振り」×「◆A」
【3日目、試合中盤!】
こうなると、こっちが分が悪い。
御幸は顔をしかめながら、スコアボードを見た。
西浦高校との練習試合。
ちょうど5回が終わり、Bチームのメンバーがグラウンドの整備に入っていた。
試合は2対1、かろうじて青道がリードしている。
青道は1回に前園のソロホームラン、そして3回に倉持、小湊の連続ヒットで追加点。
対する西浦は、4回に四球を選んだ田島を、花井がヒットで本塁に返した。
点数こそ青道が勝っているが、全然そんな気がしない。
つまり勢いは今、西浦の方にあるのだ。
西浦は点数こそ1点に終わっているが、三振がほとんどない。
全員が降谷の球をバットに当てることはできるということだ。
これは降谷にとって、地味にダメージとなっている。
対する青道は、完全に三橋の投球に翻弄されていた。
多い球種と、絶妙なコントロールにタイミングが合わないのだ。
前園のホームランは、振り回した結果の出逢い頭という感が強い。
倉持のヒットも当たり損ねをかろうじて足でカバーした内野安打。
結局綺麗なヒットは小湊の1本だけだ。
制球力のいい投手は大好物、のはずだったんだけどな。
凡打で終わった御幸は苦笑するものの、そんな悠長な事態ではないことはわかっている。
相手は県立高校で創部1年目、1年生ばかり10名のチーム。
別に自分たちが格上なんていうつもりもないが、普通に考えたら、勝つのは当然青道なのだ。
西浦は負けても「次こそは」と思うだけで、失うものはないだろう。
だが青道が負ければと想像するだけで、重苦しい気分になる。
プライドだの何だの、強豪校にはいろいろ背負っているものがあるのだ。
「何やってんすかぁぁ!!」
グラウンド整備を手伝う沢村が、こちらに向かって声を張り上げている。
そう、昨日Bチームが勝っていることも問題だ。
沢村が三橋にデットボールを当ててしまい、一気に試合の流れが変わったことは聞いている。
つまりスカッとした勝ちじゃない。
このままAチームが負ければ、昨日のBチームの勝利さえ、まぐれに見えてしまうのだ。
「やっぱりオレが投げないと、ダメっすか!!」
「うるせー!沢村!!グラ整に集中しやがれ!」
沢村の挑発的な言葉に、倉持が思いっきり怒鳴り返している。
まったく沢村は、試合には出なくても存在感があり過ぎる。
おかげでこっちはよくも悪くも刺激を受ける。
その沢村の前で、無様な姿は見せられない。
絶対に負けられない。
御幸は決意を込めて、西浦のベンチをみて「あれ?」と思った。
ベンチに座っている三橋は、何だか異様に頬が紅潮しているように見えたからだ。
それにグラウンド整備に入ってしばらく経つのに、未だに肩で呼吸をしているようだ。
まさか、オーバーペース?
御幸はじっと三橋の様子を観察する。
三橋の隣に座る阿部が、こちらを睨んでいるように見えた。
*****
絶対に追いついてやる!
阿部はじっとこちらを見ている御幸を睨み付けた。
青道のAチームとの練習試合は、5回を終えて2対1。
何とか1点差で食らいついていた。
打線の方はこのままいけば降谷を捕えられると思う。
いくら早くても、変化球がないのだ。
上位打線はそこそこいい当たりをしているし、下位だって当てるのはできる。
何より本格派の剛球投手である降谷は、嫌な感じがしているはずだ。
明らかに格下の相手なのに、全然三振が取れないのだから。
「三橋、水分取れ。カロリーも入れとけよ。」
阿部は甲斐甲斐しく世話を焼きながら、三橋の様子を観察する。
三橋の調子は、良すぎだった。
変化球の切れもコントロールも冴えわたっている。
おかげで「まっすぐ」はほとんど使わないまま、ここまで来られた。
だがやはりあの桐青戦の時のように、ハイテンションだ。
おそらく相当消耗しているだろう。
桐青戦のときは、1回きりの必殺技だと思った。
だがこのハイテンションも、使いこなせれば相当な武器だ。
それに日々の練習で、体力は格段に上がっている。
試合中に電池切れせずに、最後まで投げ抜くことができれば、大した収穫になる。
だが捕手としてそう割り切れても、やはり心配だった。
体調を聞けば、三橋はきっと「大丈夫」と答えるだろう。
そうして身体を限界まで酷使するのだ。
もちろん故障などを起こさないように、ギリギリを見極めるのは忘れない。
それでもそうまでして投げる三橋を見ていると、何だか切なくなるのだ。
「なぁ、向こうの捕手、こっちを見てるぜ。」
田島に声を掛けられて、ずっと三橋の世話を焼いていた阿部は、青道のベンチを見た。
確かに御幸がじっとこちらを見ている。
いや、三橋を見ているのだ。
「気付かれたか?」
阿部は御幸の視線を跳ね返すように睨みながら、考える。
天才捕手と名高い御幸のことだ。
三橋が異様なハイテンションになっていることに気付いたのかもしれない。
だとすれば、何か投球数を増やさせるような策を仕掛けてくるのだろうか。
いや、天下の青道高校がそんなセコい手を使ってくるとは、思いたくないが。
「三橋、行くぞ!」
グラウンド整備が終わったところで、阿部は三橋に声をかける。
三橋が「おぉ!」と答えると、元気よく立ち上がった。
御幸が何を考えていようと、青道がそう攻めてこようと、やることは変わらない。
絶対に負けられない。
あと4回、なんとしても逆転して、勝ってみせる。
【続く】
こうなると、こっちが分が悪い。
御幸は顔をしかめながら、スコアボードを見た。
西浦高校との練習試合。
ちょうど5回が終わり、Bチームのメンバーがグラウンドの整備に入っていた。
試合は2対1、かろうじて青道がリードしている。
青道は1回に前園のソロホームラン、そして3回に倉持、小湊の連続ヒットで追加点。
対する西浦は、4回に四球を選んだ田島を、花井がヒットで本塁に返した。
点数こそ青道が勝っているが、全然そんな気がしない。
つまり勢いは今、西浦の方にあるのだ。
西浦は点数こそ1点に終わっているが、三振がほとんどない。
全員が降谷の球をバットに当てることはできるということだ。
これは降谷にとって、地味にダメージとなっている。
対する青道は、完全に三橋の投球に翻弄されていた。
多い球種と、絶妙なコントロールにタイミングが合わないのだ。
前園のホームランは、振り回した結果の出逢い頭という感が強い。
倉持のヒットも当たり損ねをかろうじて足でカバーした内野安打。
結局綺麗なヒットは小湊の1本だけだ。
制球力のいい投手は大好物、のはずだったんだけどな。
凡打で終わった御幸は苦笑するものの、そんな悠長な事態ではないことはわかっている。
相手は県立高校で創部1年目、1年生ばかり10名のチーム。
別に自分たちが格上なんていうつもりもないが、普通に考えたら、勝つのは当然青道なのだ。
西浦は負けても「次こそは」と思うだけで、失うものはないだろう。
だが青道が負ければと想像するだけで、重苦しい気分になる。
プライドだの何だの、強豪校にはいろいろ背負っているものがあるのだ。
「何やってんすかぁぁ!!」
グラウンド整備を手伝う沢村が、こちらに向かって声を張り上げている。
そう、昨日Bチームが勝っていることも問題だ。
沢村が三橋にデットボールを当ててしまい、一気に試合の流れが変わったことは聞いている。
つまりスカッとした勝ちじゃない。
このままAチームが負ければ、昨日のBチームの勝利さえ、まぐれに見えてしまうのだ。
「やっぱりオレが投げないと、ダメっすか!!」
「うるせー!沢村!!グラ整に集中しやがれ!」
沢村の挑発的な言葉に、倉持が思いっきり怒鳴り返している。
まったく沢村は、試合には出なくても存在感があり過ぎる。
おかげでこっちはよくも悪くも刺激を受ける。
その沢村の前で、無様な姿は見せられない。
絶対に負けられない。
御幸は決意を込めて、西浦のベンチをみて「あれ?」と思った。
ベンチに座っている三橋は、何だか異様に頬が紅潮しているように見えたからだ。
それにグラウンド整備に入ってしばらく経つのに、未だに肩で呼吸をしているようだ。
まさか、オーバーペース?
御幸はじっと三橋の様子を観察する。
三橋の隣に座る阿部が、こちらを睨んでいるように見えた。
*****
絶対に追いついてやる!
阿部はじっとこちらを見ている御幸を睨み付けた。
青道のAチームとの練習試合は、5回を終えて2対1。
何とか1点差で食らいついていた。
打線の方はこのままいけば降谷を捕えられると思う。
いくら早くても、変化球がないのだ。
上位打線はそこそこいい当たりをしているし、下位だって当てるのはできる。
何より本格派の剛球投手である降谷は、嫌な感じがしているはずだ。
明らかに格下の相手なのに、全然三振が取れないのだから。
「三橋、水分取れ。カロリーも入れとけよ。」
阿部は甲斐甲斐しく世話を焼きながら、三橋の様子を観察する。
三橋の調子は、良すぎだった。
変化球の切れもコントロールも冴えわたっている。
おかげで「まっすぐ」はほとんど使わないまま、ここまで来られた。
だがやはりあの桐青戦の時のように、ハイテンションだ。
おそらく相当消耗しているだろう。
桐青戦のときは、1回きりの必殺技だと思った。
だがこのハイテンションも、使いこなせれば相当な武器だ。
それに日々の練習で、体力は格段に上がっている。
試合中に電池切れせずに、最後まで投げ抜くことができれば、大した収穫になる。
だが捕手としてそう割り切れても、やはり心配だった。
体調を聞けば、三橋はきっと「大丈夫」と答えるだろう。
そうして身体を限界まで酷使するのだ。
もちろん故障などを起こさないように、ギリギリを見極めるのは忘れない。
それでもそうまでして投げる三橋を見ていると、何だか切なくなるのだ。
「なぁ、向こうの捕手、こっちを見てるぜ。」
田島に声を掛けられて、ずっと三橋の世話を焼いていた阿部は、青道のベンチを見た。
確かに御幸がじっとこちらを見ている。
いや、三橋を見ているのだ。
「気付かれたか?」
阿部は御幸の視線を跳ね返すように睨みながら、考える。
天才捕手と名高い御幸のことだ。
三橋が異様なハイテンションになっていることに気付いたのかもしれない。
だとすれば、何か投球数を増やさせるような策を仕掛けてくるのだろうか。
いや、天下の青道高校がそんなセコい手を使ってくるとは、思いたくないが。
「三橋、行くぞ!」
グラウンド整備が終わったところで、阿部は三橋に声をかける。
三橋が「おぉ!」と答えると、元気よく立ち上がった。
御幸が何を考えていようと、青道がそう攻めてこようと、やることは変わらない。
絶対に負けられない。
あと4回、なんとしても逆転して、勝ってみせる。
【続く】