「おお振り」×「◆A」
【3日目、試合開始!】
「いいぞ、三橋!」
阿部は余裕の表情を作って、声を張り上げる。
だが内心は不安で仕方がなかった。
ついに最終日、青道Aチーム対西浦の試合が始まった。
先発は青道が降谷、西浦は連投の三橋だ。
この試合も青道は表攻撃で、まずマウンドには三橋が上がった。
1番打者は2年の倉持だ。
何といってもこの試合最初の打者だし、足もある。
何としても打ち取ってやろうと、阿部は気合いが入る。
だがその結果は呆気なかった。
初球、真ん中から外へ曲がるカーブを引っかけさせて、内野ゴロ。
わずかに1球で、最初のアウトを取ることに成功したのだ。
「ナイピッチ!」
「いいぞ、三橋!」
西浦の守備陣が声をかけている。
だがもはや全員が気が付いていた。
三橋が桐青高校との試合の時に陥ったハイテンション。
今、同じ状態になっていることに。
だがこればかりは仕方がないのだ。
三橋本人が制御できないのに、周りがどうこうできるわけではない。
変に口出しすれば、調子を崩してグダグダになる可能性もある。
だから阿部も百枝も他の面々も、三橋には何も言わないでいた。
そんな阿部たちの心配をよそに、三橋は絶好調だ。
2番の小湊を2球、そして3番の前園も初球でアウトだ。
何と三者凡退、しかも4球で青道の初回の攻撃が終わってしまった。
おそらく早々に打ち崩してやろうという目論見の上での早打ちだろうが、裏目に出た形だ。
「いいぞ、三橋!」
阿部は余裕の表情を作って、声を張り上げる。
だが内心は不安で仕方がなかった。
あの桐青戦のことを思いだすだけで、心が痛むのだ。
あの時、三橋はみるみる消耗して、最後は潰れてしまって起きることさえできなかった。
阿部はそんな三橋を助けるどころか、さらに厳しいコースの投げ分けを要求したのだ。
捕手が投手のためにできることは少ないと、本当に実感した試合だった。
でも三橋は労わられるよりは、勝ちたいはずだ。
だから心を鬼にして、頑張らせるしかない。
「三橋、頼むぞ!」
そう声をかけると、三橋は「うん!」と元気よく答える。
阿部は複雑な思いをまぎらわすように、三橋のくせの強い髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
*****
「そういう言い方、やめてもらえないっすか」
沢村は思わず食ってかかっていた。
完全に頭に血が上ってしまい、止められなかったのだ。
1回表の青道の攻撃は、ものの数分で終わってしまった。
そして1回裏、西浦はじっくりと時間をかけて攻撃してきた。
とにかく西浦の面々は、降谷の球に対してキッチリと予習をしてきたらしい。
御幸の配球と含めて、研究してしたのだろう。
ボール球には手を出さないし、ストライクはキッチリと当ててくる。
終わってみれば、1回裏の西浦の攻撃も三者凡退。
だが降谷はかなりの球数を投げさせられたし、あわやヒットという際どい当たりもあった。
「降谷、何やってんだ!」
沢村はネット裏から声を張り上げていた。
沢村の賑やかさはネット裏でも健在だ。
Bチームの約半分、そして引退した3年生部員も集まっている。
「同じ三者凡退でも押されている感じだな。」
いつもの通りの小さな声でポツリとそう呟いたのは、クリスだった。
結城、小湊兄、増子らが、重々しい表情で頷く。
引退したとはいえ、やはり青道高校の動向は気になるのだろう。
3年生のレギュラー部員はほぼ全員、集まっていた。
「10人しかいない県立なんぞに負けたら、大恥だぜ!」
声を張り上げたのは、鬼ギレ先輩こと伊佐敷だ。
他の部員たちから「そうだ、そうだ!」と同調する声が上がる。
だが沢村はその言葉に、思わず顔が強張った。
「そういう言い方、やめてもらえないっすか」
沢村は思わず食ってかかっていた。
完全に頭に血が上ってしまい、止められなかったのだ。
西浦高校を見ていると、どうしても中学時代の自分とかぶるのだ。
才能ある人材を集め、設備も揃っている強豪校から見れば、取るに足らないかもしれない。
だけど一生懸命練習したし、勝つために頑張った。
もちろん沢村の中学時代より、今の西浦の方が格段に上手いし強いことはわかっている。
だけどやっぱり「ごとき」扱いされると、自分までバカにされたような気分になるのだ。
思いもかけない沢村の言葉に、伊佐敷が不機嫌な表情になる。
「今のはお前が悪いだろう。『なんぞ』なんて言葉、失礼だ。」
すかさず伊佐敷を諌めたのは、クリスだった。
沢村と伊佐敷の間に割って入ると、ポンと沢村の肩を叩いた。
伊佐敷がバツの悪そうな顔で「わりぃ」と呟く。
「すんません。オレも悪かったっす」
沢村はクリスと伊佐敷に頭を下げると、再び試合に目を向けた。
2回の表、青道の攻撃。
ちょうどバッターボックスに入った御幸と、一瞬だけ目があったような気がした。
【続く】
「いいぞ、三橋!」
阿部は余裕の表情を作って、声を張り上げる。
だが内心は不安で仕方がなかった。
ついに最終日、青道Aチーム対西浦の試合が始まった。
先発は青道が降谷、西浦は連投の三橋だ。
この試合も青道は表攻撃で、まずマウンドには三橋が上がった。
1番打者は2年の倉持だ。
何といってもこの試合最初の打者だし、足もある。
何としても打ち取ってやろうと、阿部は気合いが入る。
だがその結果は呆気なかった。
初球、真ん中から外へ曲がるカーブを引っかけさせて、内野ゴロ。
わずかに1球で、最初のアウトを取ることに成功したのだ。
「ナイピッチ!」
「いいぞ、三橋!」
西浦の守備陣が声をかけている。
だがもはや全員が気が付いていた。
三橋が桐青高校との試合の時に陥ったハイテンション。
今、同じ状態になっていることに。
だがこればかりは仕方がないのだ。
三橋本人が制御できないのに、周りがどうこうできるわけではない。
変に口出しすれば、調子を崩してグダグダになる可能性もある。
だから阿部も百枝も他の面々も、三橋には何も言わないでいた。
そんな阿部たちの心配をよそに、三橋は絶好調だ。
2番の小湊を2球、そして3番の前園も初球でアウトだ。
何と三者凡退、しかも4球で青道の初回の攻撃が終わってしまった。
おそらく早々に打ち崩してやろうという目論見の上での早打ちだろうが、裏目に出た形だ。
「いいぞ、三橋!」
阿部は余裕の表情を作って、声を張り上げる。
だが内心は不安で仕方がなかった。
あの桐青戦のことを思いだすだけで、心が痛むのだ。
あの時、三橋はみるみる消耗して、最後は潰れてしまって起きることさえできなかった。
阿部はそんな三橋を助けるどころか、さらに厳しいコースの投げ分けを要求したのだ。
捕手が投手のためにできることは少ないと、本当に実感した試合だった。
でも三橋は労わられるよりは、勝ちたいはずだ。
だから心を鬼にして、頑張らせるしかない。
「三橋、頼むぞ!」
そう声をかけると、三橋は「うん!」と元気よく答える。
阿部は複雑な思いをまぎらわすように、三橋のくせの強い髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
*****
「そういう言い方、やめてもらえないっすか」
沢村は思わず食ってかかっていた。
完全に頭に血が上ってしまい、止められなかったのだ。
1回表の青道の攻撃は、ものの数分で終わってしまった。
そして1回裏、西浦はじっくりと時間をかけて攻撃してきた。
とにかく西浦の面々は、降谷の球に対してキッチリと予習をしてきたらしい。
御幸の配球と含めて、研究してしたのだろう。
ボール球には手を出さないし、ストライクはキッチリと当ててくる。
終わってみれば、1回裏の西浦の攻撃も三者凡退。
だが降谷はかなりの球数を投げさせられたし、あわやヒットという際どい当たりもあった。
「降谷、何やってんだ!」
沢村はネット裏から声を張り上げていた。
沢村の賑やかさはネット裏でも健在だ。
Bチームの約半分、そして引退した3年生部員も集まっている。
「同じ三者凡退でも押されている感じだな。」
いつもの通りの小さな声でポツリとそう呟いたのは、クリスだった。
結城、小湊兄、増子らが、重々しい表情で頷く。
引退したとはいえ、やはり青道高校の動向は気になるのだろう。
3年生のレギュラー部員はほぼ全員、集まっていた。
「10人しかいない県立なんぞに負けたら、大恥だぜ!」
声を張り上げたのは、鬼ギレ先輩こと伊佐敷だ。
他の部員たちから「そうだ、そうだ!」と同調する声が上がる。
だが沢村はその言葉に、思わず顔が強張った。
「そういう言い方、やめてもらえないっすか」
沢村は思わず食ってかかっていた。
完全に頭に血が上ってしまい、止められなかったのだ。
西浦高校を見ていると、どうしても中学時代の自分とかぶるのだ。
才能ある人材を集め、設備も揃っている強豪校から見れば、取るに足らないかもしれない。
だけど一生懸命練習したし、勝つために頑張った。
もちろん沢村の中学時代より、今の西浦の方が格段に上手いし強いことはわかっている。
だけどやっぱり「ごとき」扱いされると、自分までバカにされたような気分になるのだ。
思いもかけない沢村の言葉に、伊佐敷が不機嫌な表情になる。
「今のはお前が悪いだろう。『なんぞ』なんて言葉、失礼だ。」
すかさず伊佐敷を諌めたのは、クリスだった。
沢村と伊佐敷の間に割って入ると、ポンと沢村の肩を叩いた。
伊佐敷がバツの悪そうな顔で「わりぃ」と呟く。
「すんません。オレも悪かったっす」
沢村はクリスと伊佐敷に頭を下げると、再び試合に目を向けた。
2回の表、青道の攻撃。
ちょうどバッターボックスに入った御幸と、一瞬だけ目があったような気がした。
【続く】