「おお振り」×「◆A」6年後
【よろしくお願いします】
「「美味しい~~♪」」
上機嫌でパクパクと肉を食らう三橋と沢村。
御幸が「お前ら、欠食児童か」と呆れる。
阿部は「野菜も食え、野菜も!」と言いながら、三橋と沢村の皿に野菜を玉ねぎとピーマンを入れた。
もうすぐキャンプイン。
御幸と沢村にとっては、寮を出て初めてのシーズンが始まる。
だが2年目の三橋は、明日寮へ戻る。
だから今夜は、束の間のお別れ会だ。
三橋の部屋にはホットプレートが出されて、その傍らには大量の肉。
つまり今夜の趣向は、焼肉パーティだ。
「阿部はダイエットか?」
あまり箸が進まない阿部に、御幸が聞いた。
阿部は「まぁ気にしてますね」と答える。
体重の増加を、阿部は気にしている。
大学を卒業して、野球を辞めた直後は、かなり体重が増えた。
そこから少しずつ運動と食事制限をしているが、完全には戻っていない。
何しろ、自分によく似た風貌の父親はデップリと太っている。
努力しなければああなると思うと、身が引き締まるのだ。
「別に今日くらいは、食ってもいいだろうに。」
「制限がなくても、三橋や沢村と同じペースでは食えませんよ。」
「・・・そりゃそうか」
阿部と御幸は酒の方がメインで、焼き肉はつまみだ。
ガツガツと肉を頬張る三橋や沢村に比べれば、食べるペースはかなりスロー。
2人が食べて、空いたホットプレートのスペースに新しい肉や野菜を補充しながら、酒を飲む。
御幸は単純に好きな銘柄のビールを飲んでいるが、阿部はプリン体ゼロと銘打たれたものだ。
「オレ、3月から西浦のコーチ、やることにしました。」
「へぇぇ。結局引き受けたのか。」
「ええ。いつかトレーナーになる勉強にもなりますし。」
「でも、仕事と学校もあるし、大変だろ。」
「だから会社を辞めて、契約に」
御幸と阿部が話していると、不意に沢村が会話に割り込んできた。
肉を食っていて、話など聞いていないと思ったのに「阿部、会社を辞めんの!?」と叫ぶ。
だが阿部は「違う!社員を辞めるだけだ!」と文句を言った。
阿部は正社員として雇用されていた会社を辞め、そのまま契約社員となったのだ。
つまり同じ仕事をしながら、時間給で働く。
仕事量も給料も一気に減るが、休みは取りやすく、時間は自由になる。
それを説明すると、沢村は「ふ~ん、そういうのありなんだ」と納得した。
「オレ、阿部君、が、トレーナーに、なる、前に、先発、ローテに入る!」
三橋は勢いよく叫んだが、肉を頬張っているために、説得力は半減だ。
阿部君は「はへふん」に聞こえるし、トレーナーは「ホヘーハー」だ。
沢村と御幸は爆笑し、阿部はガックリと肩を落とす。
だが三橋は肉を飲み込んだ後、もう1度「先発ローテに入る!」と宣言し、また肉を頬張った。
*****
「それじゃ、これも焼くぞ!」
御幸が両手にヘラを持つと、ホットプレートに麺を入れた。
三橋と沢村が「「わ~♪」」と子供のように目を輝かせるのを見て、阿部も御幸も苦笑した。
焼肉パーティは、用意した肉がなくなったことで焼きそばパーティに移行した。
御幸が肉の香りが残ったホットプレートで、鮮やかな手つきで麺を炒める。
残った野菜も全てブチ込み、味付け。
ソースが焦げるいい香りが、部屋中に漂った。
「オレ、最後にピーチチューハイ!」
沢村が勝手知ったる三橋の部屋のキッチンの冷蔵庫から、缶チューハイを取り出す。
そして「三橋もいるか~?」と声を上げると、三橋は「欲しい!」と叫んだ。
御幸と阿部からすれば、まったく理解できない。
その前も2人はグレープフルーツとかシークヮサーだとか、甘そうなものばかり飲んでいる。
よくそれで肉が食えると思うのだ。
「阿部、皿くれ」
阿部が渡した皿に、御幸が焼きそばを取り分ける。
ダイエット中の阿部は少なく。
その分三橋にはこれでもかというくらいの大盛りだ。
取り分けた焼きそばに、阿部が青のりを振りかけて、シメの料理が完成した。
「三橋、今シーズンは競争だな。どっちが先に先発ローテに入るか。」
「オレ、が、先!」
「何だと~!?オレに決まってるだろ。」
三橋と沢村は焼きそばを食べながら、仲良くじゃれ合っている。
阿部は「御幸センパイの焼きそば、ちゃんと味わえ!」と叫ぶと、ピタリと黙った。
まるで子供のようなリアクションだ。
「三橋をよろしくお願いします。」
最初に焼きそばを食べ終わった阿部が、御幸に頭を下げた。
三橋と阿部は、またしばらく遠距離恋愛になる。
だから同じ球団の御幸に、三橋のことを託したのだ。
御幸は笑って「できる限りのことはする」と答えた。
すると三橋が「むぅ~」と声を上げた。
子供扱いされたのが、気に入らないのだ。
だがすぐに閃いたと言わんばかりの表情で、沢村と御幸を交互に見ながら口を開く。
「阿部、君、を、よろしく、お願い、します!」
勢いよく頭を下げた三橋に、3人は一瞬驚く。
だがすぐにその意味を理解した。
三橋は寮に戻るが、御幸と沢村はこのマンションに住む。
だから阿部のことを頼むと告げたのだ。
もちろん子供扱いされた意趣返しも含まれている。
「大丈夫」
「まかせろよ。」
沢村と御幸が請け合うと、今度は阿部が拗ねた表情になった。
だがすぐに4人で賑やかに笑う。
そしてまた新しいシーズンが始まるのだ。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
「「美味しい~~♪」」
上機嫌でパクパクと肉を食らう三橋と沢村。
御幸が「お前ら、欠食児童か」と呆れる。
阿部は「野菜も食え、野菜も!」と言いながら、三橋と沢村の皿に野菜を玉ねぎとピーマンを入れた。
もうすぐキャンプイン。
御幸と沢村にとっては、寮を出て初めてのシーズンが始まる。
だが2年目の三橋は、明日寮へ戻る。
だから今夜は、束の間のお別れ会だ。
三橋の部屋にはホットプレートが出されて、その傍らには大量の肉。
つまり今夜の趣向は、焼肉パーティだ。
「阿部はダイエットか?」
あまり箸が進まない阿部に、御幸が聞いた。
阿部は「まぁ気にしてますね」と答える。
体重の増加を、阿部は気にしている。
大学を卒業して、野球を辞めた直後は、かなり体重が増えた。
そこから少しずつ運動と食事制限をしているが、完全には戻っていない。
何しろ、自分によく似た風貌の父親はデップリと太っている。
努力しなければああなると思うと、身が引き締まるのだ。
「別に今日くらいは、食ってもいいだろうに。」
「制限がなくても、三橋や沢村と同じペースでは食えませんよ。」
「・・・そりゃそうか」
阿部と御幸は酒の方がメインで、焼き肉はつまみだ。
ガツガツと肉を頬張る三橋や沢村に比べれば、食べるペースはかなりスロー。
2人が食べて、空いたホットプレートのスペースに新しい肉や野菜を補充しながら、酒を飲む。
御幸は単純に好きな銘柄のビールを飲んでいるが、阿部はプリン体ゼロと銘打たれたものだ。
「オレ、3月から西浦のコーチ、やることにしました。」
「へぇぇ。結局引き受けたのか。」
「ええ。いつかトレーナーになる勉強にもなりますし。」
「でも、仕事と学校もあるし、大変だろ。」
「だから会社を辞めて、契約に」
御幸と阿部が話していると、不意に沢村が会話に割り込んできた。
肉を食っていて、話など聞いていないと思ったのに「阿部、会社を辞めんの!?」と叫ぶ。
だが阿部は「違う!社員を辞めるだけだ!」と文句を言った。
阿部は正社員として雇用されていた会社を辞め、そのまま契約社員となったのだ。
つまり同じ仕事をしながら、時間給で働く。
仕事量も給料も一気に減るが、休みは取りやすく、時間は自由になる。
それを説明すると、沢村は「ふ~ん、そういうのありなんだ」と納得した。
「オレ、阿部君、が、トレーナーに、なる、前に、先発、ローテに入る!」
三橋は勢いよく叫んだが、肉を頬張っているために、説得力は半減だ。
阿部君は「はへふん」に聞こえるし、トレーナーは「ホヘーハー」だ。
沢村と御幸は爆笑し、阿部はガックリと肩を落とす。
だが三橋は肉を飲み込んだ後、もう1度「先発ローテに入る!」と宣言し、また肉を頬張った。
*****
「それじゃ、これも焼くぞ!」
御幸が両手にヘラを持つと、ホットプレートに麺を入れた。
三橋と沢村が「「わ~♪」」と子供のように目を輝かせるのを見て、阿部も御幸も苦笑した。
焼肉パーティは、用意した肉がなくなったことで焼きそばパーティに移行した。
御幸が肉の香りが残ったホットプレートで、鮮やかな手つきで麺を炒める。
残った野菜も全てブチ込み、味付け。
ソースが焦げるいい香りが、部屋中に漂った。
「オレ、最後にピーチチューハイ!」
沢村が勝手知ったる三橋の部屋のキッチンの冷蔵庫から、缶チューハイを取り出す。
そして「三橋もいるか~?」と声を上げると、三橋は「欲しい!」と叫んだ。
御幸と阿部からすれば、まったく理解できない。
その前も2人はグレープフルーツとかシークヮサーだとか、甘そうなものばかり飲んでいる。
よくそれで肉が食えると思うのだ。
「阿部、皿くれ」
阿部が渡した皿に、御幸が焼きそばを取り分ける。
ダイエット中の阿部は少なく。
その分三橋にはこれでもかというくらいの大盛りだ。
取り分けた焼きそばに、阿部が青のりを振りかけて、シメの料理が完成した。
「三橋、今シーズンは競争だな。どっちが先に先発ローテに入るか。」
「オレ、が、先!」
「何だと~!?オレに決まってるだろ。」
三橋と沢村は焼きそばを食べながら、仲良くじゃれ合っている。
阿部は「御幸センパイの焼きそば、ちゃんと味わえ!」と叫ぶと、ピタリと黙った。
まるで子供のようなリアクションだ。
「三橋をよろしくお願いします。」
最初に焼きそばを食べ終わった阿部が、御幸に頭を下げた。
三橋と阿部は、またしばらく遠距離恋愛になる。
だから同じ球団の御幸に、三橋のことを託したのだ。
御幸は笑って「できる限りのことはする」と答えた。
すると三橋が「むぅ~」と声を上げた。
子供扱いされたのが、気に入らないのだ。
だがすぐに閃いたと言わんばかりの表情で、沢村と御幸を交互に見ながら口を開く。
「阿部、君、を、よろしく、お願い、します!」
勢いよく頭を下げた三橋に、3人は一瞬驚く。
だがすぐにその意味を理解した。
三橋は寮に戻るが、御幸と沢村はこのマンションに住む。
だから阿部のことを頼むと告げたのだ。
もちろん子供扱いされた意趣返しも含まれている。
「大丈夫」
「まかせろよ。」
沢村と御幸が請け合うと、今度は阿部が拗ねた表情になった。
だがすぐに4人で賑やかに笑う。
そしてまた新しいシーズンが始まるのだ。
【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
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