「おお振り」×「◆A」6年後
【好きだから怖い】
「オレ、嫌、われ、た?」
三橋はしょんぼりと肩を落とした。
だが沢村は勢い込んで「そんなわけ、あるか!」と声を荒げていた。
ついさっきまで、三橋の部屋で楽しく食事をしていた。
御幸が作った手料理を、御幸と沢村、阿部と三橋で美味しくいただき、賑やかに話をしていた。
そして御幸も近日中にこのマンションに越してくることになり、これからますます楽しくなりそうだったのに。
自主トレの話になった途端、雰囲気が沈んだ。
阿部は仕事の関係で参加できないというのだ。
それから無理矢理話題を変えて、何とか食事を終えた。
すると阿部は逃げるように、隣室の自分の部屋に戻ってしまったのだ。
今のところ、三橋の部屋は御幸と沢村が居候していて、三橋は阿部の部屋で寝泊まりしている。
だが三橋はすっかり意気消沈し、阿部の部屋に行こうとしなかった。
居候の身である御幸と沢村は、食器を洗い、片づけをする。
その間も三橋は、そのままソファでゴロゴロしていた。
阿部の自主トレ不参加もさることながら、それを告げる阿部の口調があまりにも素っ気なかった。
三橋はそこからネガティブな想像を膨らませてしまっているようだ。
「三橋、オレ、阿部と話してくるから、ちょっと隣に行くのを待ってくれ。」
片づけを終えた御幸はそう告げると、部屋を出て行く。
その前に沢村にしっかりと目配せをした。
三橋が勝手に悪い想像で落ち込まないようにしておけという意味だ。
沢村は頷き返すと、三橋の前に座った。
「なぁ」
「オレ、嫌、われ、た?」
「そんなわけ、あるか!」
案の定というべきか、悪い方に沈みかけた三橋に、沢村は大声で喝を入れた。
だが三橋は「そう、かなぁ?」と信用していないようだ。
沢村は心の中で、阿部を罵っていた。
三橋はずっと阿部のことを、大事に想っているのに。
あんなにも素っ気ない態度では、動揺するに決まってるじゃないか!
「オレはバカだから、むずかしいことはわかんねぇ。だけどこれはわかる!」
沢村は勢い込んで、三橋の顔を覗き込む。
その剣幕に驚く三橋に向かって「阿部は廉を嫌わない!絶対にだ!!」と叫んだ。
はっきり言って気の利いたことをいうのは苦手だ。嘘もつけない。
だけど信じていることを大声で伝えることは、迷いなくできる。
沢村の強い口調に、三橋は少しだけ和らいだ声で「そう、思う?」と聞いてきた。
「当たり前だろ。」
沢村はまたしても力強く答えながら、三橋の髪をワシワシとなでた。
あとは御幸がうまく阿部と話してくれていることを祈るだけだ。
*****
「お前、何考えてる?」
阿部の部屋に上がり込むなり、御幸は斬り込んだ。
誤魔化すことは許さないという思いが伝わったのだろう。
阿部は頭をガシガシと掻きながら「怖いんですよ」と答えた。
「どうぞ。メシのお礼っす。」
阿部はそう言いながら、御幸の前に缶ビールを置く。
そして自分の分の缶ビールも開けて、缶のままゴクゴクと飲んだ。
御幸も「遠慮なくいただく」と、缶ビールを飲み始めた。
飲まなければ話しにくいと言うなら、喜んで付き合おう。
「去年までは同じ立場で、面倒見たり、いろいろ教えてたんすよ。」
「そうだな」
「だけど今の俺とあいつは全然違う。プロ野球選手と会社員です。同じ練習なんかできない。ついていけない。」
「それを三橋にバレるのが、怖いってか?」
「そうです。」
「そんなこったろうと思った。」
御幸は大きくため息をついた。
その理由は予想の範囲内どころか、予想のど真ん中だ。
そして御幸が言うべき言葉は1つしかない。
「お前、三橋の専属トレーナーになるつもりなんだろ?」
「はい」
「だったら自主トレに来い。三橋の今の状態をしっかりチェックしとけ」
「でも」
「何ならトレーナーに専念して、練習しなくたっていいだろ」
「行ったら、練習したくなりますよ。」
「だったらやれる範囲でやればいい。とにかく絶対来い。仕事があるなら1日でも2日でもいいから」
御幸の強い言葉に、阿部は「はぁ」と要領を得ない返事だ。
だけど「行くのは無理」と言っていた先程よりは、軟化してきた。
ここがチャンスとばかりに、御幸は畳み掛けにかかった。
「お前が来るだけで、三橋が元気になるんだよ。」
「そう、すか?」
「さっきだって、お前が自主トレ行かないって言っただけで、テンションダダ下がりだっただろ。」
「はぁ、まぁ」
「大事なヤツ、泣かしてんじゃねーぞ。じゃあ三橋呼ぶからな。」
御幸は残りの缶ビールを一気に飲み干すと、再び三橋の部屋に戻っていく。
ほどなくして入れ替わりに入ってきた三橋は、思いっきり阿部に抱き付いた。
阿部はプロ入りして一回り大きくなった身体を抱きしめ、耳元で「ゴメンな」と囁いた。
【続く】
「オレ、嫌、われ、た?」
三橋はしょんぼりと肩を落とした。
だが沢村は勢い込んで「そんなわけ、あるか!」と声を荒げていた。
ついさっきまで、三橋の部屋で楽しく食事をしていた。
御幸が作った手料理を、御幸と沢村、阿部と三橋で美味しくいただき、賑やかに話をしていた。
そして御幸も近日中にこのマンションに越してくることになり、これからますます楽しくなりそうだったのに。
自主トレの話になった途端、雰囲気が沈んだ。
阿部は仕事の関係で参加できないというのだ。
それから無理矢理話題を変えて、何とか食事を終えた。
すると阿部は逃げるように、隣室の自分の部屋に戻ってしまったのだ。
今のところ、三橋の部屋は御幸と沢村が居候していて、三橋は阿部の部屋で寝泊まりしている。
だが三橋はすっかり意気消沈し、阿部の部屋に行こうとしなかった。
居候の身である御幸と沢村は、食器を洗い、片づけをする。
その間も三橋は、そのままソファでゴロゴロしていた。
阿部の自主トレ不参加もさることながら、それを告げる阿部の口調があまりにも素っ気なかった。
三橋はそこからネガティブな想像を膨らませてしまっているようだ。
「三橋、オレ、阿部と話してくるから、ちょっと隣に行くのを待ってくれ。」
片づけを終えた御幸はそう告げると、部屋を出て行く。
その前に沢村にしっかりと目配せをした。
三橋が勝手に悪い想像で落ち込まないようにしておけという意味だ。
沢村は頷き返すと、三橋の前に座った。
「なぁ」
「オレ、嫌、われ、た?」
「そんなわけ、あるか!」
案の定というべきか、悪い方に沈みかけた三橋に、沢村は大声で喝を入れた。
だが三橋は「そう、かなぁ?」と信用していないようだ。
沢村は心の中で、阿部を罵っていた。
三橋はずっと阿部のことを、大事に想っているのに。
あんなにも素っ気ない態度では、動揺するに決まってるじゃないか!
「オレはバカだから、むずかしいことはわかんねぇ。だけどこれはわかる!」
沢村は勢い込んで、三橋の顔を覗き込む。
その剣幕に驚く三橋に向かって「阿部は廉を嫌わない!絶対にだ!!」と叫んだ。
はっきり言って気の利いたことをいうのは苦手だ。嘘もつけない。
だけど信じていることを大声で伝えることは、迷いなくできる。
沢村の強い口調に、三橋は少しだけ和らいだ声で「そう、思う?」と聞いてきた。
「当たり前だろ。」
沢村はまたしても力強く答えながら、三橋の髪をワシワシとなでた。
あとは御幸がうまく阿部と話してくれていることを祈るだけだ。
*****
「お前、何考えてる?」
阿部の部屋に上がり込むなり、御幸は斬り込んだ。
誤魔化すことは許さないという思いが伝わったのだろう。
阿部は頭をガシガシと掻きながら「怖いんですよ」と答えた。
「どうぞ。メシのお礼っす。」
阿部はそう言いながら、御幸の前に缶ビールを置く。
そして自分の分の缶ビールも開けて、缶のままゴクゴクと飲んだ。
御幸も「遠慮なくいただく」と、缶ビールを飲み始めた。
飲まなければ話しにくいと言うなら、喜んで付き合おう。
「去年までは同じ立場で、面倒見たり、いろいろ教えてたんすよ。」
「そうだな」
「だけど今の俺とあいつは全然違う。プロ野球選手と会社員です。同じ練習なんかできない。ついていけない。」
「それを三橋にバレるのが、怖いってか?」
「そうです。」
「そんなこったろうと思った。」
御幸は大きくため息をついた。
その理由は予想の範囲内どころか、予想のど真ん中だ。
そして御幸が言うべき言葉は1つしかない。
「お前、三橋の専属トレーナーになるつもりなんだろ?」
「はい」
「だったら自主トレに来い。三橋の今の状態をしっかりチェックしとけ」
「でも」
「何ならトレーナーに専念して、練習しなくたっていいだろ」
「行ったら、練習したくなりますよ。」
「だったらやれる範囲でやればいい。とにかく絶対来い。仕事があるなら1日でも2日でもいいから」
御幸の強い言葉に、阿部は「はぁ」と要領を得ない返事だ。
だけど「行くのは無理」と言っていた先程よりは、軟化してきた。
ここがチャンスとばかりに、御幸は畳み掛けにかかった。
「お前が来るだけで、三橋が元気になるんだよ。」
「そう、すか?」
「さっきだって、お前が自主トレ行かないって言っただけで、テンションダダ下がりだっただろ。」
「はぁ、まぁ」
「大事なヤツ、泣かしてんじゃねーぞ。じゃあ三橋呼ぶからな。」
御幸は残りの缶ビールを一気に飲み干すと、再び三橋の部屋に戻っていく。
ほどなくして入れ替わりに入ってきた三橋は、思いっきり阿部に抱き付いた。
阿部はプロ入りして一回り大きくなった身体を抱きしめ、耳元で「ゴメンな」と囁いた。
【続く】