「おお振り」×「◆A」6年後
【日本シリーズ、始まる】
「よ~し、いいぞ!三橋!!」
「ナイスピッチング!」
三橋の投球を2人の捕手が褒めてくれる。
思いかけないぜいたくに、三橋は「ウヒ」と笑った。
クライマックスシリーズに敗退し、御幸と三橋のシーズンは終わった。
そして今日は日本シリーズ初戦。
三橋は自宅マンションに戻り、そこへ御幸が泊まりに来ていた。
日本シリーズ期間は、一緒にテレビ観戦しながら過ごそうということになったのだ。
ちなみに夜は、三橋は阿部の部屋で眠るのだが。
とにかく試合までの時間つぶしに、3人は連れ立って、部屋を出た。
向かったのは、近所の草野球用のグラウンド。
確か都だか区だかの持ち物で、使用するためには区役所に申請を出さなければならない。
だが空いていれば、少しだけ拝借しても問題ないだろう。
まずは軽いストレッチの後、キャッチボールだ。
3人とも三角形になってやるキャッチボールは、学生時代以来。
口々に「何だか懐かしい」と言いながら、肩を温めた。
そして御幸がホームベースの後ろの定位置に座って、かまえる。
三橋はもちろんマウンドで、阿部は御幸の後ろ、審判の位置に立った。
三橋はマウンドで、深呼吸をした。
この投球は暇つぶしの単なる遊びに過ぎない。
だがプロ入りして、シーズンを終えて初めて、阿部の前で投げるのだ。
この1年の集大成を直に見てもらえる。
三橋は秘かに燃えていた。
すべての想いを込めて、球を投げる。
リーグ優勝した喜びも、クライマックスシリーズに出られなかった悔しさも、支えてくれた人たちへの感謝も。
でも力まないようにリラックスして、そうだ、サードランナー!
それは高校時代のイメトレの成果だった。
サードランナーがいるときは、攻撃でも守備でも緊迫する場面。
そんなときでも落ち着いていられるように、サードランナーを見たら落ち着くようにとメントレした。
それを思い出しながら、三橋は今は誰もいないサードベースを見る。
そしてゆっくりと振りかぶっって、投げた。
「よ~し、いいぞ!三橋!!」
「ナイスピッチング!」
三橋の投球を2人の捕手が褒めてくれる。
思いかけないぜいたくに、三橋は「ウヒ」と笑った。
自分でもいい球が投げられたと思う。
「いい調子だな、三橋。あと10球、行こう!」
「終わったら、次はオレが受けるから」
2人の捕手の言葉に、三橋は「うぉぉ!」と叫んでいた。
日本でもトップクラスの捕手に投げた後、ベタ惚れの恋人である捕手にも投げられる。
なんとも豪華で、もったいないような話だ。
「叫んでないで、早く投げろ~!」
御幸がそう言って、パンパンとミットを叩いた。
三橋は嬉しくて、笑う。
2人の捕手に投げられるぜいたくと一時期落ち込んでいた御幸が元気であることを、心から喜んだ。
*****
「よっしゃ~!やってやる~~!」
試合前のロッカールームで、メールを確認した沢村は絶叫した。
その途端、チームメイトたちから一斉に「沢村、うるせーよ!」と怒声が飛んだ。
もうすぐ日本シリーズが始まる。
沢村は球場のロッカールームにいた。
夢にまで見た舞台に、もうすぐ立てる。
もっとも先発メンバーではない沢村は、出番があるかどうかはわからない。
それでもいつでも行けるように、準備を怠ってはならない。
テンションを高めていたところに、メールだ。
差出人はこのところ元気がなさそうな恋人だった。
最近はメールばかりで、声も聴いていない。
そしてそのメールも減りつつあった。
まさか、別れ話!?
もしかして試合前に読まない方がいいのか!?
沢村はそんなことを妄想して、少し焦る。
だが読まないという選択肢はなかった。
読まなければ内容が気になって、試合に集中できないのは確実だからだ。
ドキドキしながら開いたメールのタイトルは「がんばれ!」だ。
これならそんなに悪い内容ではなさそうだ。
少しホッとしながら、沢村はメールを開いた。
日本シリーズの間は、三橋の部屋で居候する。
阿部も含めて3人でテレビ観戦するから、がんばれ。
あと日本シリーズが終わったら、お前も来い。
今まで離れていた分、楽しく過ごそう。
三橋も阿部も会うのを楽しみにしているそうだ。
もちろんオレもだけどな。
御幸にしては長いメールだった。
読み終わった沢村は「よっしゃ~!やってやる~~!」と絶叫し、チームメイトたちから怒られた。
慌てて「すんません~!」と叫ぶが、顔はニヤけてしまう。
御幸がニヤリと笑っているのが見えるようなメールだ。
そして日本シリーズが終わったら、また恋人に戻れる。
携帯電話をカバンに戻そうとした瞬間、またメールだ。
今度は三橋からだった。
タイトルは「テレビで見るよ」きっと日本シリーズのことだろう。
沢村はニヤケ顔のまま、またメールを開いた。
日本シリーズ、うちでテレビで、阿部君と御幸センパイと3人で見るよ。
御幸センパイも元気になったみたい。
栄純君に会いたがってるよ。
そのメールを見た沢村は「がんばるぞ~!」と叫び、また怒声を浴びる。
だがテンションは最高潮だ。
みんなの想いを背負った沢村は、戦いの地であるグラウンドに向かった。
【続く】
「よ~し、いいぞ!三橋!!」
「ナイスピッチング!」
三橋の投球を2人の捕手が褒めてくれる。
思いかけないぜいたくに、三橋は「ウヒ」と笑った。
クライマックスシリーズに敗退し、御幸と三橋のシーズンは終わった。
そして今日は日本シリーズ初戦。
三橋は自宅マンションに戻り、そこへ御幸が泊まりに来ていた。
日本シリーズ期間は、一緒にテレビ観戦しながら過ごそうということになったのだ。
ちなみに夜は、三橋は阿部の部屋で眠るのだが。
とにかく試合までの時間つぶしに、3人は連れ立って、部屋を出た。
向かったのは、近所の草野球用のグラウンド。
確か都だか区だかの持ち物で、使用するためには区役所に申請を出さなければならない。
だが空いていれば、少しだけ拝借しても問題ないだろう。
まずは軽いストレッチの後、キャッチボールだ。
3人とも三角形になってやるキャッチボールは、学生時代以来。
口々に「何だか懐かしい」と言いながら、肩を温めた。
そして御幸がホームベースの後ろの定位置に座って、かまえる。
三橋はもちろんマウンドで、阿部は御幸の後ろ、審判の位置に立った。
三橋はマウンドで、深呼吸をした。
この投球は暇つぶしの単なる遊びに過ぎない。
だがプロ入りして、シーズンを終えて初めて、阿部の前で投げるのだ。
この1年の集大成を直に見てもらえる。
三橋は秘かに燃えていた。
すべての想いを込めて、球を投げる。
リーグ優勝した喜びも、クライマックスシリーズに出られなかった悔しさも、支えてくれた人たちへの感謝も。
でも力まないようにリラックスして、そうだ、サードランナー!
それは高校時代のイメトレの成果だった。
サードランナーがいるときは、攻撃でも守備でも緊迫する場面。
そんなときでも落ち着いていられるように、サードランナーを見たら落ち着くようにとメントレした。
それを思い出しながら、三橋は今は誰もいないサードベースを見る。
そしてゆっくりと振りかぶっって、投げた。
「よ~し、いいぞ!三橋!!」
「ナイスピッチング!」
三橋の投球を2人の捕手が褒めてくれる。
思いかけないぜいたくに、三橋は「ウヒ」と笑った。
自分でもいい球が投げられたと思う。
「いい調子だな、三橋。あと10球、行こう!」
「終わったら、次はオレが受けるから」
2人の捕手の言葉に、三橋は「うぉぉ!」と叫んでいた。
日本でもトップクラスの捕手に投げた後、ベタ惚れの恋人である捕手にも投げられる。
なんとも豪華で、もったいないような話だ。
「叫んでないで、早く投げろ~!」
御幸がそう言って、パンパンとミットを叩いた。
三橋は嬉しくて、笑う。
2人の捕手に投げられるぜいたくと一時期落ち込んでいた御幸が元気であることを、心から喜んだ。
*****
「よっしゃ~!やってやる~~!」
試合前のロッカールームで、メールを確認した沢村は絶叫した。
その途端、チームメイトたちから一斉に「沢村、うるせーよ!」と怒声が飛んだ。
もうすぐ日本シリーズが始まる。
沢村は球場のロッカールームにいた。
夢にまで見た舞台に、もうすぐ立てる。
もっとも先発メンバーではない沢村は、出番があるかどうかはわからない。
それでもいつでも行けるように、準備を怠ってはならない。
テンションを高めていたところに、メールだ。
差出人はこのところ元気がなさそうな恋人だった。
最近はメールばかりで、声も聴いていない。
そしてそのメールも減りつつあった。
まさか、別れ話!?
もしかして試合前に読まない方がいいのか!?
沢村はそんなことを妄想して、少し焦る。
だが読まないという選択肢はなかった。
読まなければ内容が気になって、試合に集中できないのは確実だからだ。
ドキドキしながら開いたメールのタイトルは「がんばれ!」だ。
これならそんなに悪い内容ではなさそうだ。
少しホッとしながら、沢村はメールを開いた。
日本シリーズの間は、三橋の部屋で居候する。
阿部も含めて3人でテレビ観戦するから、がんばれ。
あと日本シリーズが終わったら、お前も来い。
今まで離れていた分、楽しく過ごそう。
三橋も阿部も会うのを楽しみにしているそうだ。
もちろんオレもだけどな。
御幸にしては長いメールだった。
読み終わった沢村は「よっしゃ~!やってやる~~!」と絶叫し、チームメイトたちから怒られた。
慌てて「すんません~!」と叫ぶが、顔はニヤけてしまう。
御幸がニヤリと笑っているのが見えるようなメールだ。
そして日本シリーズが終わったら、また恋人に戻れる。
携帯電話をカバンに戻そうとした瞬間、またメールだ。
今度は三橋からだった。
タイトルは「テレビで見るよ」きっと日本シリーズのことだろう。
沢村はニヤケ顔のまま、またメールを開いた。
日本シリーズ、うちでテレビで、阿部君と御幸センパイと3人で見るよ。
御幸センパイも元気になったみたい。
栄純君に会いたがってるよ。
そのメールを見た沢村は「がんばるぞ~!」と叫び、また怒声を浴びる。
だがテンションは最高潮だ。
みんなの想いを背負った沢村は、戦いの地であるグラウンドに向かった。
【続く】