「おお振り」×「◆A」6年後

【リーグ優勝!】

「やったぁぁ~♪」
その瞬間、ベンチから監督、コーチ、選手たちが飛び出して来た。
目指すのはマウンド。
試合の最後を締めたのは、この日クローザーとして登場した三橋だった。

シーズン終盤、御幸たちのチームはついにリーグ優勝を決めた。
ケガで戦列を外れた三橋が一軍に戻るなり、チームは急に神がかったように勝ち始めたのだ。
もちろん三橋の力などではなく、どちらかといえば偶然だ。
だが三橋の復帰とチームの調子がうまくリンクした。
相乗効果のように三橋も調子を上げ、終盤はクローザーとしてマウンドに立つ機会が増えた。

阿部はその様子を、テレビで見ていた。
歓喜に沸くマウンドで、もみくちゃにされる三橋。
御幸が三橋の髪を乱暴にガシガシとなでている。
阿部は缶ビールをテレビ画面に向かって、軽く掲げた。
そしてゴクゴクと飲みながら、またテレビを凝視する。
隣にいることはできない。
だからせめてテレビの前で乾杯することくらいは、許してほしい。

「すごい投手になっちまったなぁ。」
阿部はたちまち缶ビールを1本、空にして、2本目を開けながらひとりごちた。
ケガからの復帰以降、連日連投。今やもう注目選手だ。
あいつがオレの恋人で、オレのエース。
画面の中で笑う三橋を見るたびに、誇らしいし、嬉しい。

「御幸センパイ、三橋に触り過ぎ!」
普段はビールは1日2本までと決めているが、今日は特別。
阿部は勝手にそう決めて、3本目のビールを開けた。
程よく酔いが回った頭でテレビを見ると、三橋と御幸が抱き合っている場面だった。
別に、優勝を決めた投手と捕手が抱き合うなんて、珍しいことではない。
だけどやはり隣にいられないことが悔しいし、御幸に少しだけ嫉妬してしまう。

結局夜のスポーツニュースをザッピングしながら、阿部は5本のビールを開けてしまった。
三橋には「優勝おめでとう!日本シリーズまで頑張れ!」とメールを送った。
そして御幸にも「おめでとうございます」と短いメールを送る。
そのまま酔いにまかせるように、ベットに倒れ込んだ。
翌朝、目を覚ました阿部は、メールの返信に気がついた。

メール、ありがとう。
ビールかけるだけでよっぱらうなんて知らなかった。
飲んでないのに、今日はふつかよいです。
シャワーあびたのに、カラダがビールくさいです。

三橋のメールは、ほとんど優勝祝賀会のビールかけの感想だった。
阿部は「そういうものか」と感心してしまう。
そして次に御幸からのメールを開けた。

メールありがとう。CSや日本シリーズも頑張る。
昨日は思わず三橋に抱きついちまったけど、不可抗力だ。嫉妬するな。

まるで阿部の気持ちを読んだかのような内容に、阿部は思わず「マジか」と声を上げた。
この文章を打っているときの、御幸の悪戯っぽい笑顔さえ想像できてしまう。
阿部はため息をつくと「バレバレなのかよ」とため息をついた。

*****

チクショウ、マジか!?
沢村は御幸たちのリーグ優勝を、別の球場で試合中に知らされた。
しかも試合を締めたクローザーが三橋とあっては、ライバル心をしっかりと刺激された。

沢村も一軍で頑張っている。
シーズン半ばには、二軍に落とされていた。
ケガで二軍調整をした三橋と比べたら、倍以上長い時間だ。
もしもケガなら、治ったらというモチベーションで頑張れる。
だが成績不振などでは、いつまでという保証がない。
ともすれば、心はくじけそうになる。
もう二度と一軍に上がれないのではないかと。
それでもなんとか頑張って、とりあえず一軍セットアッパーのポジションには定着できたと思う。

チームは優勝争いに今1つ手が届かない場所にいた。
御幸たちのチームはシーズン終盤に神がかり的に連勝を重ねていたからだ。
だから今、沢村たちのチームは2位争い中だ。
何とか2位に、最悪でも3位に。
そうすればとにかくCS(クライマックスシリーズ)には、進める。

それでも御幸たちが優勝を決めたのは、やはり悔しかった。
もう追いつけないだろうと覚悟はしていたが、やはり負けるのは嫌だ。
しかも寮に戻って、スポーツニュースをチェックすると、御幸と三橋が抱き合って喜ぶ映像が出てくる。

「クライマックスシリーズがあって、よかったなぁ」
自室で沢村はポツリとひとりごとを言った。
昔だったら、もう終わりなのだ。
CSがなければ、優勝チーム以外は先がない。
シーズンの残り、消化試合をこなすだけになる。
後はヒットなり、勝ち星なり、個人成績を伸ばすことに専念することになる。
だが今なら、まだまだCSという敗者復活の逆転チャンスがあるのだ。

「絶対に負けねぇ!」
沢村は1人、絶叫で宣言すると、寮のあちこちから「沢村、うるせー!」と怒声が飛んできた。
高校の寮生活でも、この寮でも、思い込んだら絶叫する沢村に周囲はすっかり慣らされている。
沢村も「すんません!」と叫び返すと、メールを打ち始めた。

優勝おめでとう!CSで会おう!負けねーぞ!
これは三橋宛てだ。そして御幸には。

優勝おめでとうございます。三橋とイチャイチャよろこんでた映像、見ました。
御幸宛てには、ちょっとだけ皮肉を聞かせた文章を送った。
翌朝には、2人から返信が来た。
おそらくメールを見せ合ったのだろう。

ありがとう。CS、オレも負けない。
御幸センパイとは喜んでただけで、イチャツイテマセン。
三橋からの返信に、しっかりと御幸へのメールの答えが書かれていた。そして御幸は。

CSで会おう。絶対に負けない。
オレの恋人は嫉妬深いけど、かわいい。

御幸のメールを読んだ沢村は朝っぱらから絶叫した。
そしてまた寮のあちこちから「沢村、うるせー!」と怒声が飛ばされることになったのだった。

【続く】
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