「おお振り」×「◆A」6年後
【オールスター!その2】
「カ、カン、パ~イ!」
三橋が吃音気味のしまらない声で、音頭を取った。
3つのグラスがカチンと、小気味のいい音で合わさり鳴った。
オールスターゲーム第1戦の夜、沢村は三橋のマンションにいた。
聞いてほしい話があったからだ。
三橋に会って話したいと電話を入れたら、じゃあマンションにおいでと誘ってくれたのだ。
もちろん最初はことわった。
三橋と阿部は2人っきりで夜を過ごすつもりだったはずだ。
いくら何でもそこに乱入するのは、躊躇われる。
でも三橋は「久し、ぶり、に、会おう、よ!」と何度も言ってくれた。
かくして3人で、テレビ観戦することになった。
阿部はビール、沢村と三橋は缶入りのチューハイで乾杯だ。
そしてコンビニで買い出した惣菜を並べて、小さなパーティが始まった。
「本当に悪い!」
沢村は阿部に頭を下げた。
三橋が強く誘ってくれたから来たものの、阿部からは事前の了解を取っていない。
阿部と三橋だって、なかなか2人きりの時間が取れないのは一緒なのだ。
だが阿部は「いいよ。オレもお前と飲みたかったし」と笑ってくれた。
実は阿部は、沢村と一緒にいると楽しそうな三橋を見るのが好きなのだ。
だけどさすがに沢村の洞察力では、そこまで察することは無理だった。
「御幸、先輩、出てる!」
「そりゃ出てるよ。去年も出てただろ!」
「でも、今年は、違って、見える。オレ、一応、プロだし」
「一応って。。。」
沢村にとっても、阿部にとっても、オールスター戦に出ている御幸は去年と同じに見える。
だが三橋にとっては違う。
去年まではただの大学生だが、今年はプロ野球選手だ
御幸だって去年までは偉大な雲の上の先輩だが、今年からはチームメイトなのだ。
同じステージに上がれば、改めて御幸の偉大さが見えてきたりする。
「で、栄純、君。話って」
「オレがいたら嫌なら、自分の部屋に行くけど。」
三橋と阿部は相変わらず優しく、気が利いている。
沢村は「阿部もいてくれ」と答えると、グラスに残ったチューハイを一気に飲み干した。
「御幸先輩、あんなにすごいのにちゃんとした彼女がいないって、どうなのかな?」
沢村は一気飲みした勢いのまま、そう言った。
阿部と三橋は顔を見合わせると、思ったより重い話題に思わず身構えていた。
*****
「マジか」
オールスター第1戦が終わった後のロッカールームで、御幸はスマートフォンをチェックした。
そして送られたメールを見て、思わず声が出てしまった。
このところ沢村の様子がおかしい気がする。
気がするというのは、御幸はなかなか沢村と直接会えないからだ。
お互いプロ野球選手だし、時間が取れないのは仕方ない。
とはいえ、電話やメールだとやはりわからないのだ。
何となく素っ気ないような気はするが、表情が見えないので断定できない。
オールスター戦の間、三橋のマンションに行くらしい。
だがそれも教えてくれたのは三橋で、沢村からは何も言われなかった。
もしかして、オレに飽きたのか。
まさか三橋に別れ話の相談でもするつもりなのか。
そう思うと、落ち着かない気分になる。
それでもプロである以上、手を抜くわけにはいかない。
しかもオールスターは、プロの中でも選ばれた選手の夢のステージなのだ。
必死にそう言い聞かせて、御幸は試合に臨んだ。
三橋と阿部が沢村と一緒に過ごせるのが羨ましいとは、口が裂けても言えない。
試合が終わって、スマホを確認した御幸は、まず沢村からの着信を捜した。
だけどそれはなかった。
親や学生時代のチームメイトたちばかりだ。
きっと「テレビを見ていた」とか「頑張っているな」という文面ばかりだろう。
去年もそうだったから、予想がつく。
御幸はその中から、三橋からのメールを選んで、開けた。
今頃、沢村と一緒にいるはずだから、何か沢村の話が聞けるかもしれない。
そんな気持ちからだ。
そして自分がいかに焦っているのかと思い知る。
あの賑やかで子供みたいな男に、どれだけ心を奪われていることか。
だが三橋からのメールを見た瞬間、御幸は拍子抜けした。
栄純君は御幸センパイが大好きです。
それだけ書かれたメールに添付された画像は、テレビ画面をじっと見ている沢村だ。
テレビの画面はボヤけているが、試合中の御幸なのだろうか。
続いて阿部からのメールを開けて、御幸は笑い出してしまった。
三橋が御幸センパイがカッコいいって言い出して、沢村が嫉妬してます。
そう書かれたメールには、沢村と三橋が笑いながらテレビを見ている画像が添付されていた。
どうやら別れ話の心配は、いらないようだ。
御幸は2つのメールの画像を保存すると、スマホをカバンにしまった。
オールスター戦の残りの試合も、これで頑張れそうだ。
【続く】
「カ、カン、パ~イ!」
三橋が吃音気味のしまらない声で、音頭を取った。
3つのグラスがカチンと、小気味のいい音で合わさり鳴った。
オールスターゲーム第1戦の夜、沢村は三橋のマンションにいた。
聞いてほしい話があったからだ。
三橋に会って話したいと電話を入れたら、じゃあマンションにおいでと誘ってくれたのだ。
もちろん最初はことわった。
三橋と阿部は2人っきりで夜を過ごすつもりだったはずだ。
いくら何でもそこに乱入するのは、躊躇われる。
でも三橋は「久し、ぶり、に、会おう、よ!」と何度も言ってくれた。
かくして3人で、テレビ観戦することになった。
阿部はビール、沢村と三橋は缶入りのチューハイで乾杯だ。
そしてコンビニで買い出した惣菜を並べて、小さなパーティが始まった。
「本当に悪い!」
沢村は阿部に頭を下げた。
三橋が強く誘ってくれたから来たものの、阿部からは事前の了解を取っていない。
阿部と三橋だって、なかなか2人きりの時間が取れないのは一緒なのだ。
だが阿部は「いいよ。オレもお前と飲みたかったし」と笑ってくれた。
実は阿部は、沢村と一緒にいると楽しそうな三橋を見るのが好きなのだ。
だけどさすがに沢村の洞察力では、そこまで察することは無理だった。
「御幸、先輩、出てる!」
「そりゃ出てるよ。去年も出てただろ!」
「でも、今年は、違って、見える。オレ、一応、プロだし」
「一応って。。。」
沢村にとっても、阿部にとっても、オールスター戦に出ている御幸は去年と同じに見える。
だが三橋にとっては違う。
去年まではただの大学生だが、今年はプロ野球選手だ
御幸だって去年までは偉大な雲の上の先輩だが、今年からはチームメイトなのだ。
同じステージに上がれば、改めて御幸の偉大さが見えてきたりする。
「で、栄純、君。話って」
「オレがいたら嫌なら、自分の部屋に行くけど。」
三橋と阿部は相変わらず優しく、気が利いている。
沢村は「阿部もいてくれ」と答えると、グラスに残ったチューハイを一気に飲み干した。
「御幸先輩、あんなにすごいのにちゃんとした彼女がいないって、どうなのかな?」
沢村は一気飲みした勢いのまま、そう言った。
阿部と三橋は顔を見合わせると、思ったより重い話題に思わず身構えていた。
*****
「マジか」
オールスター第1戦が終わった後のロッカールームで、御幸はスマートフォンをチェックした。
そして送られたメールを見て、思わず声が出てしまった。
このところ沢村の様子がおかしい気がする。
気がするというのは、御幸はなかなか沢村と直接会えないからだ。
お互いプロ野球選手だし、時間が取れないのは仕方ない。
とはいえ、電話やメールだとやはりわからないのだ。
何となく素っ気ないような気はするが、表情が見えないので断定できない。
オールスター戦の間、三橋のマンションに行くらしい。
だがそれも教えてくれたのは三橋で、沢村からは何も言われなかった。
もしかして、オレに飽きたのか。
まさか三橋に別れ話の相談でもするつもりなのか。
そう思うと、落ち着かない気分になる。
それでもプロである以上、手を抜くわけにはいかない。
しかもオールスターは、プロの中でも選ばれた選手の夢のステージなのだ。
必死にそう言い聞かせて、御幸は試合に臨んだ。
三橋と阿部が沢村と一緒に過ごせるのが羨ましいとは、口が裂けても言えない。
試合が終わって、スマホを確認した御幸は、まず沢村からの着信を捜した。
だけどそれはなかった。
親や学生時代のチームメイトたちばかりだ。
きっと「テレビを見ていた」とか「頑張っているな」という文面ばかりだろう。
去年もそうだったから、予想がつく。
御幸はその中から、三橋からのメールを選んで、開けた。
今頃、沢村と一緒にいるはずだから、何か沢村の話が聞けるかもしれない。
そんな気持ちからだ。
そして自分がいかに焦っているのかと思い知る。
あの賑やかで子供みたいな男に、どれだけ心を奪われていることか。
だが三橋からのメールを見た瞬間、御幸は拍子抜けした。
栄純君は御幸センパイが大好きです。
それだけ書かれたメールに添付された画像は、テレビ画面をじっと見ている沢村だ。
テレビの画面はボヤけているが、試合中の御幸なのだろうか。
続いて阿部からのメールを開けて、御幸は笑い出してしまった。
三橋が御幸センパイがカッコいいって言い出して、沢村が嫉妬してます。
そう書かれたメールには、沢村と三橋が笑いながらテレビを見ている画像が添付されていた。
どうやら別れ話の心配は、いらないようだ。
御幸は2つのメールの画像を保存すると、スマホをカバンにしまった。
オールスター戦の残りの試合も、これで頑張れそうだ。
【続く】