空10題-夜空編
【ミルキーウェイ】
野球を題材にした映画とかドラマってよくあるよな。
特に高校野球をテーマにした話って多い。
現役高校球児としては、ついついそういうの見てしまう。
だけど「え~?」とか「そりゃないだろ」って思うものも多い。
ものすごく違和感を感じるんだ。
パッと見の違和感は、やっぱり身体つきだ。
真剣に甲子園を目指す高校球児はまず身体を作るんだ。
球児を演じる俳優だって、そりゃ鍛えてはあるんだろうけど。
でもタレントの見せる身体と、実際の球児の勝つための身体はまるで違う。
いや所詮ドラマなんて作り物なんだし、リアリティを追求しすぎるのも無粋だとはわかってる。
だけど身体とか目に付きやすいところは、ちゃんとして欲しいと思うんだ。
オレって変か?
なんでそんなことを思ったかって?
実は最近、そういう映画を見たからだ。
映画館で見たわけじゃなくて、たまたまテレビで放送されてた。
主役は野球部員ではなくて、マネージャー。
病気の友人の代わりに野球部のマネージャーになった主人公が、組織管理論の本を頼りに甲子園を目指す話だ。
主役を演じるのは、今人気絶頂のアイドルグループでトップを張る人気の女性タレント。
とにかくツッコミポイントは満載だったんだけど、口に出すのは止めた。
いつの間にか家族も一緒に見てたからだ。
だけど公式戦のベンチに2人の女子マネージャーが入っていたのを見たときには、舌打ちしてしまった。
記録員としてベンチに入れるのは1人と決まっている。
これも補欠選手を入れるのか、マネージャーを入れるかと、なかなかもめる話なんだ。
せめて基本的なルールくらいは守ってもらえないもんかな。
だけど全部見終わった母親は「すごくおもしろい」って、感想を言った。
妹はこれのアニメ版を見たらしくて「あっちゃんはみなみのイメージじゃない!」と文句を言ってた。
まさに人それぞれ、感じ方って違うよな。
えっと、悪い。話がちょっと脱線した。
今回はマネージャーと応援団のお話。
野球部と一緒に頑張っても、決して試合に出ることはない彼らについて考えてみた。
チクショウ、やっぱり眠れねーよ。
深夜バスの車中で、オレは恨みがましい気持ちになった。
これで3回目の深夜移動だ。
オレたち背番号のない部員と応援団、ブラバンは深夜バスで甲子園に向かう。
車内では、全員2回目も3回目も最初と同じ席に座ってる。
誰が言い出したわけじゃないんだけど、何となくそうなった。
これがオレにとっての不運だった。
オレは後ろ寄りの左側、2人掛けの通路側の席だった。
そして後ろの2席は、2年生の女子マネージャーが2人並んでいた。
コイツらがとにかくずっと喋ってるんだ。
まったく夏休みの間、部活でずっと一緒で、特にこの2人は話し込んでいることが多い。
よく話題が尽きないもんだよな。
もしドラ見た?
片割れがそう言うと、もう1人が「見た、見た!」と答えている。
静まり返った車内に響くヒソヒソ声。
一応気を使って声を小さくしているつもりなんだろうけど、返って耳障りだ。
マネジが2人でベンチに入れるっていいよね。
その言葉にオレはなるほどと思った。
選手は18人、だけど記録員の枠は1つしかない。
しかもそれだってマネージャーが取れるとは限らない。
背番号をもらえなかった選手だって、この1枠が欲しいと熱望するだろう。
マネージャー2人が公式戦のベンチで、並んで応援する。
オレは現実にはありえないと舌打ちしたけど、コイツらにとっては。
現実の世界でも可能であって欲しい、ステキな夢なんだ。
西浦高校野球部は男子部員が約50名に対して、女子マネージャーは5名。
2年生2名と1年生2名、そして3年の篠岡先輩だ。
男ばっかりの野球部の中では、どうしても少数派になる。
必然的に固まっていることが多い。
5人で何か喋っているのもよく見るけど、同じ学年のヤツはだいたい一緒にいる。
してみると今の3年生が1年の時、篠岡先輩ってどうしてたんだろう。
男ばっかり10名の中に、たった1人の女子。
それって実はすごく孤独だったんじゃないだろうか。
データ作りや練習の合間のおにぎりやドリンク作りとか練習の補助とか。
今はマネジと補欠部員が分担している雑用一切を、全部1人でやってたっていう。
昼休みに黙々とグラウンドの草むしりしてたって話も聞いたことがある。
どれだけ頑張っても絶対に試合に出られないのに、何を思いながらやってたんだろう。
だただた野球部のためになんて、オレには絶対に出来ない作業だ。
篠岡先輩と阿部先輩が付き合ってるってホントかな。
ふとそんな声が聞こえてきて、オレは思わず声を上げそうになった。
阿部先輩と篠岡先輩が付き合ってる?
オレはとても信じられなかったけど、マネジの片割れは「ホントじゃない?」って答えた。
だけど2人はこの話題はそれ以上膨らませることはなかった。
甲子園の決勝の日は旧暦の七夕だと言い出し、織姫だ彦星だとどうでもいい話題を延々と話している。
ほら、そこ。寝てる人もいるんだから、静かに。
マネジ2人と通路を挟んで反対側から、不意にそんな声がかかった。
応援団の団長、浜田先輩だ。
女子マネ2人は「すみません」とあやまると、静かになった。
浜田先輩はチラリとオレの方を見て、少しだけ口元を緩ませたように見えた。
多分2人の声でオレが眠れないでいたのに気がついて、注意してくれたようだ。
オレは軽く浜田先輩に会釈を返すと、目を閉じた。
篠岡先輩は野球部のために尽くしてくれる、すごいマネージャー。
正直言ってそれしかオレは知らない。
だけど今回、三橋先輩との約束もあって阿部先輩のことはずっと見ていた。
だからかな?何の根拠もないけど、思うんだ。
阿部先輩と篠岡先輩が付き合っているっていうのは嘘じゃないかなって。
窓の外には夜空が広がっている。
旧暦の七夕か。天の川はどっちの方角かな?
オレはそんなことをボンヤリと考えながら、眠りにおちた。
ありがとうございます。
翌朝、球場前でバスを降りたオレは浜田先輩に駆け寄ると、お礼を言った。
うるさいマネジを黙らせてくれたおかげで、あの後は眠れたからな。
浜田先輩はすぐにわかったみたいで「ああ」と短く答えてくれた。
そういえば、とふと思う。
マネージャーはひょっとしたらベンチに入れるかもっていう期待もできる。
だけど応援団には絶対にありえない。
応援団は元々浜田先輩が立ち上げたもんだって聞いたけど。
浜田先輩は何をモチベーションにして、応援を続けてるんだろう。
浜田先輩は、何で応援団やってるんですか?
オレは特に考えもなく、するりとそう聞いてしまった。
実は以前、県大会で相手校のブラバンの生徒が話していたのが聞こえてしまったことがある。
野球部が勝ち進めば、野球部員は内申書とかの評価がよくなる。
だけどブラバンはいくら一生懸命応援したって、評価が上がるわけじゃないんだって。
どういう事情か知らないけど、部員全員が応援に借り出されるのが気に入らないみたいだった。
高校野球の人数を動員する応援って、全員が心からやってるとは限らないんだって思ったんだ。
浜田先輩は一瞬キョトンとしてた。
そりゃそうだよな。
オレはしまったと思った。
試合前の慌しい時間に言うことじゃないよな。
それにそもそも浜田先輩とオレは、あまり口を聞いたこともないんだ。
さほど親しくもないのに、こんな状況で不躾すぎる。
だけど浜田先輩は、それを咎めることもなかった。
オレは野球が好きなんだよ。
それと同じくらい西浦ってチームが好きなの。それだけ。
浜田先輩はそう言って、笑顔になった。
ハマちゃん、ご苦労様!
不意に西浦のユニフォーム姿の部員が駆け寄ってきて、浜田先輩に声をかけた。
三橋先輩、そしてその後ろには泉先輩だ。
今日も、おーえん、ありがと!
三橋先輩が笑顔でそう言うと、浜田先輩が「まかせとけって」と三橋先輩の髪をグシャグシャと撫でた。
学ラン、臭くなってるんじゃねーの?
泉先輩は挨拶もなしに、そう言った。
浜田先輩が「失礼な。ちゃんとファブリーズしてるぞ」と真面目に答えている。
なぁなぁ知ってる?コイツ県大会からずっと、学ラン洗ってねーんだぜ?
泉先輩は急にオレの方を見て、恐ろしいことを言った。
三橋先輩が「洗う、と、ツキが、落ちる、って」と補足説明してくれる。
確かに応援団の学ランはツキを落とさないように、勝ってる間は洗わないって話を聞いたことがある。
オレが「その学ラン、ヤバイっすね」と言ったら、三橋先輩も泉先輩もウンウンと深く頷いていた。
やっぱりオレは選手として試合の場に立ちたい。
マネージャーとか応援団のモチベーションは、察することはできても完全に理解はできない。
だけど浜田先輩の「西浦ってチームが好き」って言うのはわかる気がした。
こうやってレギュラーとか先輩後輩とか関係なく、こうやってバカ話して楽しいんだから。
そして今日は甲子園の3試合目、決勝まで進めば旧暦の七夕だ。
勝てばオレたち応援組もずっとこっちに宿泊するが、負ければ埼玉へ帰る。
決勝の日の天の川、ミルキーウェイをオレたちはどこで見るだろう。
応援用の道具を球場に運び入れる作業中にふと気付いた。
篠岡先輩が立ち止まって、何かをジッと見ている。
視線の先にいるのは、三橋先輩と何やら話しこむ阿部先輩だった。
噂はあながちデマじゃないのかもしれない。
ちなみにオレは高校を卒業して10年近く経った後、結婚の知らせを受け取ることになる。
そして篠岡先輩の彦星様の名前を知って驚くことになる。
だけどそれはまだずっとずっと先の話で、今日のオレは知る由もなかった。
【続く】
野球を題材にした映画とかドラマってよくあるよな。
特に高校野球をテーマにした話って多い。
現役高校球児としては、ついついそういうの見てしまう。
だけど「え~?」とか「そりゃないだろ」って思うものも多い。
ものすごく違和感を感じるんだ。
パッと見の違和感は、やっぱり身体つきだ。
真剣に甲子園を目指す高校球児はまず身体を作るんだ。
球児を演じる俳優だって、そりゃ鍛えてはあるんだろうけど。
でもタレントの見せる身体と、実際の球児の勝つための身体はまるで違う。
いや所詮ドラマなんて作り物なんだし、リアリティを追求しすぎるのも無粋だとはわかってる。
だけど身体とか目に付きやすいところは、ちゃんとして欲しいと思うんだ。
オレって変か?
なんでそんなことを思ったかって?
実は最近、そういう映画を見たからだ。
映画館で見たわけじゃなくて、たまたまテレビで放送されてた。
主役は野球部員ではなくて、マネージャー。
病気の友人の代わりに野球部のマネージャーになった主人公が、組織管理論の本を頼りに甲子園を目指す話だ。
主役を演じるのは、今人気絶頂のアイドルグループでトップを張る人気の女性タレント。
とにかくツッコミポイントは満載だったんだけど、口に出すのは止めた。
いつの間にか家族も一緒に見てたからだ。
だけど公式戦のベンチに2人の女子マネージャーが入っていたのを見たときには、舌打ちしてしまった。
記録員としてベンチに入れるのは1人と決まっている。
これも補欠選手を入れるのか、マネージャーを入れるかと、なかなかもめる話なんだ。
せめて基本的なルールくらいは守ってもらえないもんかな。
だけど全部見終わった母親は「すごくおもしろい」って、感想を言った。
妹はこれのアニメ版を見たらしくて「あっちゃんはみなみのイメージじゃない!」と文句を言ってた。
まさに人それぞれ、感じ方って違うよな。
えっと、悪い。話がちょっと脱線した。
今回はマネージャーと応援団のお話。
野球部と一緒に頑張っても、決して試合に出ることはない彼らについて考えてみた。
チクショウ、やっぱり眠れねーよ。
深夜バスの車中で、オレは恨みがましい気持ちになった。
これで3回目の深夜移動だ。
オレたち背番号のない部員と応援団、ブラバンは深夜バスで甲子園に向かう。
車内では、全員2回目も3回目も最初と同じ席に座ってる。
誰が言い出したわけじゃないんだけど、何となくそうなった。
これがオレにとっての不運だった。
オレは後ろ寄りの左側、2人掛けの通路側の席だった。
そして後ろの2席は、2年生の女子マネージャーが2人並んでいた。
コイツらがとにかくずっと喋ってるんだ。
まったく夏休みの間、部活でずっと一緒で、特にこの2人は話し込んでいることが多い。
よく話題が尽きないもんだよな。
もしドラ見た?
片割れがそう言うと、もう1人が「見た、見た!」と答えている。
静まり返った車内に響くヒソヒソ声。
一応気を使って声を小さくしているつもりなんだろうけど、返って耳障りだ。
マネジが2人でベンチに入れるっていいよね。
その言葉にオレはなるほどと思った。
選手は18人、だけど記録員の枠は1つしかない。
しかもそれだってマネージャーが取れるとは限らない。
背番号をもらえなかった選手だって、この1枠が欲しいと熱望するだろう。
マネージャー2人が公式戦のベンチで、並んで応援する。
オレは現実にはありえないと舌打ちしたけど、コイツらにとっては。
現実の世界でも可能であって欲しい、ステキな夢なんだ。
西浦高校野球部は男子部員が約50名に対して、女子マネージャーは5名。
2年生2名と1年生2名、そして3年の篠岡先輩だ。
男ばっかりの野球部の中では、どうしても少数派になる。
必然的に固まっていることが多い。
5人で何か喋っているのもよく見るけど、同じ学年のヤツはだいたい一緒にいる。
してみると今の3年生が1年の時、篠岡先輩ってどうしてたんだろう。
男ばっかり10名の中に、たった1人の女子。
それって実はすごく孤独だったんじゃないだろうか。
データ作りや練習の合間のおにぎりやドリンク作りとか練習の補助とか。
今はマネジと補欠部員が分担している雑用一切を、全部1人でやってたっていう。
昼休みに黙々とグラウンドの草むしりしてたって話も聞いたことがある。
どれだけ頑張っても絶対に試合に出られないのに、何を思いながらやってたんだろう。
だただた野球部のためになんて、オレには絶対に出来ない作業だ。
篠岡先輩と阿部先輩が付き合ってるってホントかな。
ふとそんな声が聞こえてきて、オレは思わず声を上げそうになった。
阿部先輩と篠岡先輩が付き合ってる?
オレはとても信じられなかったけど、マネジの片割れは「ホントじゃない?」って答えた。
だけど2人はこの話題はそれ以上膨らませることはなかった。
甲子園の決勝の日は旧暦の七夕だと言い出し、織姫だ彦星だとどうでもいい話題を延々と話している。
ほら、そこ。寝てる人もいるんだから、静かに。
マネジ2人と通路を挟んで反対側から、不意にそんな声がかかった。
応援団の団長、浜田先輩だ。
女子マネ2人は「すみません」とあやまると、静かになった。
浜田先輩はチラリとオレの方を見て、少しだけ口元を緩ませたように見えた。
多分2人の声でオレが眠れないでいたのに気がついて、注意してくれたようだ。
オレは軽く浜田先輩に会釈を返すと、目を閉じた。
篠岡先輩は野球部のために尽くしてくれる、すごいマネージャー。
正直言ってそれしかオレは知らない。
だけど今回、三橋先輩との約束もあって阿部先輩のことはずっと見ていた。
だからかな?何の根拠もないけど、思うんだ。
阿部先輩と篠岡先輩が付き合っているっていうのは嘘じゃないかなって。
窓の外には夜空が広がっている。
旧暦の七夕か。天の川はどっちの方角かな?
オレはそんなことをボンヤリと考えながら、眠りにおちた。
ありがとうございます。
翌朝、球場前でバスを降りたオレは浜田先輩に駆け寄ると、お礼を言った。
うるさいマネジを黙らせてくれたおかげで、あの後は眠れたからな。
浜田先輩はすぐにわかったみたいで「ああ」と短く答えてくれた。
そういえば、とふと思う。
マネージャーはひょっとしたらベンチに入れるかもっていう期待もできる。
だけど応援団には絶対にありえない。
応援団は元々浜田先輩が立ち上げたもんだって聞いたけど。
浜田先輩は何をモチベーションにして、応援を続けてるんだろう。
浜田先輩は、何で応援団やってるんですか?
オレは特に考えもなく、するりとそう聞いてしまった。
実は以前、県大会で相手校のブラバンの生徒が話していたのが聞こえてしまったことがある。
野球部が勝ち進めば、野球部員は内申書とかの評価がよくなる。
だけどブラバンはいくら一生懸命応援したって、評価が上がるわけじゃないんだって。
どういう事情か知らないけど、部員全員が応援に借り出されるのが気に入らないみたいだった。
高校野球の人数を動員する応援って、全員が心からやってるとは限らないんだって思ったんだ。
浜田先輩は一瞬キョトンとしてた。
そりゃそうだよな。
オレはしまったと思った。
試合前の慌しい時間に言うことじゃないよな。
それにそもそも浜田先輩とオレは、あまり口を聞いたこともないんだ。
さほど親しくもないのに、こんな状況で不躾すぎる。
だけど浜田先輩は、それを咎めることもなかった。
オレは野球が好きなんだよ。
それと同じくらい西浦ってチームが好きなの。それだけ。
浜田先輩はそう言って、笑顔になった。
ハマちゃん、ご苦労様!
不意に西浦のユニフォーム姿の部員が駆け寄ってきて、浜田先輩に声をかけた。
三橋先輩、そしてその後ろには泉先輩だ。
今日も、おーえん、ありがと!
三橋先輩が笑顔でそう言うと、浜田先輩が「まかせとけって」と三橋先輩の髪をグシャグシャと撫でた。
学ラン、臭くなってるんじゃねーの?
泉先輩は挨拶もなしに、そう言った。
浜田先輩が「失礼な。ちゃんとファブリーズしてるぞ」と真面目に答えている。
なぁなぁ知ってる?コイツ県大会からずっと、学ラン洗ってねーんだぜ?
泉先輩は急にオレの方を見て、恐ろしいことを言った。
三橋先輩が「洗う、と、ツキが、落ちる、って」と補足説明してくれる。
確かに応援団の学ランはツキを落とさないように、勝ってる間は洗わないって話を聞いたことがある。
オレが「その学ラン、ヤバイっすね」と言ったら、三橋先輩も泉先輩もウンウンと深く頷いていた。
やっぱりオレは選手として試合の場に立ちたい。
マネージャーとか応援団のモチベーションは、察することはできても完全に理解はできない。
だけど浜田先輩の「西浦ってチームが好き」って言うのはわかる気がした。
こうやってレギュラーとか先輩後輩とか関係なく、こうやってバカ話して楽しいんだから。
そして今日は甲子園の3試合目、決勝まで進めば旧暦の七夕だ。
勝てばオレたち応援組もずっとこっちに宿泊するが、負ければ埼玉へ帰る。
決勝の日の天の川、ミルキーウェイをオレたちはどこで見るだろう。
応援用の道具を球場に運び入れる作業中にふと気付いた。
篠岡先輩が立ち止まって、何かをジッと見ている。
視線の先にいるのは、三橋先輩と何やら話しこむ阿部先輩だった。
噂はあながちデマじゃないのかもしれない。
ちなみにオレは高校を卒業して10年近く経った後、結婚の知らせを受け取ることになる。
そして篠岡先輩の彦星様の名前を知って驚くことになる。
だけどそれはまだずっとずっと先の話で、今日のオレは知る由もなかった。
【続く】