アイシ×おお振り×セカコイ×黒バス×図書戦【お題:仄かに暗い15題-1】

【不可能】

「テツく~ん♪」
店のドアが開くなり、甘ったるい声が響き渡った。
入ってきた女性客は店内を見回すと、隅のテーブルにいた人物を見つけて「待ったぁ~?」と声をあげる。
その席に座っていた黒子はため息をつくと「桃井さん、店内では静かにしてください」と窘めた。

三橋が風邪なのか知恵熱なのかわからない発熱をした。
熱が下がるのに2日かかり、その後完治するまでにさらに2日。
だが過保護な恋人や、他のスタッフたちの進言にしたがい、結局三橋は1週間ほど休むことになった。
そして今日は復帰初日。
三橋が休んでいる間、ずっとキッチンに立っていた黒子が入れ替わりで休みになった。

「今日は友人と、店で食事をさせてもらっていいですか?」
黒子は貴重な休暇の使い方を、そう報告した。
もちろん店としては、何の異論もない。
かくしてランチタイムの人波が途切れた午後、黒子は客席で静かに本を読んでいた。

「黒子って、本当に本が好きなんすね。」
阿部は本に集中している黒子を見ながら、そう言った。
セナも「そうだよね。ちょっとすごいかも」と苦笑する。
住み込みとして採用された黒子は、ここの2階の一部屋に住んでいる。
引っ越してきたときには、その荷物に驚いたのだ。
1人暮らしにしては多い私物のほとんどは本だった。
おそらくその数は、軽く1000冊を越えている。

そして暇さえあれば、本を読んでいた。
給料が出れば書店に行き、新しい本を買ってくる。
本の知識は豊富なようで、図書隊員の堂上郁や出版社勤務の高野や律と時折本の話をしている。
阿部やセナには理解不可能な会話をしているのを見ると、なぜだかちょっと悔しい気分になったりした。

ちなみにヒル魔も、実は読書家である。
電子書籍派なのでもっぱらパソコンで読んでおり、紙の本はほとんど持っていないが。
ヒル魔と黒子が書評をめぐって、議論を戦わせていたこともある。
本をほとんど読まないセナにはできないことであり、実はすごく羨ましいと思っていた。

そこへ黒子の「友人」が飛び込んできたのである。
てっきり男性だと思い込んでいたスタッフ一同は、度肝を抜かれた。
現れたのは、黒子と同じくらいの年齢の女性だ。
しかも美人でグラマラスな身体つき、つまり少なくても外見は非常に男にモテるタイプである。

「会いたかった!テツく~ん!」
彼女は勢いよく黒子に飛びつき、2人は勢いよく床に倒れた。
あまりの光景に、客たちも呆然とその光景に見入っている。
セナと阿部も一瞬固まり、だが客商売の店員らしく「あること」に気付いた。

その彼女の左手薬指には、プラチナのシンプルな指輪。
つまり彼女は既婚者であるのだろう。
そしてセナの脳裏に思い浮かぶのは「カフェ・デビルバッツ」で働くのが決まった時の黒子の口上だ。
ヒモをしていたけれど、別れたから家と仕事がない。
冗談なのか本気なのかわからない身の上話だったが、まさか彼女のヒモ、もとい夫だった?

「まったく理解するのが不可能っすね。」
阿部の言葉に、セナは心の底から頷いた。
そして慌てて黒子と謎の美女に駆け寄り、助け起こしたのだった。

*****

「会いたかった!テツく~ん!」
ダイニングからそんな声と共に、ドサリと何かが床に倒れる大きな音がした。
スタッフの女性が「お騒がせしてすみません」と頭を下げる。
だが郁は「大丈夫ですよ。鈴音さん」と笑った。

「カフェ・デビルバッツ」で、黒子が謎の美女に抱き付かれ、勢いよく床に倒れ込んだ頃。
郁はかつてのルームメイトであり、現在も親友である女性とティールームに来ていた。
ここは「カフェ・デビルバッツ」の隣であり、通路でつながっている。
例えばダイニングがいっぱいの時には、客をティールームに誘導できる。
またティールームの名物である美味しいスイーツを、ダイニングの客が食後に堪能できるのだ。
そのために通路があった方が便利ということで、あとから増築したものである。
雨の日などは実に重宝で、スタッフからも客からも好評である。

だがその弊害もある。
どちらかで騒ぎがあった場合、筒抜けになるのである。
今がまさにそのケースだ。
だが郁にとっては、大した問題ではなかった。
そんな些細なマイナスなど気にならないほど「カフェ・デビルバッツ」が気に入っているのだ。
安くて美味くて量もあり、しかもスタッフが親切。
メインダイニングもティールームもどちらもいい雰囲気だし、こんなに良い店は早々ない。

いつも1人、または夫である堂上と来る郁だが、今回は違った。
親友の柴崎こと手塚麻子と一緒だ。
図書隊内では情報通を自負する柴崎も、この店はノーマークだったらしい。
まずメニューの価格に驚き、出されたケーキとお茶の美味さに驚く。
そして「どうして今までこの店に気づかなかったのかしら!」と悔しがった。
郁は「でしょ、でしょ!」とまるで自分の手柄でもあるかのようにドヤ顔だ。

「ねぇ、帰りに毬江ちゃんにお土産買おうよ。」
「そうね。きっと喜ぶわね。」
「でもその前に、ケーキをもう1個食べる!柴崎は?」
「あんたと一緒にしないでよって言いたいところだけど、ここのケーキはもう1つ食べたいわ。」

そんな会話を聞きつけて、すかさずスタッフの鈴音がメニューを持ってやってくる。
だが郁はそれを受け取る前に「あたし、イチゴのタルト!」と叫ぶ。
そして柴崎は「あんた、何歳よ」と呆れながら「あたしは抹茶のムースをお願いします」と告げた。
鈴音は「かしこまりました」と頭を下げると、キッチンへと下がっていく。

「いつか毬江ちゃんと3人で来たいね。」
すぐに運ばれてきたタルトにフォークを入れながら、郁はポツリとそう呟いた。
毬江は郁の上官の1人である小牧の妻で、現在妊娠中だ。
悪阻は軽い方だそうだが、ここは図書基地からは少々歩かなければならない。
だから今回はお土産を渡すことにして、柴崎と2人で来たのだった。

「あたしもね。解禁したの。」
「かいきん?」
「子供よ。こ・ど・も!」

柴崎の言葉に、郁は一瞬顔を引きつらせる。
だがすぐに「方針、変えたんだ」と告げた。
検閲が撤廃されるまで、子供は持たない。
手塚夫婦はそう決めており、仕事に邁進していたのだ。

「検閲撤廃はまだ先が見えないけど、身体的にはそろそろ限界だからさ。」
「そっか。そうだよね。」
「堂上家はどうするの?まぁあんたはあたしと違って、簡単に産休ってわけにはいかないだろうけど。」
「うん。。。」

触れられたくない話題に、郁は言葉を濁した。
おそらくこの年齢で産休など取ったら、最前線には戻れない。
だがそれはわかっていたことであり、今さらだ。
郁には夫の堂上にさえ打ち明けていない、別の問題を抱えていた。

「笠原、何か悩みがあったら聞くわよ?」
何かを察したらしい柴崎は、真剣な表情でそう言った。
なんでもないと惚けたところで、聡明なこの友人を誤魔化すのは不可能だろう。
郁は寂し気な微笑を浮かべながら「今は言えない」と答えた。

「でもいつか話すから。だから」
「わかった。あんたの気持ちの整理がついたら教えてね。」
柴崎は笑顔でそう告げた後「毬江ちゃんへのお土産はどれにしようか」と話題を変えてくれた。
郁は親友の気遣いに感謝しつつも、避けては通れない問題にこっそりとため息をついた。

*****

「簡単に言うなぁ。小野寺さんは」
「実際、簡単なんですよ。」
律は努めて明るく、そう言ってみた。
だが吉野は「それができれば」と深いため息をついたのだった。

吉川千春は今や大御所とさえ呼ばれる、少女漫画家だ。
かれこれ20年、王道の胸キュンを描き続け、しかも売れている。
なんなら母娘二代で愛読しているというファンもいるほどだ。
未だにエメラルドでは不動のナンバーワン作家である。

顔やプロフィールを後悔していないこの作家を、ほとんどの読者は女性だと思っている。
しかもなぜかセレブだと想像されているようだ。
律は吉川千春が描く主人公が純粋で、凛とした女の子が多いせいだろうと推察していた。
育ちのよさが、そのまま反映している。
つまり元々深窓の令嬢が大人になったような女性なのだろうと。

だが実際の吉川千春、いや本名・吉野千秋は男である。
「カフェ・デビルバッツ」で律と向かい合って座り、ガツガツと食事をしているアラフォーの男。
年齢にしては童顔で可愛らしいと言えなくはない。
だが身なりにまったく構わず、今もしわが寄ったヨレヨレのシャツを着ている。
遠目に見れば、まぎれもなく「オッサン」なのである。

ちなみに今ではほとんどの作家が、デジタルで原稿を描く。
慣れてしまえばその方が早いし、何よりネット経由ですぐに送れるので編集者も楽なのだ。
だが吉野は未だに手書き原稿である。
デジタルに切り替えようとしたが、どうにもソフトの操作に頭が付いて行かなかった。
さらにデット入稿の常習者であり、エメラルドでは稼ぎ頭にして手のかかる作家だった。

長い間、吉野の担当編集は彼の恋人である羽鳥だった。
だが羽鳥が去った後は、律が担当している。
編集長になり多忙な律が担当するのは、結構な負担ではある。
だが手がかかるだけではなく人見知りでもある吉野は、できれば気心が知れた編集者がいいと言う。
だから律がずっと担当していたのだ。

そんな吉野と律は、打ち合わせ中だった。
律ももうじきエメラルドを離れることが決まっており、徐々に引継ぎを始めている。
そしてこの吉野の件も頭が痛い問題だった。
少し前に連載が終わったばかりの吉野は、現在いわゆる充電期間中である。
律としては新連載をスタートさせて、軌道に乗せたところで新しい担当を付けたいと思っている。

「じゃあ、新連載の大枠はそんな感じですね。」
「うん。次回までにキャラクターを作り込んで、お話ももっと細かく詰めてくるから。」
「はい。こっちも新しい担当を決めておきます。」
「・・・小野寺さんが担当を外れるの、寂しいなぁ。」

吉野はわかりやすく沈んだ表情になった。
律も「俺も寂しいですよ」と苦笑する。
仕事面では心配はしていない。
律が育てたエメラルドの若い編集者たちも優秀で、吉野をしっかり支えられるはずだ。

問題は、メンタルの方だった。
吉野は最近、恋人である羽鳥とあまり時間が取れていない。
羽鳥は全然ジャンル違いの部署に配属された上に、多忙なのだ。
かろうじて2人と交流がある律が、羽鳥の近況を伝えたり、差し入れを預かったりしていた。
だが律もエメラルドを離れれば、それもできなくなるのだ。

「羽鳥さんと一緒に住んじゃったらどうです?」
律は思い切って、そんな提案をしてみた。
会えない時間がつらいなら、それが一番だ。
吉野は「そんなの不可能だよ」と言いかけたところで、店のドアが開いた。
そして長い髪の美人が、今日は客として店内にいた黒子に「会いたかった!」と叫び、抱き付いたのである。
その勢いで2人は床に倒れ、セナや阿部が慌てて助け起こしている。

「すごいシーン!今の漫画に使えないかな。」
吉野は黒子と謎の美女との親密な雰囲気に、目を輝かせている。
だが律は冷静に「羽鳥さんに今のをやれば、万事解決するんじゃないですか?」と言ってやった。

「簡単に言うなぁ。小野寺さんは」
「実際、簡単なんですよ。」
「それができれば」
吉野が深いため息をつくのを見て、律は苦笑した。
律も高野とのことを思えばあまり言えないが、吉野と羽鳥のバカップルなジレジレ感もなかなかのものなのだ。

*****

「こちらは青峰さつきさん。ボクの友人の青峰君の奥さんです。」
「あたしのテツ君が、いつもお世話になっています。」
黒子が淡々と紹介すると、美女は笑顔で頭を下げる。
だがスタッフたちの頭の中では「?」マークが飛び交っていた。

いきなり現れて黒子に抱き付いた美女、青峰さつき。
かつてはアメリカのプロバスケットボールの最高峰、NBAで活躍した青峰大輝の妻である。
青峰は中学時代、黒子と同じ学校のバスケ部でチームメイトだった。
彼女はそのときのマネージャーであり、黒子は未だに彼女を「桃井さん」と旧姓で呼んでいる。
ここまではよかった。問題はその先だ。

黒子と桃井の距離が近すぎるのだ。
桃井はとにかく黒子にベタベタと触り「テツ君」呼びを繰り返す。
そちら側から見れば、完全なバカップルだ。
だが黒子は例によって表情を変えず、平坦な声で「店内では静かに」などと言っている。
その落差が何ともシュールであり、もはやどこからツッコめばいいのかという状態だ。

「それじゃ日替わりランチを2つ、お願いします。」
あくまで冷静な黒子は、感情が見えない声で注文する。
そして2人は周りを困惑させながら、少し遅いランチとなった。

「美味しいね!テツ君!」
「よかったです。じゃあ食事会はここでいいですか?」
「あたしは嬉しいけど。でも仕事先だとテツ君は楽しめなくない?」
「そんなことはありません。ボクはこの店が好きなので。」
「じゃあみんなの予定を聞いて、調整するね。」
「わかりました。日付と予算を教えてくれれば、ボクからお願いしておくので。」

聞くとはなしに2人の会話を聞いた阿部とセナは、顔を見合わせた。
どうやら彼らはここで何かの会をしたいらしい。
いわゆる飲み会の幹事というヤツだ。

「ミステリアスなオーナーさんがいるって言ってたけど、今日は?」
「ヒル魔さんは今日はお休みみたいです。」
「残念だなぁ。どんな人か見てみたかったのに。」
「伝えておきます。都合がつけば、当日来てくれるんじゃないですか?」
「わざわざ?それはちょっと悪い気がする。」
「大丈夫ですよ。あの人、赤司君とのコネクションは欲しがると思います。」

黒子と桃井の会話に、セナも阿部ももはや興味津々だ。
ふと見ると、客が少ないのをいいことに三橋まで聞き耳を立てている。
当の黒子と桃井はまったく頓着することなく、会話と食事を楽しんでいる。

「それにしても、こんな近い場所に家出してたなんて。」
「意外ですか?」
「うん。盲点だよ。逆にこれなら気付かれないね。」
「・・・実は単に長距離移動が面倒だったんです。」
「そうなの!?」
「そうですよ。それにあのバカなら近くても遠くてもわからないでしょう。」

今度は黒子の身の上話だ。
家出とは穏やかではない。
だが桃井は「こんな近い場所」と言っている。
つまり黒子はここから近い場所で、ヒモ生活を送っていたということになる。

「もはや、理解は不可能かも」
セナはポツリとそう呟いた。
阿部が「まぁいずれ明らかになるでしょう」と言ったので、セナも「そうだね」と頷く。
三橋だけがマイペースに「これ、サービス」と2人分のケーキを出してきた。
セナはそれをトレイに載せると、バカップルにしか見えない彼らのテーブルへと向かったのだった。

*****

「やってられないわよね。」
鈴音は挑戦的にそう言い放つ。
十文字は「こっちのセリフだ」と吐き捨てた。

ティルームはダイニングと同じく深夜まで営業している。
開店当初は早い時間に閉めていたのだが、どうせ十文字は翌日の仕込みやら新メニューの試作などで店にいる。
それならば帰る時間まで開けておけばいいという安易な発想からだ。

だが意外に客は多かった。
一番多いのはテイクアウトの客だ。
家で待つ家族や、これから会う恋人に美味しいケーキのお土産。
また他の店で飲食した客が、デザートだけ食べにくることもある。
驚いたことに散々酒を飲んだ後、シメのスイーツを食べにくるパターンも多い。
十文字も鈴音も酒も甘いものも好きだが、その感覚はまったく理解できなかった。

「鈴音、あっちから誰か呼んで来てくれ。」
十文字が鈴音に声をかけた。
鈴音が「わかった」と答えて、ダイニングに向かう。
すでに閉店して客がいないフロア、隅のテーブルに突っ伏して寝ているのはセナだった。
テーブルには缶ビールが3本。
セナはここへ来て、十文字が試作した新作ケーキを肴に飲んでいたのだ。

「黒子君の方が、ヒル魔さんのこと、わかってるんだよなぁ。」
セナは飲みながら、そんなことを言っていた。
鈴音が「でも妖ー兄が好きなのはセナだけだよ」と宥めたが、一向に効き目もない。
かくしてビールを飲みながら、ガツガツとケーキを食べる。
見ている方が胸焼けしそうな、はた迷惑なヤケ酒だ。

それで気が済むならと放っておいたが、通いである十文字と鈴音はそろそろ帰る時間だ。
セナを放置できないので、住み込みスタッフを呼ぶことにした。
すぐに鈴音がダイニングから、阿部と三橋を呼んできてくれた。
阿部が手慣れた様子で小柄なセナを担ぐと「お疲れ様です」と声をかけて、ダイニングへ戻っていく。
十文字は「ああ、お疲れ」と応じて、戸締りをすると店を出た。

「帰るか」
十文字が鈴音に声をかけ、2人は並んで歩き出した。
2人はこの近くに部屋を借りており、鈴音のマンションは十文字のマンションに帰る途中にある。
夜道は物騒であるし、一緒に帰ることが当たり前となっていたのだが。

「やってられないわよね。」
「こっちのセリフだ。」
2人は歩き出すなり、ケンカ腰になった。
店では雰囲気が悪くなるので、こんな風に言い争うことはできない。
だがこの帰り道だけは、気を使わなくていい時間だった。

「郁さん、勘違いもいいところ。」
まずは鈴音が口火を切った。
今日は普段はダイニングの常連である堂上郁が、ティルームに来た。
友人であろう同伴者と楽しそうに話し込んだ後、テイクアウトでケーキまで購入してくれたまではよかった。
だが郁は帰り際、鈴音に「十文字さんとお付き合いしてるんですか?」と聞いてきたのだ。
鈴音はすかさず「いえ。違います!」と元気よく否定し、それを聞いた十文字も思い切り顔をしかめた。
郁のみならずそう聞いてくる客は多いのだが、それが2人は気に入らないのだ。それに。

「セナはヒル魔、ヒル魔ってうるせーしな。」
今度は十文字が文句を言った。
十文字も鈴音も高校生の頃から、ずっとセナに想いを寄せていた。
つまりセナを巡る恋敵なのだ。
だが客からは恋人同士かと聞かれ、当のセナはヒル魔しか見えていない。

いつかセナと想いが通じたら。
十文字も鈴音も本気でそう願っている。
だがヒル魔がこの世にいる限り、それは不可能であることもわかっている。
それでも毎日頑張れるのは、ティルームでの仕事が楽しいからだ。
やってられないと悪態をつきながらも、恋敵の2人は言い争ってストレスを発散しながら1日を終えるのだ。

【続く】
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