アイシ×おお振り【お題:思い出15】

【後日談 Supplement (前編)】

セナはゆっくりと「カフェ・デビルバッツ」の前に立った。
こんなにも早くこんな形で戻るなど、不本意だ。
傷心のセナだったが、それでも皆の前では笑っていたい。
大きく1つ深呼吸をすると、無理矢理ニコリと笑顔を作る。
そして扉を開けて、店内に足を踏み入れた。

セナのNFLへの挑戦は、初年度は失敗に終わった。
入団テストでとりあえず所属選手になることはできたものの、この時点では80名の選手がいる。
最終ロースター(ベンチ入り選手)の53名に残ることができなかったのだ。
プラクティス・スクワッド(練習生)でもないセナはチームに帯同することもできない。
つまり今シーズン、NFLでプレーすることはできないのだ。

そもそも無謀ではあった。
ワールドユースのMVPであるパンサーは異例の10代のNFLプレーヤーとしてデビューした。
だがそんなケースはまずありえない。
アメリカの大学でプレーするか、日本で実績を積んでからプラクティス・スクワッドとなるか。
日本人で確実なルートはそのどちらかを経ることだろう。
セナはそれを飛び越えて、入団テストを受けた。
NFLは大学アメフトとの共存を目指し、ドラフト資格は大学3年以上と規定されている。
現在ほとんど実績のない大学2年生のセナが今シーズンプレーするには、この方法しかなかったのだ。

日本のアイシールド21、最終ロースターに残れず。
マスコミは一斉にそれを報道した。
一部にはなぜこんなにNFL入りを急ぐのかという非難が混じった声もあった。
地道に実力を積んでから最高峰を目指せばいいのではないかと。
だがセナには時間がなかった。
その理由はセナとヒル魔と2人の少年しか知らないことだった。
ヒル魔は「焦る必要はない」と笑っていたが、セナは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

休んでいる時間はない。
来シーズンのNFL入りを目指してまた頑張るのは間違いない。
だが問題は今シーズンだ。
貴重な短いアメフトのシーズン。アメリカにいても試合には出られない。

セナはヒル魔をアメリカに残して単身帰国した。
幸いにもセナはまだ炎馬大学に籍を置いており、休学や退学の手続きをしていない。
だから今シーズンは日本の大学アメフトでプレーをする。
とにかく1試合でも多く出場することが実力の向上になる。

*****

「セナさん、帰国したんだって?」
「うん。NFL。今年、ダメ、だったって。阿部、くん、何で、知ってる?」
「ああ、スポーツニュースでやってた」
朝の廊下で、阿部と三橋は立ち話をしていた。
グラウンドでは野球部が朝練をしている時間帯。
だが3年の夏が終わって阿部はすでに部活を引退していたし、三橋に至っては1年も前に退部している。

いろいろあって付き合うことになった2人だが、一緒にいる時間は少ない。
三橋は推薦入学が決まったが、阿部は受験生だ。
三橋と同じ大学に合格する日までは、と我慢する日々が続いている。
こうやって朝、教室の前で立ち話をするのが数少ないデートだった。

「三橋は、冬休みまたバイトすんの?」
バイトとは三橋が夏休みに住み込みで働いていたあの「カフェ・デビルバッツ」だ。
三橋は首を振った。
「大学、家、出るし。この冬は、親孝行」
その言葉に阿部は少し驚いたが、次の瞬間には納得する。
来年、大学に入れば家を出なくてはいけないから、今は家族の時間を多く持つつもりなのだろう。
三橋家は、とても仲がいいのだ。
高校生の男子だったら、母親などウザいと思うものだが、三橋にはそういうところがない。
これが世間で言うところの「友だち親子」というヤツなのだろうか。

「でも、パーティ。やるから、来いって。ムサシ、さんが」
「パーティ?」
「そう。セナさんの、帰国の。阿部、くんも。誘えって。」
阿部は真剣な顔の三橋を見て、少し笑った。
受験勉強に追われているが、1日くらいならいいだろう。
「わかった。行くよ」
だからそんなに必死な顔をするな。
阿部は苦笑しながら、ホッとしたような表情の三橋の髪をくしゃくしゃとかき回した。

*****

「まぁ心配ってほどじゃあねぇが、無理に明るく振舞っているって感じではあるな」
ムサシは少し考えてからそう言った。
無骨なその手には携帯電話。話している相手は電話の向こうにいる。

ヒル魔とセナが経営する「カフェ・デビルバッツ」。
彼らの渡米後、店はムサシに任されていた。
ムサシはかつてヒル魔がいつもノートパソコンに向かっていたその席にドッカリと座っている。
電話の相手はかつての悪友。
この店のオーナーであり、現在はアメリカにいるヒル魔だ。

「そんなに気になるなら、オメーもセナと一緒に帰国すりゃよかったのに」
『まぁ、いろいろあってな。』
電話の向こうで、ヒル魔が笑う。
「ちなみに今、セナは大学に行ってる。ライスボウル目指して猛練習中だ。」
『そうか』
NFL入りが果たせなかったセナを、ヒル魔は案じている。
セナとはもちろん連絡を取り合っているだろう。
だが、それとは別にムサシにセナの様子を聞いていたのだ。

「ああ、レンは推薦入学が決まったらしいぞ。セナの帰国を知らせたら、会いに来るって」
『そうか。レンと会えばセナも気がまぎれるかもな。』
アメフトをやっていた時分には常に攻撃的な口調だったヒル魔だが、今は穏やかだ。
そして静かに優しく、セナに愛情を注いでいる。
「少しでも何かあったら連絡するし、俺や姉崎もついてる。心配すんな。」
『よろしく頼む。じゃあな。』
「ああ、わかった。」
ムサシが言い終わるや否や、電話は切れた。

ヒル魔の身体が病魔に侵されていることを、ムサシは知らない。
だが何となくそうではないかと、気がついていた。
渡米直前、ヒル魔は少し痩せたようで顔色が悪かった。
そしてセナがNFL入りを焦る理由も、それなら納得できる。
おそらく姉崎まもりも、薄々は察しているに違いないと思う。

ムサシは大きくため息をついた。
とりあえず今、2人のために出来ることは1つだけ。
傷心のセナを労わることだ。

*****

「西広センセイ、おっはよー♪」
水谷は高校球児とも受験生とも思えない無駄に明るい挨拶と共に、教室に足を踏み入れた。
勉強でわからないところがあり、西広に教えてもらおうと少し早めに登校したのだ。
だがすでに西広には同じ目的の先客がいた。
西広の横の席にはすでに泉が陣取っており、何やら説明を聞いている。
その正面には沖と巣山が座っていて、2人とも教科書を持ちながら喋っている。
どうやら問題の出し合いをしているようだ。
西広が水谷に気づき「ちょっと待ってて」と笑う。

水谷がその勉強の輪に入ろうとした瞬間、廊下で話し込む2人が目に入った。
阿部と三橋だ。
三橋が少し不安げな表情で何かを言い、阿部が苦笑する。
阿部が手を伸ばして三橋の髪を少し乱暴に撫でると、三橋が嬉しそうに笑った。

1年前の夏、部員たちを巻き込んだ男同士の恋愛。
結局三橋が部を去ることで終わったはずの物語は、今年の夏に急展開した。
一時は篠岡千代と阿部が付き合うことになったが、それはすぐに壊れた。
そしていつの間にか、阿部と三橋は恋人同士に納まっていた。

水谷はこの展開が気に入らなかった。
結局部員たちはいいように振り回されたし、篠岡は傷ついた。
だが当人たちは何事もない顔で笑っているなんて。

話を終えたらしい阿部と三橋が左右に分かれた。
それぞれの教室へと向かうためだろう。
「水谷、お待たせ」
泉への臨時授業を終えた西広が声を掛けたが、水谷は答えなかった。
顔を強ばらせた水谷が大股でズンズンと教室を出て行く。
どうしてもあの笑顔に、一言文句を言ってやりたい。
水谷はそんな衝動が止められなかった。

*****

「なぁ、あれ。どう思う?」
陸がため息混じりに言った。
モン太は、陸が顎でしゃくるようにして示した先を見た。
両手を膝に乗せて前屈みになり、ゼイゼイと息を切らしたセナ。
「どうって言われても」
モン太は言うべき言葉が見つからず、大きくため息をついた。

NFLのロースターから外れたセナが、炎馬大学の練習に参加している。
頑張れと言って送り出したセナの帰国は、やはり残念なものだ。
世界の最高峰で活躍する友人を見たかった。
だが別に、これが最後と言うわけではない。
まだまだ自分たちは、セナだって若い。
来年も、再来年も。いくらでもチャンスはあるはずなのだ。
今はまた同じチームでプレーできることを喜ぼうと思った。

だが練習に参加したセナのコンディションは最悪だった。
つい先日まで、NFLのプロ選手に混じって練習していたセナだ。
勝手が違うということはあるだろう。
最終ロースターに残るため、シーズンのペース配分など考えずに全力で練習に取り組んでいただろう。
だがそれにしても、動きは精彩を欠いている。
セナの持ち味であるスピードも乗っていないし、動きも鈍い。

まだ帰国したばかりなのだから、少し休め。
モン太も陸も、栗田や雲水も、再三セナに言った。
だがセナは頑として、休もうとしなかった。
今の自分の出来が悪いのは、誰よりもセナ本人が一番わかっているだろう。
誰よりも早く現れ、遅くまで残って、練習を重ねる。
あの状態で練習時間を増やしても、意味があるのかと思う。
だが必死な様子のセナを見ると、何も言えなくなってしまう。

「せめてヒル魔センパイがそばにいればなぁ。」
ヒル魔なら、セナに的確なアドバイスができるだろうに。
モン太は、練習をするセナの動きを目で追いながらまたため息をついた。

*****

泉は教室を飛び出した水谷の後を追った。
西広が教えてくれる横で、水谷がとある1点を見ていたのはわかっていた。
水谷の視線の先では、阿部と三橋が何やら笑いあっている。

「三橋はひどいよね」
泉が水谷が早足で突進した方向へと歩いていくと、水谷の声が聞こえた。
先ほどまで一緒に勉強していた西広と沖と巣山もついて来ている。
声のする方向、廊下の隅に三橋に詰め寄る水谷がいた。

「散々巻き込んでおいて、笑ってるんだもん。篠岡のこと、考えたことある?」
口調こそ静かだが、いつも陽気な水谷がこんなことをいうなどありえない。
水谷の性格を知る人間には、水谷がかなり怒っているのだと言うことがわかる。
水谷が篠岡のことが好きだということは、部員のほとんどが知っている。
気がついていないのは、同じ学年では当の篠岡だけだろう。
水谷が三橋を責める気持ちはわからなくもないが。

「俺もいろいろ文句はあるけど、篠岡のことを三橋に言うのは違くねぇ?」
水谷の背後から、泉が声をかける。
その声で水谷は泉や西広たちに気がついたようだった。
「でも、さ」
水谷が泉を振り返って、さらに言葉を続けようとした。

「いいよ。いくらでも、言って」
三橋が泉を制するように、彼にしては大きな声できっぱりと言う。
泉も水谷も西広たちも、驚いて三橋の顔を見た。
「許して、もらおう、なんて。思って、ないよ。俺は、迷惑かけた。皆に、篠岡、さんにも。」
そう言って、三橋が申し訳なさそうな顔で水谷を見る。
「それでも、捨てられない。阿部くんも。野球も。だから。」
三橋はなおも言葉を続けた。
「恨んで、くれて、いい。もう俺、仲間も、友だちも、資格ない、から。」
三橋の決然とした言葉に圧倒ざれて、誰も言葉を発せられない。

その時、不意に携帯電話の着信音が沈黙を破った。
音源は三橋のポケットの中だ。
携帯電話を取り出した三橋は、発信者の名前を見て驚いた様子だった。
誰も何も言わないのを見て取った三橋が「ごめん」と小さな声で言う。
そして電話を取りながら、野球部員たちの輪の中から離れていった。

静かに伝えられた三橋の覚悟に残された者たちは何も言えない。
遠ざかっていく三橋の後姿をただ呆然と見送った。

*****

「レンか?」
ヒル魔は携帯電話に向かって、問いかけた。
相手は電話に出た様子なのに、何も言わないからだった。

『ヒル、魔、さん』
しばらくして、電話の向こうから懐かしい声が聞こえる。
だがヒル魔は一瞬、顔を曇らせた。
鼻を啜るような音。少ししゃくりあげるような涙声。
三橋が泣いていることが、電話越しに伝わってきたからだ。

「どうした?まさか俺からの電話に泣いてるんじゃねぇだろうな」
わざと茶化すような口調で言う。
だが喜びではなく、悲しみで泣いているのだろうということはわかる。
『だ、大丈夫、です』
「そうか」
ヒル魔は穏やかにそう答えた。泣いていた理由はあえて聞かない。

「推薦入学決まったって?ムサシから聞いた」
ヒル魔は、さりげなく本題を告げた。
「よかったな。おめでとう」
『ありがとう、ございます。』
どうやら三橋は泣き止んだようで、ヒル魔は少しホッとした。

『ヒル魔、さん、元気ですか?』
「ああ、俺は変わんねぇよ」
三橋はヒル魔の体調を心配しているようだ。
今は日本時間は朝だから、三橋は学校で電話を受けているだろう。
そんな場所で泣くほど傷ついてるくせに、ヒル魔の心配をする三橋は健気だと思う。

「レン、1人で抱え込むなよ。阿部がいるだろ。泣くほどつらいなら話した方がいい。」
ヒル魔は、ゆっくりと言った。
セナとは全然意味合いが違うが、三橋もまたヒル魔にとって可愛い大事な少年だ。
だが今、アメリカにいるヒル魔が三橋にしてやれることはほとんどない。
せいぜいがこうして慰めることくらいだ。

それでも話しているうちに、電話の向こうの少年の声がちょっとだけ明るくなったのがわかる。
ヒル魔はそのことに少し安堵すると「またな」と告げて、電話を切った。

*****

「そりゃまた気が早い。」
野球部の忘年会と聞いて、巣山はどこか他人事のように言った。
それはそうだろうと栄口も思う。
季節はまだ秋で、特に今日は春のように暖かい。
真冬の年の終わりの話をされてもピンとこなかった。

「3年生全員に来て欲しいから、他の予定が入る前に早めに日を決めたいって」
栄口が苦笑しながら答える。
放課後の教室にいるのは、元副主将の栄口と巣山だけだ。
「全員って」
「そこが悩ましいところなんだよね。」
お互い言葉にしなくても、同じ事を考えていることがわかる。
昨年退部したエース、三橋を呼ぶべきなのかどうか。

西浦高校野球部を甲子園に導いた立役者でありながら、部を去った三橋。
野球を捨てるようにして出て行ったのに、しっかりと野球で大学への推薦入学を決めた。
それだけでも下級生たちの中には三橋をよく思っていない者もいる。
その上に阿部との男同士の恋愛と、篠岡を巻き込んだ三角関係。
三橋の努力を知る3年生たちでさえ、思いは複雑なのだ。

「多分、誘っても三橋は来ないんじゃないかな」
巣山はそう前置きをして、三橋と水谷のやりとりを栄口に話して聞かせた。
三橋がもう仲間も友だちも資格がないと言ったと聞いて、栄口の表情が歪む。

「俺は三橋のこと、結局助けてあげられなかったんだなぁ」
栄口が寂しそうに呟いた。
「俺、他の部員よりは打ち解けてもらってると思ってたし、何とかしてあげたかったのに」
巣山は黙って、栄口の言うことを聞いていた。

栄口が三橋のことについて心を痛めていたことを、巣山はよく知っている。
部の規律を一番に考える主将の花井は、阿部と三橋のことを全否定した。
その対極が田島で、好きならばいいじゃないかと言っていた。
副主将としては花井を支持したいが、友人としては田島を支持したい。
栄口はその狭間で悩んでいた。ひょっとすると阿部以上に。

巣山はと言えば、どちらかと言えば花井の意見に近かった。
そもそも男を、しかもチームメイトを愛するという発想はありえない。
その上阿部と三橋に関しては、野球に影響を出さないように恋愛できるとは思えない。
だが水谷に決意を伝える三橋を見て、巣山は動揺した。
凛とした表情で、きっぱりと決意を伝えた三橋。それ程の恋心を否定していたのだ。
それは阿部と三橋にとって、どれほど残酷なことだったのだろう。

「栄口は優しいな」
巣山は3年間、クラスメイトでチームメイトである友人にポツリと言った。

*****

「セナ、さん!」
「レンくん、久しぶり。阿部くんも。」
久しぶりに会った初々しい2人にセナは顔を綻ばせた。

今夜「カフェ・デビルバッツ」で、セナの帰国パーティが開催されている。
並べられた大量の料理は、まもりが腕を振るったものだ。
来年アルバイトが内定している三橋と阿部が手伝った。
やって来たのはもちろんアメフトで繋がった仲間だ。
すでに成人しているメンバーは酒を飲んでおり、賑やかで楽しい夜だ。

「セナが戻ったんじゃ、テメーんとこはライスボウル無理じゃねぇ?」
戸叶が十文字をからかい、その横で黒木が笑う。
かつて3兄弟と言われた3人だったが、現在は大学生と社会人に別れている。
ライスボウルで3人が同じフィールドに立つためには、十文字がセナに勝たなくてはならない。
「まぁ厳しいけど。頑張るしかねぇ。」
十文字が特に挑発っぽい戸叶の口調に、さらりと答える。
「セナ、手加減してやれ。こいつらにハンデやれよ」
黒木がセナの肩を叩いて、大声で笑った。

嬉しいけど、ちょっとつらい。
セナは曖昧に笑い返しながら、密かにため息をついた。
ほんの少し前に、送別会をしてもらったばかりなのだ。
誰もNFLの舞台に立てなかったセナを責めない。
またこうして集まってもらって、セナを暖かく迎え入れてくれる。
その優しさは嬉しいけれど、負担に感じるのも事実だった。
コンディションが悪く、練習でも思うように動けないのだから尚更だ。

ふと視線を移すと、店の隅でものすごい勢いで料理を頬張る三橋が目に入った。
パーティの前半、三橋は阿部とともにまもりを手伝って料理を運んでいた。
作った料理を全て出し、全員に行き渡ったので、ようやく今食べているのだろう。
送別会の時も、今回も、セナは主賓だからと言われて何もさせてもらえなかった。
三橋がその分頑張って、黙々と働いていたのだ。

並んで座る阿部が、優しい目で三橋を見ている。
阿部もまた三橋と同じものを食べてはいるが、食事は二の次になっていた。
食べやすいように料理を取り分けて三橋に渡したり、何かを話しかけて常に三橋を気にしている。
そのうちに三橋の口の端についた何かの欠片を指で拭き取り、それを口で舐め取った。
驚いて真っ赤になった三橋に、阿部がまた何かを言って笑う。

うらやましい。
セナは三橋と阿部を見ながら、不意に切なくなった。
皆の期待を裏切った上に、ヒル魔をアメリカに置いて帰国しなければならなくなった。
だから大学という同じ夢を見ながら、寄り添っている2人がうらやましい。
悲しみと嫉妬が入り混じったような感情がこみ上げてきて、セナは動揺した。

【続く】
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