バレンタインデー

朝練を終えて授業を受けるために校舎に入った十文字は、靴箱を開けた途端に顔を顰めた。
上履きの他に、平べったい箱がいくつも入っていたからだ。
キラキラした包装紙。
今日が2月14日であることから、箱の中身は想像がつく。

実は十文字には、中学時代にも同様の経験がある。
そのときは包装紙のまま、箱をすべてゴミ箱に捨てた。
こういうのは好きではない。
受け取る側である十文字の気持ちも確認せず、黙って靴箱に入れるなど。
ほとんど押し付けるようなやり方は、卑怯だと思う。
それに何より食べ物なのだ。
靴箱に入れたものを口に入れるなど、まっぴらだ。
何だかチョコの甘い香りと靴が発する自分の足の臭い。
混ざったような感じがするのは気のせいか?
だが1回そう思ってしまうと、もうこれらを食べるなどできそうもない。

何よりも今は恋人がいる。
他の人間からバレンタインデーに何ももらうつもりもない。
十文字は入れられていた箱を全部重ねて持つと、廊下にあるゴミ箱に向かう。
そしてそれらをまとめて、放り込もうとした。
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