フレンチキス

フレンチキス。
セナが小さな声でそう呟いた。
横でそれを耳にした十文字は、らしくもなく顔を赤く染めた。

その日最後の授業が自習になった。
十文字とセナは、早めに2人で部室に向かった。
目的はもちろんただ1つ。
人目を忍んで、恋人同士の時間を持つためだ。

恋人同士になったものの、十文字とセナの仲はほとんど進展しなかった。
簡単に言えば、時間も余裕もないのだ。
デスマーチの最中に想いを確認した2人だったが、その後アメフト漬けの日々だった。
何しろアメフト初心者がクリスマスボウルという、高校アメフト最高峰の舞台を目指すのだ。
毎日ヘトヘトになるまで練習するわけで。
その合間に2人でデートしようなどという余力がなかったのだ。

そんな折りの自習時間。
部室で2人っきりに話でもしてきたらどうだ、と言い出したのは黒木と戸叶だった。
十文字とセナが恋仲であることも、時間がないことも充分承知した上での気遣いだ。
恥ずかしくもありがたい厚意に感謝しながら、2人は授業中の人気のない校庭を歩いた。
そのまま部活に出るために鞄を持ち、その鞄で隠すように手を繋ぎながら。
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