たまにはデートしよう
「ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいです。」
優しく髪をかき回されたセナは、頬を真っ赤に染めて俯く。
だがヒル魔はなぜかドヤ顔で「堂々としとけ」と言い放った。
なんでこうなった?
セナは混乱しながら考える。
そう、きっかけはひとりごとだった。
一時帰国し、ヒル魔の部屋でテレビのニュースを見ていた。
そこで「春の行楽特集」なんてやっていたから、思わず言ってしまったのだ。
ポツリと小さな声で「デートしたいな」と。
ヒル魔の地獄耳は確かにそのつぶやきを拾った。
そして実に簡単に「するか」と言い出したのだ。
セナは最初は冗談だと思った。
仲間内でこそ、2人が付き合っていることは有名だ。
だが世間的には隠していた。
理由は簡単、アメフトに集中したいから。
当然、外でデートなんてしたことはない。
だけどヒル魔は本気だった。
まずはスマホをサクサクと操作する。
すると程なくして、大きな段ボール箱が届いた。
中身はデート用の服やら靴やら。
セナ本人では到底選ばないであろうオシャレなそれらに驚く間すらない。
ヒル魔に「行きたいところ、あるか?」と問われ、コースが決まった。
そしてその翌日、セナはヒル魔と共に都内某所の繁華街にいた。
2人で身を寄せ合い、クレープを齧りながら歩く。
実はこんなベタベタな事を、セナは1度でいいからやってみたかった。
甘いもの嫌いのヒル魔には申し訳ないと思ったが、杞憂だった。
メニューの中にはスナック系の甘くないクレープもあったのだ。
「よくそんな甘ったるそうなモン、食えるな」
ヒル魔がウンザリした顔になっている。
セナの手には「いちごバナナチョコスペシャル」。
季節限定の「さくら苺もち」にも惹かれたが、ここは定番にした。
ちなみにヒル魔のチョイスは「チキンチリペッパーチーズ」だ。
「ねぇあの2人、芸能人?」
「モデルさんじゃない?」
「いや、あれアイシールド21だよ!」
「え?横にいるのはヒル魔選手?」
そこここから声がする。
人通りの多い繁華街で、2人はそれはそれは目立った。
ヒル魔の黒ずくめファッションは変わらないが、シャツやジャケットは凝ったデザインだ。
そしてセナは春らしい淡い色合いで揃えたコーディネイト。
服装だけでも目立っているが、そもそも彼らは名の知れたアスリートなのだ。
ところで彼らのデート、世間一般のそれと大きく異なるところがある。
それはかなりの人数のスタッフ(?)が同行していることだ。
数名がスマホでデートするセナとヒル魔を撮影している。
そして残りの者たちは、まるで重要人物を護衛しているように周りを囲んでいた。
「これ、デートって言えるんですか?」
「テメェだっていいかげん、見られることには慣れてるだろ?」
「そういう問題ですか?」
「そういう問題だ。っていうか深く考えるな。」
ヒル魔は「ケケケ」と高笑いしながら、長い指でセナの口元のクリームをぬぐう。
素っ気ない口調とは逆に、優しい手つきだ。
その途端、護衛(?)越しの野次馬から「キャ~!」と黄色い声が上がった。
セナは「す、すみません」と思わず意味なくペコペコする。
ヒル魔が苦笑し、セナの髪をかき回せば、またしても黄色い悲鳴だ。
「ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいです。」
「堂々としとけ」
「ヒル魔さんはよく平気ですね」
「デートってのは、こういうもんだろ?」
「こういうもん?」
「目立ってナンボってことだ」
デートってそういうんだっけ?
セナは首を傾げるが、確かにそういうのもある気がする。
だってセナにも「僕の彼氏ステキでしょ?」って宣言したい気持ちはあるから。
それにその恋人とこんな楽しいデートしてるって自慢したくもなる。
だから世の恋人たちは、ネットにいっぱい写真を投稿してるんだと思う。
「ほら、次行くぞ」
クレープを食べ終わったところで、ヒル魔がセナの手を取った。
2人は注目を浴びながら、手を繋いで歩き出す。
少女漫画ならお決まりのシーン?
だけど恋愛偏差値の低いセナはこれで充分ドキドキできる。
最初はこんな大人数でデートって、何事かと思った。
だけど案外これはありだ。
有名人で男同士のカップルなんて、好奇の目は避けられない。
だけどこんな風にしてしまえば、逆に開き直れる。
きっと彼らを目にした人たちは、おもしろ動画の撮影とでも思っているだろう。
そこまで見通したヒル魔、恐るべしだ。
「ヒル魔さん、次回は夢の国に行きたいです。」
「夢の国?」
「あ、ネズミさんがいるあそこです。」
「マジか。人が多そうだな。」
ヒル魔は少しだけ眉根を寄せたが、きっと叶えてくれるだろう。
それよりまだ今回のデートは始まったばかりだ。
セナは繋いだ手に少しだけ力を込めた。
握り返してくれたヒル魔の手は、暖かく優しかった。
優しく髪をかき回されたセナは、頬を真っ赤に染めて俯く。
だがヒル魔はなぜかドヤ顔で「堂々としとけ」と言い放った。
なんでこうなった?
セナは混乱しながら考える。
そう、きっかけはひとりごとだった。
一時帰国し、ヒル魔の部屋でテレビのニュースを見ていた。
そこで「春の行楽特集」なんてやっていたから、思わず言ってしまったのだ。
ポツリと小さな声で「デートしたいな」と。
ヒル魔の地獄耳は確かにそのつぶやきを拾った。
そして実に簡単に「するか」と言い出したのだ。
セナは最初は冗談だと思った。
仲間内でこそ、2人が付き合っていることは有名だ。
だが世間的には隠していた。
理由は簡単、アメフトに集中したいから。
当然、外でデートなんてしたことはない。
だけどヒル魔は本気だった。
まずはスマホをサクサクと操作する。
すると程なくして、大きな段ボール箱が届いた。
中身はデート用の服やら靴やら。
セナ本人では到底選ばないであろうオシャレなそれらに驚く間すらない。
ヒル魔に「行きたいところ、あるか?」と問われ、コースが決まった。
そしてその翌日、セナはヒル魔と共に都内某所の繁華街にいた。
2人で身を寄せ合い、クレープを齧りながら歩く。
実はこんなベタベタな事を、セナは1度でいいからやってみたかった。
甘いもの嫌いのヒル魔には申し訳ないと思ったが、杞憂だった。
メニューの中にはスナック系の甘くないクレープもあったのだ。
「よくそんな甘ったるそうなモン、食えるな」
ヒル魔がウンザリした顔になっている。
セナの手には「いちごバナナチョコスペシャル」。
季節限定の「さくら苺もち」にも惹かれたが、ここは定番にした。
ちなみにヒル魔のチョイスは「チキンチリペッパーチーズ」だ。
「ねぇあの2人、芸能人?」
「モデルさんじゃない?」
「いや、あれアイシールド21だよ!」
「え?横にいるのはヒル魔選手?」
そこここから声がする。
人通りの多い繁華街で、2人はそれはそれは目立った。
ヒル魔の黒ずくめファッションは変わらないが、シャツやジャケットは凝ったデザインだ。
そしてセナは春らしい淡い色合いで揃えたコーディネイト。
服装だけでも目立っているが、そもそも彼らは名の知れたアスリートなのだ。
ところで彼らのデート、世間一般のそれと大きく異なるところがある。
それはかなりの人数のスタッフ(?)が同行していることだ。
数名がスマホでデートするセナとヒル魔を撮影している。
そして残りの者たちは、まるで重要人物を護衛しているように周りを囲んでいた。
「これ、デートって言えるんですか?」
「テメェだっていいかげん、見られることには慣れてるだろ?」
「そういう問題ですか?」
「そういう問題だ。っていうか深く考えるな。」
ヒル魔は「ケケケ」と高笑いしながら、長い指でセナの口元のクリームをぬぐう。
素っ気ない口調とは逆に、優しい手つきだ。
その途端、護衛(?)越しの野次馬から「キャ~!」と黄色い声が上がった。
セナは「す、すみません」と思わず意味なくペコペコする。
ヒル魔が苦笑し、セナの髪をかき回せば、またしても黄色い悲鳴だ。
「ちょっと、いえ、かなり恥ずかしいです。」
「堂々としとけ」
「ヒル魔さんはよく平気ですね」
「デートってのは、こういうもんだろ?」
「こういうもん?」
「目立ってナンボってことだ」
デートってそういうんだっけ?
セナは首を傾げるが、確かにそういうのもある気がする。
だってセナにも「僕の彼氏ステキでしょ?」って宣言したい気持ちはあるから。
それにその恋人とこんな楽しいデートしてるって自慢したくもなる。
だから世の恋人たちは、ネットにいっぱい写真を投稿してるんだと思う。
「ほら、次行くぞ」
クレープを食べ終わったところで、ヒル魔がセナの手を取った。
2人は注目を浴びながら、手を繋いで歩き出す。
少女漫画ならお決まりのシーン?
だけど恋愛偏差値の低いセナはこれで充分ドキドキできる。
最初はこんな大人数でデートって、何事かと思った。
だけど案外これはありだ。
有名人で男同士のカップルなんて、好奇の目は避けられない。
だけどこんな風にしてしまえば、逆に開き直れる。
きっと彼らを目にした人たちは、おもしろ動画の撮影とでも思っているだろう。
そこまで見通したヒル魔、恐るべしだ。
「ヒル魔さん、次回は夢の国に行きたいです。」
「夢の国?」
「あ、ネズミさんがいるあそこです。」
「マジか。人が多そうだな。」
ヒル魔は少しだけ眉根を寄せたが、きっと叶えてくれるだろう。
それよりまだ今回のデートは始まったばかりだ。
セナは繋いだ手に少しだけ力を込めた。
握り返してくれたヒル魔の手は、暖かく優しかった。
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