ワールドカップ

「なんでだと思います?」
セナはフィールドを一心に見つめながら、問いかけてくる。
ヒル魔は呆れながら「それ、今重要か?」と返した。

ヒル魔とセナはスタジアムで試合を観戦していた。
ここはアメフトのとあるチームのホームスタジアム。
だけど行われているのはアメフトではなく、サッカーだ。
今年は奇しくもサッカーのワールドカップがアメリカ開催。
しかも日本代表の試合が、練習のオフ日と重なった。
そこで2人で、観戦しているのである。

セナとしては、いろいろ思うことはある。
よくチケットが取れたなぁとか。
結構な良い席だけど、いくらなんだろうとか。
今回のワールドカップのチケットは普段と違うやり方で売られていると聞く。
確か需要に応じて座席価格が決定されるとか。
日本円で数十万円とか、100万円以上の席もあるらしい。

さらにヒル魔は応援用のユニフォームまで用意していた。
日本代表の今年人気のアウェーのユニフォーム。
背中に「SENA」「HIRUMA」と入っているのだから、間違いなく特注品だ。
いったい一試合の観戦に、いくらかけているのやら。

だけどそこで動じてしまっては、ヒル魔の恋人は務まらない。
非合法な方法は使ってないだろう。多分。
だからとりあえず全力で楽しむことにする。

「あ〜、1点取られたぁ〜」
セナは両手の拳でバンバンと膝を叩いた。
日本が相手チームに先制されたのだ。
全身で悔しさを表現するセナに、ヒル魔は苦笑した。

「何でヒル魔さん、点を取られたのに笑ってるんです?」
「まだまだこれからだろ」
苦笑が、セナの気に触ったらしい。
ヒル魔は慌てて誤魔化した。
セナはあっさりと納得し「ですよね!」と前のめりだ。
わかりやすく全力応援モードである。

「サッカーってアメフトより見やすいですね!」
セナはボールを目で追いながら、そう言った。
ヒル魔は「そうだな」と頷く。

セナの言いたいことはわかる。
サッカーのルールはアメフトに比べればかなりシンプルだ。
枠に入れれば1点。
オフサイドだのなんだの細かいルールはあるが、基本はそれだけだ。

対するアメフトは実にルールが細かい。
見ていても何が起こったかわからないこともあるのだ。
だから時折ゲームクロックが止まり、審判がマイクで説明したりする。
どちらが良いか悪いかではない。
だけど初心者でもわかりやすいのは、圧倒的にサッカーだ。

「やった!追いついた!」
そうこうしている間に、日本がゴールを決めた。
これで1対1、同点だ。
セナはまるでタッチダウンを決めたかのように、拳を振り上げた。
ヒル魔はまたしても苦笑した。
今度はセナにバレないように、こっそりと。

「どうしてヨーロッパはサッカーで、アメリカはアメフトなんでしょう?」
同点で再開した試合を目で追いながら、セナはヒル魔に問いかけた。
ヒル魔もまた試合を追っている。
お互いに目を合わせないまま、会話できるのもサッカーの良さだ。
アメフトの試合観戦だったら、喋っている余裕なんかない。

「なんとなくアメリカがサッカー、ヨーロッパの方がアメフトが会う気がしません?」
セナはさらに続ける。
ヒル魔は「は?」と応じたが、言いたいことはわかった。
国民性を考えたら、アメリカの方がルールが単純なサッカー。
そしてヨーロッパの方がルールが複雑なアメフトを好みそうな気がする。
だけど現実は逆なのだ。

「なんでだと思います?」
「それ、今重要か?」
ヒル魔がため息をついたところで、さらに相手チームがシュートを決めた。
セナがまた盛大に悔しがる。
試合はすでに後半、残り時間は30分だ。
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