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「どうした?」
画面の向こうから、彼が穏やかに問いかける。
セナは小さくため息をつくと「バレました?」と苦笑した。

NFLが開幕して、数週間。
セナはロースター入りしたものの、なかなか出番がなかった。
ようやく出してもらえたのは、昨日のこと。
パンサーに次ぐ2番手のランニングバックが不調で、出番となった。

とりあえず結果は悪くなかった。
タッチダウンこそ決められなかったが、獲得ヤードはまずまず。
観客には「あのチビ、結構やるじゃん?」くらいの印象を与えられた。
だけどセナとしては、不完全燃焼。
今1つ、出し切れなかったという感じだった。
そしてその原因はわかっている。

その翌日、セナはヒル魔とパソコンの画面越しに向き合っていた。
ヒル魔は開口一番「どうした?」と聞いてきた。
昨日の試合で、誰も気づかなかったであろう小さな不調。
彼はあっさりとそれを看破したようだ。

「バレました?」
「シューズが合わないのか?」
「そこまで見抜かれましたか」

セナは苦笑するしかない。
そう、シューズが合わないのだ。
開幕直前、セナはシューズのメーカーを変えた。
理由は日本のシューズメーカーがスポンサーに付いてくれたからだった。

チームではなく、セナ個人に付いたスポンサー。
そのことに当初セナは舞い上がった。
認められた気がした。
何だかステージが1つ上がったような感覚。
だけど喜んでばかりはいられなかった。
いきなり変えたシューズが上手くフィットしないのだ。

「高校の頃、普通の運動靴でタッチダウン決めてたテメーがなぁ」
ヒル魔が感慨深げにそんなことを言う。
セナは思わず「古い話を蒸し返さないでください」と肩を落とした。
高校1年の初めての試合。
初心者で何も知らないセナは、体育用の運動靴で試合に出てしまったのだ。
しっかり爆走して、逆転のタッチダウンは決めたのだが。
セナとしては消してしまいたい過去である。

「まぁ新しいシューズには慣れるしかないですね。」
セナは気を取り直して、明るく宣言した。
合わないと言ったって、タイムに影響が出るほどではない。
ほんの小さな違和感であり、使っているうちに何とかなると思う。
だがヒル魔は「真面目か」とツッコミを入れた。

「馬鹿正直にやらなくても、手はあるぞ?」
ヒル魔は少々呆れたような声でそう言った。
セナは「え?何かあるんですか?」と身を乗り出す。
そこで聞かされたヒル魔の説明に、セナは驚愕した。
スポンサーとは何ぞや?
それを理解していなかったと思い知らされたのである。
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