「マジで？」
スマホで日本のニュースを見ていたセナは声を上げた。
まだ７月だというのに、日本は猛暑日が続いているらしい。

練習を終えたセナは、自分の部屋に戻って来た。
アメリカの夏は暑い。
いや、今は世界中、とにかく暑い。
異常気象というヤツだろうか。

だけどセナの部屋は程よくエアコンが効いていた。
部屋だけではない。
練習場もロッカールームも送迎の車さえエアコン完備だ。
暑さを感じるのは、送迎の車の乗り降りの際の短い時間だけだ。
練習生とはいえ、ＮＦＬのチーム。
本当に環境は恵まれている。
暑さに身体が負けないように、しっかり配慮されているのだ。

今までは真逆だったな。
セナはエアコンの心地よい風を浴びながら、思い出に浸った。
最たる例はデスマーチだ。
暑い夏にアメリカを石を蹴りながら、またはトラックを押しながら横断する。
あの頃だって、かなりクレージーだった。
だが今のこの気候でやったら、おそらく死者が出る。
それくらい夏の暑さの質は変わってしまったのだ。

そんなことを思いながら、スマホを見ていたセナは「マジで？」と声を上げた。
どうやら日本も猛暑日が続いているらしい。
そうなると気になるのは、日本のチームメイトのことだ。
炎馬大学の練習環境は、決して恵まれてはいない。
専用の屋内練習場などないから、どうしても暑い中での練習は避けられない。
みんな無理していなければ良いけれど。

そしてもう１つ、心配なのはヒル魔だった。
最京大学は炎馬大学よりは、練習環境は良い。
だけど所在地を考えると、暑さは東京より厳しいはずだ。
デスマーチの時、まったく疲れていないように振る舞っていたヒル魔。
おそらく今も暑さなんか関係ないって顔で、練習しているのではないか。

「余計なお世話かもしれないけど」
セナは独り言ちながら、スマホにメッセージを打ち込んだ。
遠くアメリカの恵まれた環境にいるセナに、できることはない。
だけどやはり心配は心配なのだ。