MUTUAL PINING 【風】の章
【1】五条悟
「処分はそっちに任せていいかな?」
五条は床に転がる女をチラリと見ながら、冷たく言い放つ。
禪院家の若き当主、伏黒恵が「わかりました」と頷いた。
乙骨にあろうことか媚薬を盛った女は五条に捕獲された。
そして連行されたのは、封印の間。
かつて乙骨憂太や虎杖悠仁が秘匿死刑を言い渡されたときに入れられた部屋だ。
天井から床から、檻のようにお札が張り巡らされている。
呪具で拘束された女はこの部屋の異様な雰囲気に飲まれ、震えていた。
この部屋にいるのは、捕縛された罪人の女の他には3人。
五条と伏黒、そして禪院真希だ。
本来なら五条の手でこの女を完膚なきまでに叩きのめしたい。
なんなら殺したところで、良心も痛まないだろう。
だけどやはり筋は通すことにした。
女は禪院家に連なる者だから、伏黒と真希に任せることにしたのだ。
この2人なら、きっと妥当な罰を与えるだろう。
乙骨もきっとその方が良いと思うはずだ。
「呪力も呪術師としての技量もねぇくせに、しっかり禪院家の気質は持ってるんだな!」
真希が後ろ手に拘束され、床に転がる女を冷ややかに見下して言い放つ。
五条は「まったくだね」と頷いた。
呪術の才能にこだわり、優秀な呪術師の血を貪欲に取り込むのが禪院家だ。
乙骨の才を遺伝子として欲しがっても、さもありなんである。
そう、女の目的はわかりやすかった。
乙骨を手に入れ、その子供を宿すことだ。
そうして優れた術師が生まれれば、その母として君臨できる。
一般社会で言うところの性的暴行、つまり重罪。
だけど呪術師に、そして御三家に普通の法律は通用しない。
だからこそ、現在禪院家のトップである伏黒と真希に処罰を任せた。
「憂太は穏便にって言いそうだけど」
「穏便に済ませるわけないでしょう!」
「ああ。死ぬほど後悔させてやる。」
力強く断言するかつての教え子2人に、五条は「フフン」と鼻で笑った。
そして「じゃ、よろしく~」と軽い調子で頼むと、先に封印の間を出る。
だが部屋から離れ、完全に1人になったところで「ハァァ」と深いため息をつくのだった。
よりによって憂太に薬を盛るって、バカじゃないの!?
五条は心の中で盛大に悪態をついた。
だけど腹を立てているのは、あの女にだけじゃない。
あと1歩で乙骨を抱いていたであろう自分にも、怒り呆れていた。
言い訳はある。
媚薬が効いた乙骨は壮絶に艶っぽかったのだ。
彼は年齢を重ねても、未だに中性的な可愛らしさを持っている。
その可愛らしさはそのままに、悩ましい色香をまとっていた。
そして舌足らずな声で助けを求められ、五条の理性はあっさり崩壊した。
今までどんな女に誘惑されても、心が揺れることなんてなかったのに。
心を乱され、乙骨に触れようと手を伸ばした。
だけど絶妙のタイミングで、狗巻棘が踏み込んできたのだ。
彼も食堂で、乙骨の危機を知った。
そこで瞬間移動した五条より少し遅れて、医務室に到着した。
あの瞬間、五条は心底ホッとした。
そして同じくらいがっかりしたのだ。
本能のまま、あの子を抱きつぶしてしまわなくて良かった。
本能のまま、あの子を抱きつぶしてしまいたかった。
2つの相反する気持ちを持て余しながら、改めてわかる。
五条は乙骨憂太を気が狂いそうなほど愛しているのだと。
いっそ奪ってしまおうか。
この10年間、何度そう思ったかわからない。
だけどどうしても踏み越えられなかった。
当の乙骨に拒まれているからだ。
せめて守りたいと思ったのに。
五条は深く息をつき、拳を握りしめた。
五条は自他ともに認める最強であり、乙骨は高専の結界の中にいる。
どんな相手が襲撃して来ようと、撃退出来るつもりだった。
事実、実際に撃退してきた。
だけどここ最近は味方と思っていた者たちが牙を剥いてきたのだ。
配達の青年然り、医務室のスタッフ然り。
高専の結界の出入りが自由で、乙骨も心を許している人物。
そんな者たちに隙を突かれたら、どうなるか。
高専の結界が、吹き抜ける風を防げないのと同じだ。
五条の無力さを嘲笑うように、暴挙が止まらない。
「それでも守らなきゃ」
五条はポツリと呟くと、足早に歩を進めた。
立ち止まって悔いていたって始まらない。
今はとにかくできることをやる。
あの子を守るためなら、なりふり構わずやるしかないのだ。
「処分はそっちに任せていいかな?」
五条は床に転がる女をチラリと見ながら、冷たく言い放つ。
禪院家の若き当主、伏黒恵が「わかりました」と頷いた。
乙骨にあろうことか媚薬を盛った女は五条に捕獲された。
そして連行されたのは、封印の間。
かつて乙骨憂太や虎杖悠仁が秘匿死刑を言い渡されたときに入れられた部屋だ。
天井から床から、檻のようにお札が張り巡らされている。
呪具で拘束された女はこの部屋の異様な雰囲気に飲まれ、震えていた。
この部屋にいるのは、捕縛された罪人の女の他には3人。
五条と伏黒、そして禪院真希だ。
本来なら五条の手でこの女を完膚なきまでに叩きのめしたい。
なんなら殺したところで、良心も痛まないだろう。
だけどやはり筋は通すことにした。
女は禪院家に連なる者だから、伏黒と真希に任せることにしたのだ。
この2人なら、きっと妥当な罰を与えるだろう。
乙骨もきっとその方が良いと思うはずだ。
「呪力も呪術師としての技量もねぇくせに、しっかり禪院家の気質は持ってるんだな!」
真希が後ろ手に拘束され、床に転がる女を冷ややかに見下して言い放つ。
五条は「まったくだね」と頷いた。
呪術の才能にこだわり、優秀な呪術師の血を貪欲に取り込むのが禪院家だ。
乙骨の才を遺伝子として欲しがっても、さもありなんである。
そう、女の目的はわかりやすかった。
乙骨を手に入れ、その子供を宿すことだ。
そうして優れた術師が生まれれば、その母として君臨できる。
一般社会で言うところの性的暴行、つまり重罪。
だけど呪術師に、そして御三家に普通の法律は通用しない。
だからこそ、現在禪院家のトップである伏黒と真希に処罰を任せた。
「憂太は穏便にって言いそうだけど」
「穏便に済ませるわけないでしょう!」
「ああ。死ぬほど後悔させてやる。」
力強く断言するかつての教え子2人に、五条は「フフン」と鼻で笑った。
そして「じゃ、よろしく~」と軽い調子で頼むと、先に封印の間を出る。
だが部屋から離れ、完全に1人になったところで「ハァァ」と深いため息をつくのだった。
よりによって憂太に薬を盛るって、バカじゃないの!?
五条は心の中で盛大に悪態をついた。
だけど腹を立てているのは、あの女にだけじゃない。
あと1歩で乙骨を抱いていたであろう自分にも、怒り呆れていた。
言い訳はある。
媚薬が効いた乙骨は壮絶に艶っぽかったのだ。
彼は年齢を重ねても、未だに中性的な可愛らしさを持っている。
その可愛らしさはそのままに、悩ましい色香をまとっていた。
そして舌足らずな声で助けを求められ、五条の理性はあっさり崩壊した。
今までどんな女に誘惑されても、心が揺れることなんてなかったのに。
心を乱され、乙骨に触れようと手を伸ばした。
だけど絶妙のタイミングで、狗巻棘が踏み込んできたのだ。
彼も食堂で、乙骨の危機を知った。
そこで瞬間移動した五条より少し遅れて、医務室に到着した。
あの瞬間、五条は心底ホッとした。
そして同じくらいがっかりしたのだ。
本能のまま、あの子を抱きつぶしてしまわなくて良かった。
本能のまま、あの子を抱きつぶしてしまいたかった。
2つの相反する気持ちを持て余しながら、改めてわかる。
五条は乙骨憂太を気が狂いそうなほど愛しているのだと。
いっそ奪ってしまおうか。
この10年間、何度そう思ったかわからない。
だけどどうしても踏み越えられなかった。
当の乙骨に拒まれているからだ。
せめて守りたいと思ったのに。
五条は深く息をつき、拳を握りしめた。
五条は自他ともに認める最強であり、乙骨は高専の結界の中にいる。
どんな相手が襲撃して来ようと、撃退出来るつもりだった。
事実、実際に撃退してきた。
だけどここ最近は味方と思っていた者たちが牙を剥いてきたのだ。
配達の青年然り、医務室のスタッフ然り。
高専の結界の出入りが自由で、乙骨も心を許している人物。
そんな者たちに隙を突かれたら、どうなるか。
高専の結界が、吹き抜ける風を防げないのと同じだ。
五条の無力さを嘲笑うように、暴挙が止まらない。
「それでも守らなきゃ」
五条はポツリと呟くと、足早に歩を進めた。
立ち止まって悔いていたって始まらない。
今はとにかくできることをやる。
あの子を守るためなら、なりふり構わずやるしかないのだ。
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