Time patrol (おお振り)

あれ?何、この展開。
泉が首を傾げながら、予想外の顛末に呆然としている。
浜田も「だな」と頷きながら、自分たちを助けてくれた男が叱責されるのを眺めていた。

浜田良郎は世にいうところの苦学生だった。
父が勤め先をリストラされ、彼以外の家族は父の実家である九州へ引っ越した。
だが浜田は1人で東京に残り、バイトをしながら生計を立てて、高校に通った。
わざわざ苦労を選んだのは、どうしても離れたくないヤツがいたから。
それが幼なじみの泉孝介だった。

1つ年下の彼は、浜田の顔さえ見れば憎まれ口を叩く。
だが実際は家庭の事情で苦労している浜田のことを心配してくれるのだ。
そんなツンデレにすっかり惚れてしまった浜田は、1人東京残留を選んだ。
そして何とか自力で高校を卒業し、就職して、生活も安定した。
家族とは疎遠になったけれど、泉がいればそれでいい。
そう思っていた矢先に、不運な事件が起こった。

その夜は、泉が浜田の部屋に泊まりに来ていた。
2人とも翌日休みであるのをいいことに、一緒に部屋飲みをしたのだ。
そしていつの間にか寝落ちしてしまった浜田は、息苦しさで目を覚ました。
隣室で火災が発生し、すでに部屋には火が回っていたのだ。

こんなところで死ぬのか!?
愕然としていたところで、いきなり目の前に見知らぬ男が現れた。
男は浜田の腕を掴むと「とりあえずこっちへ」と引っ張った。

時空救助隊の阿部隆也です。
人類保護プログラムに基づき、あなたを救出に来ました。
男は真剣な顔で、訳がわからないことを言う。
しかもこの状況も不可思議だ。
ついさっきまで逃げ場のない火の海の中にいたのに、引っ張り込まれたこの空間には炎も煙もない。
だが浜田は我に返ると「泉は!?」と叫んだ。

あの部屋に泉がいるんだ!あいつを助けてくれ!
浜田は唯一の望みを口にした。
泉は未だに火の海に残したままで、このままでは間違いなく焼死する。
だが阿部と名乗った男は申し訳なさそうに「1回の救助は1人だけなんで」と言う。
しばらく埒が明かないやり取りを繰り返した後、浜田は意を決して叫んだ。

泉を助けてくれ。1人だけっていうならあいつを助けてくれ。
それが無理なら、俺をあいつのそばに戻してくれ!
振り絞るようなその叫びに、ついに阿部が折れた。
そして浜田と泉は阿部に導かれて、時空を越えた。

未来の世界では人口減少に悩んでいる。
そのため過去、若くして死亡した者の中から選ばれた人間を未来に連れてくる。
それを担うのが時空救助隊で、阿部はその隊員なのだと言う。
そんな荒唐無稽な説明を、浜田も泉もあっさりと状況を受け入れた。
別にあの時代に未練もないし、ここで新たな人生を歩むのも悪くないと思った。

そうして連れて来られた未来の施設、384番レスキュールームで事件は起こった。
阿部に案内されるままに歩いていると、年配の男性がツカツカとこちらに向かってきた。
そして「阿部隊員!」と目を吊り上げて叫んだ。
さらに「2人救助しただと?新人のくせに規定違反か!?」と怒鳴りつけたのだ。

その声を聞きつけたのか、さらに数名の男女が現れた。
そしてよってたかって阿部を非難している。
浜田にとって、阿部は火の海の中から自分を助けてくれた恩人だ。
その恩人が目の前でケチョンケチョンに怒られていると、どうにも居たたまれない。

あれ?何、この展開。
泉が首を傾げながら、予想外の顛末に呆然としている。
浜田も「だな」と頷きながら、自分たちを助けてくれた男が叱責されるのを眺めていた。
1/17ページ