【１】＊五条悟×高専時代の仲間たち＊

「花を咲かせることも、愛でることもできる。」
「でも花に『自分を分かってほしい』なんて思わないだろ。」

それはまぎれもなく五条の本音だった。
あまりにも薄情で、身勝手であることはわかっている。
それでも長年最強で孤独であった五条は、そう思ってしまった。

両面宿儺に敗北し、命を落とした五条は空港にいた。
さしずめここは三途の川。
この世からあの世へ渡る、中間地点と言ったところか。

そんな場所で、五条は久しぶりに再会した親友に語っていた。
両面宿儺との戦いの中で思ったことを。
負けてしまったけれど、楽しかった。
あの瞬間だけは、生徒たちよりも宿儺の方が自分の近くにいた。

「後は憂太に頑張ってもらうしかないかな」
五条は空港ロビーのソファにどっかりと座り、天を仰いだ。
自分にもしものことがあれば１、２年生のことを頼む。
五条はそれを乙骨憂太に託していた。
そしてその乙骨は今、宿儺と戦っている。

「残念ながら、乙骨ももう終わりのようだよ？」
隣に座っていた夏油傑が、そう言った。
この場所では、今生き残った者たちの戦いも知覚できる。
新宿での戦いに参加した乙骨の、両面宿儺との戦いもしっかり見届けた。
莫大な呪術量と今までに模倣した多くの術式を駆使した、激しい戦いだった。。
その結果、宿儺の手に残った全ての手札を使用不能にしたものの、そこまでだった。
あと一歩及ばず命を落とし、仲間たちに後を託したのだった。

「憂太。頑張ったね。」
五条は万感の思いを込めて、ここにはいない愛弟子を労った。
命と引き換えに、宿儺を無力化したのだ。
あとは残りの生徒たちで、倒せるだろう。

「君も早くここにおいで。君は特別なんだから」
五条は穏やかな笑みを浮かべながら、乙骨の到着を待った。
命を落とした者たちが全員この場所に来たわけではない。
おそらく「何か」条件があるはずで、その「何か」はわからない。
だけど五条は、乙骨もここに来る「何か」を持っていると思っていた。

なぜなら乙骨だけは、特別だから。
五条にとって、生徒たちは愛でるべき美しい花たち。
だけど彼だけは違う。
生徒の中では唯一、五条に並べる物。
そしてずっとそばにいてほしい、特別で大事な存在だ。

だからきっとこの場所に来てくれる。
五条はそれを確信し、待っていた。
最後に敗北したものの、あの両面宿儺を無力化したのだ。
ここに来たら労って、甘やかしてやりたい。

高専時代の姿の僕を見たら、君は何て言うかな？
五条はそんなことを思いながら、ひたすら待った。
だけどいくら待っても、乙骨は現れない。
そしてついに搭乗案内のアナウンスが空港ロビーに響き渡ったのだった。