空港にて~五乙的結末予想~【喜】の章

【1】*乙骨憂太×五条悟*

「何で来ちゃったの~?」
良く知っているはずなのに、雰囲気の違う男が驚いている。
状況が飲み込めない乙骨は「ここ、どこ?」と首を傾げた。

強烈な一撃を食らった乙骨憂太は、意識を飛ばした。
そして目覚めた時には見慣れない場所を歩いていたのだ。
どう見ても空港ロビーだ。
そして目の前には、よく知っている人が見慣れない姿で駆け寄ってきた。

「嘘!先生ですか?若い!」
乙骨は学生服姿の彼をまじまじと凝視した。
知っている姿よりはかなり若い。
服装も高専の制服で、アイマスクではなくサングラス。
だが白銀の髪と蒼い瞳の美貌、秀麗な美貌は見間違いようがない。
恩師であり、乙骨の目の前で死んだはずの五条悟だ。

「えっと。あそこにいるのは七海さんと。。。夜蛾学長ですか?」
「そうだよ。」
「七海さんの隣の人は?」
「あれは灰原。七海の同級で学生の頃に死んでる。」
「その向こうにいるのは、夏油、さん?」
「そうだよ。羂索じゃない。」

五条と問答しながら、何となく理解した。
ここはどうやら死んだ人間が来る場所のようだ。
その証拠に、見知った人間がチラホラといる。
しかも乙骨の記憶よりずいぶん若い姿で。

「ここに来たってことは、君も死んだの?」
「ええと。今死にかけてます。」
「まだ死んでないの?」
「今、必死に自力反転中です。」

乙骨は心の中で「多分そのはず」と付け加えた。
肉体はかなりのダメージを受け、放っておけばおそらく死ぬ。
自分で自分に反転術式をかけている最中だったのだ。
だからまだ反転中なのか、もしくは死んだのはわからない。

「っていうか、先生。ひどくないですか?」
「え?何が?」
「僕らはまだ諦めてなくて、必死に戦ってるんです!」
「うん。そうみたいだね。」
「はい。でも先生たちは同窓会を楽しんでるみたいですね。」
「え~?」

五条は頭を掻きながら、バツの悪そうな表情になった。
それを見た乙骨は、クスリと笑う。
自分より一回り近く年上で、ずっと導いてくれた恩師。
そんな彼の子供っぽい仕草が新鮮だったのだ。

「すみません。責めてないです。っていうかむしろ嬉しい。」
「嬉しい?」
「先生がこんな風に友達と笑っている姿を見られて」
「こんな風って」
「何ていうか屈託ない感じ?僕たちには見せてくれなかったでしょ?」

乙骨は寂しさを押し殺して、笑って見せた。
五条は自分たち生徒には、いつも明るく接してくれた。
だけど心の奥底を見せてはくれなかったと思う。
なぜなら彼は孤独な最強だったから。
ナンバー2と言われる乙骨ですら、五条は対等には見てくれなかった。

「先生の六眼、僕がもらうみたいです。」
「そっか。超遠縁とはいえ親戚だし、憂太なら六眼も使えるか。」
「代わりに僕の目をあげますよ。六眼ほど綺麗じゃなくて申し訳ないけど。」
「そんなことない。憂太の目も綺麗だよ?」
「あはは。お世辞はいいですよ。」
「お世辞じゃないって~」
「普通の目です。でも余計なものは見えないから楽ですよ。きっと」

乙骨は精一杯の感謝を込めて、そう言った。
そして一礼すると、大きなガラス窓の方へ向かう。
向こうに広がるのは、滑走路と出発を待つ飛行機。
彼らはもうすぐここを発ち、旅立っていくのだろう。

若くして亡くなってしまった彼らの目的地が平和でありますように。
幸せな青い春をやり直せますように。

乙骨はガラス越しに見上げる空に、そう祈る。
空は彼の瞳のように蒼く、どこまでも澄んでいた。
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