チョコレート爆弾

「ハァァ~!?」
医務室にらしからぬ声が響き渡った。
なぜなら担ぎ込まれてきたのは、現代最強の名を冠する男だったからだ。

2月14日、世間ではバレンタインデーである。
だけど呪術高専ではあまり関係なかった。
なぜならメンバーが限定され、入れ替わりが少ないからだ。
所属の呪術師、教職員、補助監督などはほぼ同じ顔ぶれ。
生徒だって数が少なく、今さら特別な日に告白なんてドラマはほぼない。

だから家入硝子も特に何の感慨もなかった。
仕事場は呪術高専の医務室。
呪霊は毎日のように発生しており、ケガをした術師も毎日のように現れる。
今日もなるべく負傷者が少ないことを祈りつつ、白衣を羽織った。
だがそんな願いとは裏腹に、医務室のドアが乱暴に開かれた。

「硝子、いる~?」
「いるぞ。何だ?」
朝っぱらからうるさいことだと思いながら、家入は訪問者を見る。
禪院真希、狗巻棘、そしてパンダだ。
そしてパンダの背中には、ぐったりと脱力した男が1人。
それが誰だかわかった家入は「ハァァ~!?」と声を上げた。

パンダに背負われていたのは、良く知っている腐れ縁の男だった。
最初に思うのは「なぜ反転を使わない?」だ。
だがこの男が反転術式を使えないほどに弱っているなら一大事である
自他ともに認める最強。。
しかもこうして運べるということは、無下限も使えていないということである。
大急ぎで処置を、いや先に報告するべきか?

「寮の談話室で寝こけてたのを見つけたんだけど、様子がおかしくてさ」
「いくら揺すっても起きないから、とりあえず運んで来たんだ」
「おかか。こんぶ」

生徒たちは説明しながら、五条の身体をベットに落とした。
乱暴な扱いに五条は「う~ん」と不満の声を上げる。
だが起きることはなく、そのままゴロンと寝返りを打った。
完全にこちらに背を向けた男に、家入が近づく。
そして状況に気付くと「何やってんだ。バカ」とため息をついた。
かなり昔のことだが、やはりこの男がこんな風になってことがある。
それをことを思い出し、バカバカしくなったのだ。

「このバカ目隠し、大丈夫なのか?」
さすがに普段と違う五条に、真希が眉を潜めながらそう言った。
狗巻とパンダも無言のまま、診断を待つ。
家入は苦笑しながら、自分の見立てを話した。
すると今度は生徒たちの驚きと不満の声が見事にハモったのだった。
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