コンビニエンス・リカちゃん

「今日はよろしくお願いします。」
乙骨が丁寧に挨拶し、ニッコリ笑う。
虎杖は恐縮しながら「こちらこそよろしくっす」と返した。

虎杖悠仁は任務についていた。
一緒に動くのは、同級生である釘崎野薔薇と伏黒恵。
内容は北関東の某所にある山林に大量発生した呪霊の祓除だ。
難易度としては高くない。
現れる呪霊は低級で、危険も少ないという話だ。
だが数が多いうえに、敷地が広大で隠れやすいらしい。
つまり時間がかかる面倒な任務ということだ。

難易度的にはさほど高くない今回、不思議なことが1つあった。
それは引率が乙骨憂太であるということだ。
彼が車を運転して、3人を送迎するという。
普通に考えれば、ピンチになったら特級術師が助けるという意味だ。
つまり信用されていないということか?
案の定、釘崎は「特級様がサポートかよ」と悪態をついている。
だから行きの車の中で、虎杖は乙骨に聞いてみた。

「俺ら3人じゃ力不足って思われてるんですかね?」
「違うよ。本当は引率は伊地知さんだったけど、代わってもらったんだ。」
「え?何で?」
「つい最近、免許を取ったんだ。だから運転の練習がしたくて」
「そうなの?っていうか、それはそれで事故とか怖いんだけど!」
「大丈夫だよ。リカちゃんもいるしね。」

虎杖は半分納得したが「?」が残った。
運転の練習と聞いて「なるほど」とは思ったのだ。
だけど練習にしては、乗っている車は結構な大きさの高級外車である。
しかもくねくねの細い山道、確かに練習にはなるかもしれない。
だが車は傷つきそうだし、危険では?
それに最後の「リカちゃんがいるし」は意味不明だ。
だけど当の乙骨は「来たからには役に立つよ」と笑っている。
そうこうしているうちに、車は目的地に到着した。

「それじゃ、頑張ってね!」
虎杖たちは手を振る乙骨に見送られ、三人三様に走り出した。
現場となる山林の外れにある空き地に車を止め、乙骨はそこで待つ。
そして虎杖たちは呪霊討伐開始だ。
事前の情報通り、低級の呪霊がうようよしている。
時間がかかりそうな任務であることを、改めて実感した。

そこからは力仕事となった。
襲ってくる、あるいは隠れている呪霊をひたすら祓う。
技も何も必要ない、とにかく祓いまくる。
だけどこれはこれで、良い鍛錬になるかな。
虎杖はそんなこと考えた。
闇雲に戦っては体力負けする。
乙骨も送り出すときに「体力の配分に気をつけて」と言ってくれたし。

『きゅうけい、だよぉお』
集中して呪霊を祓っていると、上空にリカが現れて手を振っていた。
リカは虎杖たちが祓除している間、時折飛んでいる姿が見えた。
念のためにリカちゃんが巡回するから、何かあったら声をかけて。
乙骨からはそう言われていたのだ。
全面的に任せるけど、万一のときの保険もちゃんとある。
まったく至れり尽くせりとはこのことだ。

『ゆうたが待ってるよぉ』
リカは虎杖に手招きした。
ふと見れば、もう陽が大分傾いている。
もうそんな時間、確かにそろそろ休憩か。
虎杖はゆっくりと乙骨がいる空地へと歩き出す。
だがその途中で違和感を覚え、鼻をヒクヒクさせた。
場違いな、そして食欲を刺激する香り。
キャンプの定番、そして日本人が大好きなあの料理だ。

「乙骨先輩!何やってんの!」
虎杖は乙骨の元へ駆け寄り、叫んだ。
テーブルが置かれ、その上にはカセットコンロが2つ。
1つには土鍋が置かれ、米が炊けるにおいが立ち込める。
そして乙骨はもう1つのコンロの寸胴鍋をかき混ぜていた。
漂っていた香りから予想した通り、カレーである。
豚肉と野菜を市販のルーで煮込んだ所謂「おうちカレー」である。

「みんなを待っている間に作ってた。長くなりそうだったから」
「車にこんな道具、積んでたっけ?」
「リカちゃんが持っててくれるんだ。こんな感じで」

乙骨がリカを指差した。
するとリカは懐と思しき場所から皿やスプーンなどを出し始めた。
虎杖は「アイテムボックスみたい」と感嘆する。
異世界漫画などで有名な、何でも収納できるスキルだ。
リカは乙骨のために呪具などを常備しているが、まさか料理道具まであるとは。

そこへ釘崎と伏黒が帰って来た。
釘崎は「カレー!腹減ってたんだ~!」と食欲に忠実だった。
伏黒は「先輩の手料理ですか」となぜか嬉しそうだ。
虎杖も素直に「美味そうっすね」と笑った。

本当はいろいろ気になる。
予想外のスキルを持つリカ。
そしてこの状況下で暢気にカレーを作る乙骨も。
だけど今は空腹だ。
まずは美味しくいただくのが正解だろう。

「そろそろご飯も良い感じ!じゃあ用意するね。」
乙骨はニコニコと笑いながら、人数分のカレーを盛り付けていく。
紙皿ではなく、プラスチックだがちゃんとしたお皿だ。
そしてペットボトルの水や、小ぶりなサラダまである。
その横でリカは人数分の椅子を出し、並べていた。

「「「いただきます!!!」」」
かくして3人は、乙骨特製のカレーを食べた。
ごくごくありふれた日本人におなじみの味。
だけど空腹の今、何よりのご馳走だ。

「どうぞ。おかわりはリカちゃんに言ってね」
乙骨はニコニコと応じて、自分でもカレーにスプーンを入れた。
リカは鍋の横で、お玉を持ちながら待機している。
虎杖は「リカちゃん、便利だな」と感心しながら、カレーを堪能したのだった。
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