イメージチェンジ
「憂太~!髪切るよ~!」
唐突に部屋のドアが開き、見慣れた白銀が現れる。
熟睡中だった憂太は「へ?」と間抜けな声を上げた。
憂太が寮の自室に戻り、ベットに入ったのは早朝だった。
緊急の任務のため、急に呼ばれたのが夜だったのだ。
幸いなことにこの日は休日、昼間に寝てても問題ない。
そう思って布団に入り、すぐさま眠りに落ちた。
だが10分も経たないうちに、五条が部屋に現れたのだ。
「憂太、早く起きて!髪を切るんだから!」
憂太がまだ寝ぼけている間に、五条は床に新聞紙を敷き始めた。
そしてその中央に部屋にあった椅子を移動させる。
さらに机の上にハサミや櫛、霧吹きのボトルを置き始めた。
寝ぼけ眼でそれを見ていた、憂太はようやく覚醒した。
そして理解した途端「え?」と首を傾げる。
髪を切る?今ここで?
「ええと。もしかして先生が切るんでしょうか?」
「そうそう。まかせて!」
訳が分からないうちに手を引かれ、椅子に座らされた。
そして首にケープが巻かれる。
何を言う暇もなく、プシュプシュと髪が濡らされた。
「安心してよ。小さい頃の恵や津美紀の髪は僕が切ってたんだよ?」
「え?でも」
わざわざ先生がやらなくてもと思ったが、それを言う暇もなかった。
五条は鋏を取り、サクサクと切り始めたからだ。
その手つきは危なげなく、なめらかだ。
「よろしくお願いします。」
憂太は観念して、軽く頭を下げた。
どうせそろそろ切らなくてはいけないと思っていたのだ。
実は最後に切ったのは数が月前のアフリカで。
その後、渋谷事変やら新宿決戦やらで切る暇がなかった。
その後も忙しく年が明け、そのままになっていた。
「あれ?先生。これって」
違和感に気付いたのは、切り始めて10分以上経ってからだ。
スタイルが変わっている?
ここ最近のおでこを出す形ではない。
呪術高専に来た頃の前髪をたらす形に戻っていたのだ。
すぐに気付かなかったのは、美容室のような大きな鏡がなかったから。
部屋の壁に据え付けの身支度用の四角い鏡を見て、驚いた。
「メンゴ!気が付いたら恵と同じスタイルになってた!」
テヘっと笑う五条に、苦笑する。
ようやく最初に何も聞かれなかったと思い至った。
理髪店や美容室ならまず「どうしますか?」と聞かれるものだ。
だけど憂太は「まぁいいか」と思った。
元々髪形を変えたのは、アフリカを放浪することになったからだ。
日本と違い、定期的に決まった美容室に行ける状況ではない。
だから何となく前髪を下ろさない形になった。
左右に分けてワックスで固めてしまえば、伸びてしまっても鬱陶しくない。
そんな理由、つまり髪形にこだわりなどまったくないのだ。
「ありがとうございます。さっぱり軽くなりました。」
「そう。よかった。」
五条は上機嫌で、後片付けを始めた。
憂太は慌てて「僕がやっときます」と告げるが、五条は「ううん」と首を振った。
実際、床に敷いた新聞紙を切った髪ごと丸めてゴミ袋に放り込んで終わりだ。
伏黒姉弟の髪を切っていたというのは、本当らしい。
片付け作業も本当に手慣れた感じに見えた。
「あ、憂太。言い忘れてた!」
部屋を出ようとした五条が振り向き、憂太を見た。
鏡の前で新しい髪形を確認していた憂太は「はい?」と問う。
五条は「制服なんだけど」と少しだけ申し訳なさそうな顔になった。
少し前に新しい制服の申請を出していた。
憂太だけが着る白い上着は、夏用と冬用を2枚ずつ支給されていた。
だけど夏用はずっとアフリカで着まわしていたので、すでにボロボロ。
冬用の1枚は両面宿儺にザックリ切り裂かれた。
今は残り1枚の冬用上着を着ているが、これももうヨレヨレだ。
だが五条は「メンゴ!」とあやまってきた。
「憂太の上着は白の特注品で、今は在庫がないんだよね~!」
「そうなんですか?」
「うん。だから去年の黒いヤツを着てくれる?」
「わかりました。」
憂太はあっさりと納得した。
約1年前、里香の解呪後に憂太は特級から4級に落ちた。
そのときに冬用の黒い上着が支給されていたのだ。
確かに短い期間しか着なかったので、新品に近い状況でしまってある。
これを着れば問題ない。
ちなみに憂太は上着の色にまったくこだわりはなかった。
むしろ白は汚れが目立つので、黒の方が楽でありがたいとさえ思う。
「じゃあ明日から黒いのにします。」
「うん。悪いね。」
「いえ。全然気になりませんから。」
「そう。よかった。」
五条は最後まで機嫌よく、憂太の部屋を出て行った。
残された憂太は、また鏡を見る。
人生のほとんどはこの髪形だったはずなのに、ひどく懐かしい。
何だかちょっと子供っぽくなった気がして、照れくさくもある。
意味なく鏡の中の自分に笑いかけていると、スマホが鳴った。
メッセージアプリに着信が入ったのだ。
スマホを手に取り、確認した憂太の顔が強張った。
近いうちに帰ってこれない?
お父さんとお母さんがお兄ちゃんに会いたいんだって。
それは仙台の実家にいる妹からのメッセージだった。
それ自体は問題ないのだ。
何となく季節の変わり目には短いやり取りをしていたのだから。
だが今回のメッセージは意味深過ぎた。
実家を出て以来、まったく音沙汰がなかった両親が今さら何を?
何となく嫌な予感しかしないが、ことわるのも憚られる。
憂太はため息をつきながら、了承の返事を返していた。
唐突に部屋のドアが開き、見慣れた白銀が現れる。
熟睡中だった憂太は「へ?」と間抜けな声を上げた。
憂太が寮の自室に戻り、ベットに入ったのは早朝だった。
緊急の任務のため、急に呼ばれたのが夜だったのだ。
幸いなことにこの日は休日、昼間に寝てても問題ない。
そう思って布団に入り、すぐさま眠りに落ちた。
だが10分も経たないうちに、五条が部屋に現れたのだ。
「憂太、早く起きて!髪を切るんだから!」
憂太がまだ寝ぼけている間に、五条は床に新聞紙を敷き始めた。
そしてその中央に部屋にあった椅子を移動させる。
さらに机の上にハサミや櫛、霧吹きのボトルを置き始めた。
寝ぼけ眼でそれを見ていた、憂太はようやく覚醒した。
そして理解した途端「え?」と首を傾げる。
髪を切る?今ここで?
「ええと。もしかして先生が切るんでしょうか?」
「そうそう。まかせて!」
訳が分からないうちに手を引かれ、椅子に座らされた。
そして首にケープが巻かれる。
何を言う暇もなく、プシュプシュと髪が濡らされた。
「安心してよ。小さい頃の恵や津美紀の髪は僕が切ってたんだよ?」
「え?でも」
わざわざ先生がやらなくてもと思ったが、それを言う暇もなかった。
五条は鋏を取り、サクサクと切り始めたからだ。
その手つきは危なげなく、なめらかだ。
「よろしくお願いします。」
憂太は観念して、軽く頭を下げた。
どうせそろそろ切らなくてはいけないと思っていたのだ。
実は最後に切ったのは数が月前のアフリカで。
その後、渋谷事変やら新宿決戦やらで切る暇がなかった。
その後も忙しく年が明け、そのままになっていた。
「あれ?先生。これって」
違和感に気付いたのは、切り始めて10分以上経ってからだ。
スタイルが変わっている?
ここ最近のおでこを出す形ではない。
呪術高専に来た頃の前髪をたらす形に戻っていたのだ。
すぐに気付かなかったのは、美容室のような大きな鏡がなかったから。
部屋の壁に据え付けの身支度用の四角い鏡を見て、驚いた。
「メンゴ!気が付いたら恵と同じスタイルになってた!」
テヘっと笑う五条に、苦笑する。
ようやく最初に何も聞かれなかったと思い至った。
理髪店や美容室ならまず「どうしますか?」と聞かれるものだ。
だけど憂太は「まぁいいか」と思った。
元々髪形を変えたのは、アフリカを放浪することになったからだ。
日本と違い、定期的に決まった美容室に行ける状況ではない。
だから何となく前髪を下ろさない形になった。
左右に分けてワックスで固めてしまえば、伸びてしまっても鬱陶しくない。
そんな理由、つまり髪形にこだわりなどまったくないのだ。
「ありがとうございます。さっぱり軽くなりました。」
「そう。よかった。」
五条は上機嫌で、後片付けを始めた。
憂太は慌てて「僕がやっときます」と告げるが、五条は「ううん」と首を振った。
実際、床に敷いた新聞紙を切った髪ごと丸めてゴミ袋に放り込んで終わりだ。
伏黒姉弟の髪を切っていたというのは、本当らしい。
片付け作業も本当に手慣れた感じに見えた。
「あ、憂太。言い忘れてた!」
部屋を出ようとした五条が振り向き、憂太を見た。
鏡の前で新しい髪形を確認していた憂太は「はい?」と問う。
五条は「制服なんだけど」と少しだけ申し訳なさそうな顔になった。
少し前に新しい制服の申請を出していた。
憂太だけが着る白い上着は、夏用と冬用を2枚ずつ支給されていた。
だけど夏用はずっとアフリカで着まわしていたので、すでにボロボロ。
冬用の1枚は両面宿儺にザックリ切り裂かれた。
今は残り1枚の冬用上着を着ているが、これももうヨレヨレだ。
だが五条は「メンゴ!」とあやまってきた。
「憂太の上着は白の特注品で、今は在庫がないんだよね~!」
「そうなんですか?」
「うん。だから去年の黒いヤツを着てくれる?」
「わかりました。」
憂太はあっさりと納得した。
約1年前、里香の解呪後に憂太は特級から4級に落ちた。
そのときに冬用の黒い上着が支給されていたのだ。
確かに短い期間しか着なかったので、新品に近い状況でしまってある。
これを着れば問題ない。
ちなみに憂太は上着の色にまったくこだわりはなかった。
むしろ白は汚れが目立つので、黒の方が楽でありがたいとさえ思う。
「じゃあ明日から黒いのにします。」
「うん。悪いね。」
「いえ。全然気になりませんから。」
「そう。よかった。」
五条は最後まで機嫌よく、憂太の部屋を出て行った。
残された憂太は、また鏡を見る。
人生のほとんどはこの髪形だったはずなのに、ひどく懐かしい。
何だかちょっと子供っぽくなった気がして、照れくさくもある。
意味なく鏡の中の自分に笑いかけていると、スマホが鳴った。
メッセージアプリに着信が入ったのだ。
スマホを手に取り、確認した憂太の顔が強張った。
近いうちに帰ってこれない?
お父さんとお母さんがお兄ちゃんに会いたいんだって。
それは仙台の実家にいる妹からのメッセージだった。
それ自体は問題ないのだ。
何となく季節の変わり目には短いやり取りをしていたのだから。
だが今回のメッセージは意味深過ぎた。
実家を出て以来、まったく音沙汰がなかった両親が今さら何を?
何となく嫌な予感しかしないが、ことわるのも憚られる。
憂太はため息をつきながら、了承の返事を返していた。
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