あの雨の日に
ああ、雨は嫌だな。
憂太は雨雲が広がった暗い空を見上げ、かすかに眉を潜めた。
今はもう全て過去にして、乗り越えたはずなのに。
やはりふとした時に、思い出してしまうのだ。
乙骨憂太は足取り軽く、呪術高専の校舎内の廊下を進んでいた。
このところ任務続きだったが、今日は久しぶりになにもないはずだった。
だが喜び勇んで教室に向かっていた途中で、スマホが鳴った。
急な任務が割り当てられてしまったのだ。
憂太は肩を落とすと、教室に背を向け、玄関に向かった。
高専の敷地を出たところで、連絡をくれた補助監督が待ってくれているだろう。
正直言って気分は重い。
ようやく同級生のみんなに会えると思っていたのに。
そしてさらに憂太の心を沈ませるのは、今朝から降り出した雨のせいだった。
あの日も雨が降っていた。
前の学校でいじめを受けて、里香が逆襲したあの日だ。
相手の男子生徒たちに瀕死の重傷を負わせ、ロッカーに詰め込んだあの時。
鼻を突く血の匂いの中で、雨の音を聞いた。
忘れたくても忘れられない、悪夢のような記憶だ。
だからこの学校にきた当初は、雨の日はいつも心が乱れていたと思う。
最近はもうかなり大丈夫になったと思うが、やはり雨の日にはテンションが下がった。
特に今日のように、連日の任務続きで心が疲弊しているときにはなおさらだ。
「切り替えなくちゃ。集中、集中!」
憂太はブツブツと呟きながら、玄関へ急ぐ。
そして靴を履き替えようとしていたところで「憂太」と声がかかった。
振り返るとそこにいたのは、すっかり見慣れた黒い長身の男。
特級術師にして、呪術高専の教師の五条悟だ。
「五条先生、おはようございます。」
律義に頭を下げる憂太に、五条は「おっはよ~」と挨拶を返してくれる。
いつものようにテンションが高い五条に、憂太は微笑した。
朝だろうと雨だろうと、彼はいつもマイペースで元気いっぱいなのだ。
「先生、どうしてここに?」
憂太はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
これから任務に向かう自分と違い、五条はこれから授業のはずだ。
すると五条はカラカラと笑い「交代したんだよ」と答えた。
「憂太にさっき振られた今日の任務、僕が行くから」
「え?そうなんですか?」
「うん。憂太はこのところ任務続いたでしょ?そろそろ授業受けないと」
「そんな。なんか悪いです」
「かまわないよ」
五条はアイマスク越しでもわかる笑顔で、憂太の背中をそっと押した。
教室に行けということだろう。
憂太としては、同級生に会えるし嬉しい。
だけどこんな雨の日に代わってもらうのは申し訳ない気がする。
「大丈夫。無下限があるから僕は雨に濡れないから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
五条は憂太の肩をポンと叩くと、校舎を出ていく。
憂太はその後姿に深く頭を下げた。
こんな風に雨の日に任務を代わってもらったのは初めてではない。
つまりそういうことなんだろう。
嬉しくないと言えば、嘘になる。
こんな憂鬱な雨の日は、任務より同級生に囲まれて笑って過ごしたいから。
だけど雨の日に本調子でないのが五条にはバレているのは良くない。
代わってくれるというのは、一人前と見られていないのだろう。
「もっと頑張ろう」
憂太は小さくそう呟くと、密かに決心していた。
もっと強くなろう。呪術も身体も心も。
雨の日だろうと、五条が安心して任せてくれるように。
憂太は足早に教室に戻った。
そして声をかけてくれる同級生たちを見て、晴れやかに笑ったのだった。
憂太は雨雲が広がった暗い空を見上げ、かすかに眉を潜めた。
今はもう全て過去にして、乗り越えたはずなのに。
やはりふとした時に、思い出してしまうのだ。
乙骨憂太は足取り軽く、呪術高専の校舎内の廊下を進んでいた。
このところ任務続きだったが、今日は久しぶりになにもないはずだった。
だが喜び勇んで教室に向かっていた途中で、スマホが鳴った。
急な任務が割り当てられてしまったのだ。
憂太は肩を落とすと、教室に背を向け、玄関に向かった。
高専の敷地を出たところで、連絡をくれた補助監督が待ってくれているだろう。
正直言って気分は重い。
ようやく同級生のみんなに会えると思っていたのに。
そしてさらに憂太の心を沈ませるのは、今朝から降り出した雨のせいだった。
あの日も雨が降っていた。
前の学校でいじめを受けて、里香が逆襲したあの日だ。
相手の男子生徒たちに瀕死の重傷を負わせ、ロッカーに詰め込んだあの時。
鼻を突く血の匂いの中で、雨の音を聞いた。
忘れたくても忘れられない、悪夢のような記憶だ。
だからこの学校にきた当初は、雨の日はいつも心が乱れていたと思う。
最近はもうかなり大丈夫になったと思うが、やはり雨の日にはテンションが下がった。
特に今日のように、連日の任務続きで心が疲弊しているときにはなおさらだ。
「切り替えなくちゃ。集中、集中!」
憂太はブツブツと呟きながら、玄関へ急ぐ。
そして靴を履き替えようとしていたところで「憂太」と声がかかった。
振り返るとそこにいたのは、すっかり見慣れた黒い長身の男。
特級術師にして、呪術高専の教師の五条悟だ。
「五条先生、おはようございます。」
律義に頭を下げる憂太に、五条は「おっはよ~」と挨拶を返してくれる。
いつものようにテンションが高い五条に、憂太は微笑した。
朝だろうと雨だろうと、彼はいつもマイペースで元気いっぱいなのだ。
「先生、どうしてここに?」
憂太はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
これから任務に向かう自分と違い、五条はこれから授業のはずだ。
すると五条はカラカラと笑い「交代したんだよ」と答えた。
「憂太にさっき振られた今日の任務、僕が行くから」
「え?そうなんですか?」
「うん。憂太はこのところ任務続いたでしょ?そろそろ授業受けないと」
「そんな。なんか悪いです」
「かまわないよ」
五条はアイマスク越しでもわかる笑顔で、憂太の背中をそっと押した。
教室に行けということだろう。
憂太としては、同級生に会えるし嬉しい。
だけどこんな雨の日に代わってもらうのは申し訳ない気がする。
「大丈夫。無下限があるから僕は雨に濡れないから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
五条は憂太の肩をポンと叩くと、校舎を出ていく。
憂太はその後姿に深く頭を下げた。
こんな風に雨の日に任務を代わってもらったのは初めてではない。
つまりそういうことなんだろう。
嬉しくないと言えば、嘘になる。
こんな憂鬱な雨の日は、任務より同級生に囲まれて笑って過ごしたいから。
だけど雨の日に本調子でないのが五条にはバレているのは良くない。
代わってくれるというのは、一人前と見られていないのだろう。
「もっと頑張ろう」
憂太は小さくそう呟くと、密かに決心していた。
もっと強くなろう。呪術も身体も心も。
雨の日だろうと、五条が安心して任せてくれるように。
憂太は足早に教室に戻った。
そして声をかけてくれる同級生たちを見て、晴れやかに笑ったのだった。
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