第9話「ホークアイ」

「これを見て下さい。」
柴崎はノートパソコンの画面を、こちらに向けた。
それを見た堂上は「何だ、これ」とうめいた。

正化32年5月某日、特殊部隊の庁舎内。
会議室では恒例の班長会議が行なわれていた。
いつも通りの面子で始まる、いつも通りの会議。
だが今回は1つだけ、違うことがあった。
図書隊の華、柴崎麻子が出席していたのである。

「まずは柴崎、頼む。」
会議が始まるなり、玄田は柴崎に振った。
班長たちは自然に柴崎の方に向き直る。
そんな気配を感じ取ったのか、柴崎は苦笑した。
柴崎の図書隊内での実際の立ち位置は公にはなっていないが、班長クラスはさすがに感じ取っている。
だから彼女が参加するというだけで、緊張感が増すのだ。

「そんなに差し迫った話ではないんですが」
柴崎はそう前置きをすると、持参していたノートパソコンを開いた。
そしてカチャカチャとキーを叩いた後「これを見て下さい」と画面を班長たちに向ける。
それはとあるサイトのトップ画面だった。

VORPAL SWORDS。
左上にはソリッドな字体のロゴが書かれている。
そして中央には、見覚えがある写真。
いつかネットを検索してチェックした、黒子の高校時代の写真だ。
バスケットボールの試合直後、7人の選手がガッツポーズをしているあの写真。
かつてアメリカ代表チーム「Jabberwock」と戦った日本代表「VORPAL SWORDS」の面々だ。

「彼ら7人が近況などを綴っているブログサイトです。」
柴崎はそう説明すると、クリックして画面を進める。
すると見覚えがある青年の隊員の姿が現れた。
胸に「SEIRIN」と書かれたバスケのユニフォーム姿の黒子。
どうやらそこは黒子のブログらしい。

「うわ、黒子って年齢不詳だな。高校時代とほとんど顔が変わってねぇ!」
思わずそんなことを口走ったのは、進藤だった。
あちこちから「確かになぁ」と声が上がり、堂上も思わず頷いてしまう。
先日図書館のイベントに現れた青峰大輝や火神大我などは、雰囲気が違う。
少年っぽさは完全に消え、大人の男らしく変貌していた。
だが黒子はほとんど変わらないままだ。
きっと今、高校の制服を着せたところでさほど違和感はないだろう。

「今それは問題じゃないだろう。」
緒形が呆れたように割って入り、柴崎に「続けろ」と指示する。
柴崎は「はい」と頷き、またクリックした

「7人がテーマを決めて、記事を書いています。」
柴崎はそう前置きして、7人のブログを軽く紹介し始めた。

NBAプレイヤーの青峰と火神は、バスケの話とアメリカの生活がメインだ。
有名選手とのツーショットや、日々のトレーニングなど、典型的なアスリートの日記だった。
モデルの黄瀬はファッションの話がメインで、これまたそれっぽい。
ビジネスマンとして働く赤司は、仕事の合間のこぼれ話を面白おかしく綴っていた。
驚いたのは、毎日ラッキーアイテムを写真に撮って更新する緑間だ。

注目なのは紫原だ。
彼は自分が良化隊員であるという身分を明かしていた。
だがブログの内容は、市販のお菓子のことばかりだった。
単に食べて美味しいというだけではなく、もっとこうした方がいいとかこんな味が欲しいなどと要望も書いている。
だがそれが案外具体的で、どこの料理評論家だと言いたくなるような内容だ。

そして問題の黒子は、本の書評がメインだった。
図書館で働いているが、正式な図書隊員ではない。
黒子のプロフィールにはそう抱えており、いくつかの本を取り上げ、その感想を書いていた。

「これって普通だよな?」
「もしかして守秘義務違反。。。になるのか?」
班長たちは無難な内容に首を傾げる。
すると柴崎は「問題はそこではないんです」と告げた。

まったく黒子がからむと何でもかんでも不気味に見える。
堂上はウンザリした気分で、柴崎の説明を待った。
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