第5話「権力者」
あの男!
堂上は思わず声をあげそうになった。
だが慌てて気を引き締めると、目の前の状況に集中した。
図書特殊部隊は激しい戦闘の中にいた。
小田原にある私立図書館、情報歴史資料館。
テレビ番組や、雑誌などのメディア良化法に関するありとあらゆる報道記録が保管されている。
今までは私立図書館、つまり個人所有なのでメディア良化委員会も手が出せなかった。
だが理事長である野辺山宗八の死により閉館。
所蔵品は関東図書隊が引き取る事となり、それを阻止しようとするメディア良化隊との間で抗争が勃発する。
世に言う「小田原攻防戦」である。
特殊部隊の全員が、この戦闘に参加した。
たった1人、笠原郁を除いては。
郁は野辺山氏の葬儀に参観する稲嶺の警護に就かせている。
これは完全に堂上のわがままだ。
親に自分の仕事を隠しているからなどというのは、建前に過ぎない。
郁を危険に晒したくないという極めて個人的な気持ちで、堂上は郁をこの戦闘から外したのだ。
戦闘は未だかつてないほど、激しいものだった。
図書類を運び出すのだが、途中のルートにはことごとく良化隊員が待ち構えていた。
ある者は銃で狙撃され、またある者は格闘の末に倒される。
それを目の当たりにした堂上は、やはり郁を外したのは正解だと思った。
『北側ルートがやられてる!フォローに回れる者はいるか!?』
無線から切羽詰まった声が聞こえて、堂上と小牧は顔を見合わせた。
書庫から運搬用のコンテナまで、いくつかのルートがある。
その中でも北側は特に通路が細い上に曲がり角が多く、銃撃がむずかしい場所だ。
おそらくは肉弾戦が繰り広げられているだろう。
「どうする?」
小牧が声をかけてきたが、堂上は首を横に振った。
悔しいが、振るしかなかった。
小回りが利かない場所での肉弾戦、つまりパワー勝負ということだ。
そうなると小柄で線の細い堂上班には出番がない。
それよりはスピードが生かせる場所の方が、効率がいい。
やがて抗争終了の声がかかり、堂上たちは集合場所へ急ぐ。
そのときふと目に留まった男に、堂上は思わず声を上げそうになった。
そんな堂上を訝しく思ったのだろう。
小牧は堂上の視線を追い、小さく「あいつは」と呟いた。
そこにいたのは、見覚えのある男だった。
良化隊の戦闘服に身を包んだ一際大きな男。
無駄にインパクトのある風貌は、間違いない。
確か先日、武蔵野第一図書館に来ていた男だ。
館内で菓子を食べていたと注意されていた。
そして黒子と親し気に話をしていた。
「まさか黒子二士、良化隊と通じてるのか?」
小牧が男を凝視しながら、恐ろしい仮定を口にする。
堂上は「まさか」と答えながらも、心の中でモヤモヤと割り切れないものを感じていた。
黒子という男には、謎めいた部分が多すぎる。
それにあの大男の良化隊員と親し気に話していたという事実は、現実だ。
「とりあえず今は撤収だ。」
堂上は自分に言い聞かせるようにそう告げると、重い足取りで歩き出した。
告別式会場で稲嶺と郁が拉致されたと知らせが届くのは、この直後のことだ。
堂上は思わず声をあげそうになった。
だが慌てて気を引き締めると、目の前の状況に集中した。
図書特殊部隊は激しい戦闘の中にいた。
小田原にある私立図書館、情報歴史資料館。
テレビ番組や、雑誌などのメディア良化法に関するありとあらゆる報道記録が保管されている。
今までは私立図書館、つまり個人所有なのでメディア良化委員会も手が出せなかった。
だが理事長である野辺山宗八の死により閉館。
所蔵品は関東図書隊が引き取る事となり、それを阻止しようとするメディア良化隊との間で抗争が勃発する。
世に言う「小田原攻防戦」である。
特殊部隊の全員が、この戦闘に参加した。
たった1人、笠原郁を除いては。
郁は野辺山氏の葬儀に参観する稲嶺の警護に就かせている。
これは完全に堂上のわがままだ。
親に自分の仕事を隠しているからなどというのは、建前に過ぎない。
郁を危険に晒したくないという極めて個人的な気持ちで、堂上は郁をこの戦闘から外したのだ。
戦闘は未だかつてないほど、激しいものだった。
図書類を運び出すのだが、途中のルートにはことごとく良化隊員が待ち構えていた。
ある者は銃で狙撃され、またある者は格闘の末に倒される。
それを目の当たりにした堂上は、やはり郁を外したのは正解だと思った。
『北側ルートがやられてる!フォローに回れる者はいるか!?』
無線から切羽詰まった声が聞こえて、堂上と小牧は顔を見合わせた。
書庫から運搬用のコンテナまで、いくつかのルートがある。
その中でも北側は特に通路が細い上に曲がり角が多く、銃撃がむずかしい場所だ。
おそらくは肉弾戦が繰り広げられているだろう。
「どうする?」
小牧が声をかけてきたが、堂上は首を横に振った。
悔しいが、振るしかなかった。
小回りが利かない場所での肉弾戦、つまりパワー勝負ということだ。
そうなると小柄で線の細い堂上班には出番がない。
それよりはスピードが生かせる場所の方が、効率がいい。
やがて抗争終了の声がかかり、堂上たちは集合場所へ急ぐ。
そのときふと目に留まった男に、堂上は思わず声を上げそうになった。
そんな堂上を訝しく思ったのだろう。
小牧は堂上の視線を追い、小さく「あいつは」と呟いた。
そこにいたのは、見覚えのある男だった。
良化隊の戦闘服に身を包んだ一際大きな男。
無駄にインパクトのある風貌は、間違いない。
確か先日、武蔵野第一図書館に来ていた男だ。
館内で菓子を食べていたと注意されていた。
そして黒子と親し気に話をしていた。
「まさか黒子二士、良化隊と通じてるのか?」
小牧が男を凝視しながら、恐ろしい仮定を口にする。
堂上は「まさか」と答えながらも、心の中でモヤモヤと割り切れないものを感じていた。
黒子という男には、謎めいた部分が多すぎる。
それにあの大男の良化隊員と親し気に話していたという事実は、現実だ。
「とりあえず今は撤収だ。」
堂上は自分に言い聞かせるようにそう告げると、重い足取りで歩き出した。
告別式会場で稲嶺と郁が拉致されたと知らせが届くのは、この直後のことだ。
1/5ページ