after story13「紫の風」
「未来の僕に~♪誇れるよう~♪信じた今を~♪歩もう~♪」
郁は鼻唄を歌いながら、上機嫌でキッチンに立っていた。
早く帰宅した方が夕食を作るのが、堂上家のルール。
今日は郁が早かったので、食事の支度をしている。
「篤さん、今日はずっと会議だからストレス溜まってるんだろうなぁ」
郁は夫のことを気遣い、夫の好物を食卓に並べていく。
遅いという連絡はなかったから、もうそろそろ帰ってくるはずだ。
ちょうどそのときタイミングよく、玄関のドアが開いた。
郁は笑顔で「篤さん、お帰りなさい!」と満面の笑みで迎えたのだが。
「郁、聞いていいか」
堂上はこの世の終わりのような顔をして、郁を見た。
郁は驚き「いったいどうしたの!?」と詰め寄る。
堂上は「正直に聞かせてくれ」と前置きすると、説明し始めた。
今日、堂上はずっと業務部の会議に参加していた。
郁とは図書館業務と内勤だったので、完全に別行動だ。
そして会議を終え、図書館を通って特殊部隊庁舎へ戻ろうとしたところで問題は起こった。
後方支援部の隊員2人と遭遇したのである。
「堂上一正、お疲れ様です。」
2人のうちの1人、黒子テツヤが丁寧に頭を下げた。
後方支援部に戻ったものの、つい最近までは堂上班の一員だった男だ。
堂上は「ああ、お疲れ」と答えながら、もう1人の男を見た。
彼は数日前に後方支援部に配属されたにも関わらず、武蔵野第一図書館で一番注目されている男。
元良化隊員の紫原敦だ。
「ど~も、お疲れ様で~す」
紫原は気が抜けたような緩い口調で、堂上を見た。
正規の図書隊員だったら叱責するところだが、後方支援部は協力会社の社員。
どうしたものかと思案した途端、紫原は「図書隊員ってみんな小さいね」と手を伸ばす。
そしてその手はあろうことか堂上の頭に乗り、わしゃわしゃと髪をなで回したのだ。
「紫原君、何やってるんですか!」
黒子は紫原を咎めながらその手を振り払い、堂上に「申し訳ありません」と頭を下げた。
さらに「彼のクセなんです。その、背が低い相手の頭を触るのが」と付け加える。
何だか微妙に気を使われているような気はするが敢えてスルーして、堂上は彼らと別れた。
「それで背が低いって言われたのがショックだったの?」
話を聞き終えた郁は、堂上にそう聞いた。
確かに気分は良くないだろうが、散々チビと言い倒されている堂上だ。
今さらその程度のことで動じるなんてと、郁は首を傾げた。
するとどこかバツが悪そうな堂上が、思い切って口を開いた。
「俺に頭を触られるの、嫌じゃないか?」
「嫌じゃない。むしろ嬉しい。」
「そうか。よかった。俺は紫原に触られて、すごくイラッとして」
そこまで聞いて、郁はようやく合点がいった。
クセだか何だか知らないが、紫原に頭を触られたのが堂上には不快だった。
そこで今まで散々郁の頭をなでて来た自分の行動が、不安になったらしい。
曰くもしかしたら郁は不快に思っていて、ずっと我慢をしていたのではないかと。
「何だ。そんなこと」
郁は笑って、堂上の頭に手を置いて「気持ち悪い?」と聞いた。
堂上は「いや。むしろ気持ちがいい」と答える。
郁は心持ちドヤ顔で「そりゃそうだよ!」と言ってやった。
「好きな人にされたら、嫌なわけないよ。あたしも、手塚も静佳さんも!」
郁は自分以外にも堂上が頭をなでそうな人物を例に挙げて、そう言った。
堂上も郁に触られ、紫原との違いを実感したようで、ようやくホッとした顔になった。
こうして良化隊から来た男は、堂上家に小さな波紋を起こした。
そして武蔵野第一図書館には、さらに大きな嵐を呼び込んだのである。
郁は鼻唄を歌いながら、上機嫌でキッチンに立っていた。
早く帰宅した方が夕食を作るのが、堂上家のルール。
今日は郁が早かったので、食事の支度をしている。
「篤さん、今日はずっと会議だからストレス溜まってるんだろうなぁ」
郁は夫のことを気遣い、夫の好物を食卓に並べていく。
遅いという連絡はなかったから、もうそろそろ帰ってくるはずだ。
ちょうどそのときタイミングよく、玄関のドアが開いた。
郁は笑顔で「篤さん、お帰りなさい!」と満面の笑みで迎えたのだが。
「郁、聞いていいか」
堂上はこの世の終わりのような顔をして、郁を見た。
郁は驚き「いったいどうしたの!?」と詰め寄る。
堂上は「正直に聞かせてくれ」と前置きすると、説明し始めた。
今日、堂上はずっと業務部の会議に参加していた。
郁とは図書館業務と内勤だったので、完全に別行動だ。
そして会議を終え、図書館を通って特殊部隊庁舎へ戻ろうとしたところで問題は起こった。
後方支援部の隊員2人と遭遇したのである。
「堂上一正、お疲れ様です。」
2人のうちの1人、黒子テツヤが丁寧に頭を下げた。
後方支援部に戻ったものの、つい最近までは堂上班の一員だった男だ。
堂上は「ああ、お疲れ」と答えながら、もう1人の男を見た。
彼は数日前に後方支援部に配属されたにも関わらず、武蔵野第一図書館で一番注目されている男。
元良化隊員の紫原敦だ。
「ど~も、お疲れ様で~す」
紫原は気が抜けたような緩い口調で、堂上を見た。
正規の図書隊員だったら叱責するところだが、後方支援部は協力会社の社員。
どうしたものかと思案した途端、紫原は「図書隊員ってみんな小さいね」と手を伸ばす。
そしてその手はあろうことか堂上の頭に乗り、わしゃわしゃと髪をなで回したのだ。
「紫原君、何やってるんですか!」
黒子は紫原を咎めながらその手を振り払い、堂上に「申し訳ありません」と頭を下げた。
さらに「彼のクセなんです。その、背が低い相手の頭を触るのが」と付け加える。
何だか微妙に気を使われているような気はするが敢えてスルーして、堂上は彼らと別れた。
「それで背が低いって言われたのがショックだったの?」
話を聞き終えた郁は、堂上にそう聞いた。
確かに気分は良くないだろうが、散々チビと言い倒されている堂上だ。
今さらその程度のことで動じるなんてと、郁は首を傾げた。
するとどこかバツが悪そうな堂上が、思い切って口を開いた。
「俺に頭を触られるの、嫌じゃないか?」
「嫌じゃない。むしろ嬉しい。」
「そうか。よかった。俺は紫原に触られて、すごくイラッとして」
そこまで聞いて、郁はようやく合点がいった。
クセだか何だか知らないが、紫原に頭を触られたのが堂上には不快だった。
そこで今まで散々郁の頭をなでて来た自分の行動が、不安になったらしい。
曰くもしかしたら郁は不快に思っていて、ずっと我慢をしていたのではないかと。
「何だ。そんなこと」
郁は笑って、堂上の頭に手を置いて「気持ち悪い?」と聞いた。
堂上は「いや。むしろ気持ちがいい」と答える。
郁は心持ちドヤ顔で「そりゃそうだよ!」と言ってやった。
「好きな人にされたら、嫌なわけないよ。あたしも、手塚も静佳さんも!」
郁は自分以外にも堂上が頭をなでそうな人物を例に挙げて、そう言った。
堂上も郁に触られ、紫原との違いを実感したようで、ようやくホッとした顔になった。
こうして良化隊から来た男は、堂上家に小さな波紋を起こした。
そして武蔵野第一図書館には、さらに大きな嵐を呼び込んだのである。
1/3ページ