after story11「転換点」
「黒子がお世話になっております。」
赤の帝王は、優雅な動作で頭を下げた。
堂上はその存在感に驚きながらも「こちらこそ」と答えた。
特殊部隊を訪れた赤司は、隊長室で話をした後、堂上のもとへとやって来た。
集中してデスクワークをしていた堂上は手を止めると、席を立つ。
思わずそんな風にして出迎えてしまうほどの迫力が、赤司にはあった。
それにつられて小牧も手塚も郁も席を立つ。
「よぉ、赤司!」
唯一気楽な様子で声をかけたのは、伊月だった。
バスケでは同じポジションで、高校時代には何度もマッチアップしている。
だが堂上たちは思わず信じられないという顔で、伊月を見た。
すると赤司は「伊月先輩、こんにちは」と挨拶し、また一同は驚かされる。
だが体育会の縦社会という尺度なら、伊月の方が赤司より上なのだ。
「黒子がお世話になっております。」
「こちらこそ。今回黒子には妻を助けてもらいました。」
堂上はチラリと黒子を見てから、そう言った。
もちろん黒子が郁をかばったことを指している。
公私混同はしない堂上だが、ごく自然に郁のことを「部下」ではなく「妻」と言った。
今回のことで、堂上はかなり肝を冷やしたのだろう。
「黒子先生は後方支援部に戻っちゃうんですかぁ~?」
何となく固い空気を破るように、郁が声を上げた。
赤司がここに来た用向きは、すでに伝わっている。
玄田に黒子を後方支援部に戻したいと申し出て、玄田は「黒子に任せる」と答えた。
「そのつもりです」
黒子がそう答えると、郁がさらに「え~~!?」と声を上げた。
堂上が「うるさい!」と注意し、小牧が笑って手塚が呆れるのはいつものルーティーンだ。
郁は慌てて口を押さえた後「もったいないです。あれだけできるのに」と呟いた。
特殊部隊の誰もが驚いたのは、黒子の身体能力だった。
堂上班と比較したって細身、弱々しい印象の黒子だが、特殊部隊の訓練もこなせている。
タイムや数値が出るものはどれもほぼビリに近いが、付いてはこられるのだ。
「一応高校で全国制覇してますし。伊達に鍛えてないですよ。」
「え~!?どんな練習していたんですか?」
「合宿とかでは3時間ケードロをして、負けた方は筋トレを3倍とか。」
「ええ!?」
「砂浜の上でバスケっていうのもありました。これをすると体育館に戻った時、足が軽くて」
「へぇぇ」
「あとはですね。」
黒子は郁に問われるままに、高校時代に相田リコが考案した様々なトレーニングを語っていく。
年下の2人のやり取りを微笑ましく眺めていた隊員たちだったが、やがて気付いた。
部屋の隅には玄田もおり、黒子の話を楽しそうに聞いていたことを。
そしてその表情から、それらを訓練に取り入れてやろうと考えていることが丸わかりだ。
次第に隊員たちの顔は引きつり、堂上に「やめさせろ」と目で合図する。
いち早くそれを察した堂上は「黒子、赤司さんを玄関まで送って来い」と命じた。
「わざわざ申し訳ありません。」
笑顔で答える赤司には、もちろん隊員たちの心の内はわかっている。
だが何も言わずに笑いをかみ殺すと、黒子の案内に従って歩き出した。
赤の帝王は、優雅な動作で頭を下げた。
堂上はその存在感に驚きながらも「こちらこそ」と答えた。
特殊部隊を訪れた赤司は、隊長室で話をした後、堂上のもとへとやって来た。
集中してデスクワークをしていた堂上は手を止めると、席を立つ。
思わずそんな風にして出迎えてしまうほどの迫力が、赤司にはあった。
それにつられて小牧も手塚も郁も席を立つ。
「よぉ、赤司!」
唯一気楽な様子で声をかけたのは、伊月だった。
バスケでは同じポジションで、高校時代には何度もマッチアップしている。
だが堂上たちは思わず信じられないという顔で、伊月を見た。
すると赤司は「伊月先輩、こんにちは」と挨拶し、また一同は驚かされる。
だが体育会の縦社会という尺度なら、伊月の方が赤司より上なのだ。
「黒子がお世話になっております。」
「こちらこそ。今回黒子には妻を助けてもらいました。」
堂上はチラリと黒子を見てから、そう言った。
もちろん黒子が郁をかばったことを指している。
公私混同はしない堂上だが、ごく自然に郁のことを「部下」ではなく「妻」と言った。
今回のことで、堂上はかなり肝を冷やしたのだろう。
「黒子先生は後方支援部に戻っちゃうんですかぁ~?」
何となく固い空気を破るように、郁が声を上げた。
赤司がここに来た用向きは、すでに伝わっている。
玄田に黒子を後方支援部に戻したいと申し出て、玄田は「黒子に任せる」と答えた。
「そのつもりです」
黒子がそう答えると、郁がさらに「え~~!?」と声を上げた。
堂上が「うるさい!」と注意し、小牧が笑って手塚が呆れるのはいつものルーティーンだ。
郁は慌てて口を押さえた後「もったいないです。あれだけできるのに」と呟いた。
特殊部隊の誰もが驚いたのは、黒子の身体能力だった。
堂上班と比較したって細身、弱々しい印象の黒子だが、特殊部隊の訓練もこなせている。
タイムや数値が出るものはどれもほぼビリに近いが、付いてはこられるのだ。
「一応高校で全国制覇してますし。伊達に鍛えてないですよ。」
「え~!?どんな練習していたんですか?」
「合宿とかでは3時間ケードロをして、負けた方は筋トレを3倍とか。」
「ええ!?」
「砂浜の上でバスケっていうのもありました。これをすると体育館に戻った時、足が軽くて」
「へぇぇ」
「あとはですね。」
黒子は郁に問われるままに、高校時代に相田リコが考案した様々なトレーニングを語っていく。
年下の2人のやり取りを微笑ましく眺めていた隊員たちだったが、やがて気付いた。
部屋の隅には玄田もおり、黒子の話を楽しそうに聞いていたことを。
そしてその表情から、それらを訓練に取り入れてやろうと考えていることが丸わかりだ。
次第に隊員たちの顔は引きつり、堂上に「やめさせろ」と目で合図する。
いち早くそれを察した堂上は「黒子、赤司さんを玄関まで送って来い」と命じた。
「わざわざ申し訳ありません。」
笑顔で答える赤司には、もちろん隊員たちの心の内はわかっている。
だが何も言わずに笑いをかみ殺すと、黒子の案内に従って歩き出した。
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