after story10「生還」

「随分と舐めた真似をしてくれたな。」
玄田は目の前の男を睨みつけた。
取調室では玄田を筆頭に数名の男たちが、1人の良化隊員を取り囲んでいた。

検閲抗争は終了した。
ここ数年例を見ない激しい戦闘であり、基地内の損傷はひどい。
だが本は無事に守られた。
戦闘による負傷者は多数いたが、命にかかわるような重傷者も出なかった。

特殊部隊は、2人の良化隊員の身柄を拘束した。
彼らは事前に情報を掴んでいた化学兵器を所持していたのである。
使用方法は実にシンプルで、注射器でターゲットに注入するというものである。
幸いにも黒子と伊月が発見し、最悪の事態は免れた。

そして今、その良化隊員の1人は取調室にいた。
手錠をかけられた上で、パイプ椅子に座らされ、玄田以下数名の特殊部隊隊員に囲まれている。
ちなみにもう1人の良化隊員は別の取調室だ。
こちらは緒形とやはり数名の特殊部隊隊員に囲まれ、取り調べを受けている。

「どういうことか説明してもらおうか!」
玄田は良化隊員の前にどっかりと腰を下ろすと、睨みつけた。
他の隊員たちも良化隊員を取り囲むと、同様の視線を向けている。
全員が怒りのオーラを発していた。
彼らの行為によって、黒子が倒れたことだけではない。
可愛い妹分である郁を狙ったということが許せないのだ。

「俺たちが何かしたっていう証拠があるのか?」
良化隊員はヘラヘラと薄笑いを浮かべながら、そう言った。
そして「注射器は拾ったものだしな」ととぼけた。

今まで良化隊は、数々の交戦規定違反を行なっていた。
例えば無意味に図書隊員を銃撃したり、施設を破壊したり。
だが抗議をしたところで、いつも無意味だった。
そういう情報を発信したところで検閲され、もみ消される。
この良化隊員は、今回のこともそれで済むと思っているのだろう。

「証拠は、これだ!」
玄田は良化隊員の前に、1枚の写真を置いた。
それはこの男が黒子の腕に注射器を突き立てた瞬間だった。
そして玄田は「絶対にうやむやにはさせないからな」と宣言する。

「それでどうする?これを公表したら、良化隊はお前らが勝手にやったことと言うかもな?」
「は?」
「そうなったらお前は凶悪犯だ。しっかりと実名報道されるぞ。」
「・・・そんな」
「それが嫌なら、どういう指示があったのか話せ!」

最初はヘラヘラと笑いを浮かべた良化隊員も、今はすっかり余裕を失くしていた。
そして玄田に促されるままに、特殊部隊の女性隊員を狙えと指示されていたことを話した。
玄田はその卑劣さにさらなる怒りを募らせながら、事情聴取を続けたのだった。
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