第4話「寄贈図書」
「あ~、この本!」
図書のリストを見ていた郁は、思わず大声を上げた。
するとすかさず堂上が「うるさい!」と拳骨を落としたのだった。
郁は特殊部隊の事務室で、デスクワークをしていた。
これは体力系の郁にとって、本当に苦手な作業だ。
スラスラこなす手塚と比較されて、堂上や他の隊員から「もっと頑張れ」などとよく言われる。
だが郁は先輩たちだって得意じゃないくせにと思っていた。
どうやら郁ほどではないにしろ、デスクワークが苦手な先輩隊員は少なからずいる。
だが彼らはいよいよ困った時には、伝家の宝刀「堂上に押し付ける」があるのだ。
「堂上教官が部下だったら、押し付けるんだけどなぁ」
思わず心の声がダダ漏れた途端、堂上の拳骨が落ちてきた。
小牧が「うぷぷ」と呻くような声を上げて、床に沈む。
先日の初めての出動の後、少し郁と打ち解けた手塚は微妙な表情だ。
さすがに上官ネタで笑うのも躊躇われ、堪えているのだろう。
「この資料、目を通しておけ。」
堂上は郁に1枚の紙を渡した。続いて小牧と手塚にも同じものを渡している。
ダダ漏れた途端に拳骨が落ちたのは、堂上が資料を渡すために郁の真後ろにいたためのようだ。
まったく運が悪い。
ブツブツと文句を言いながら、資料を見た郁は「あ~、この本!」と声を上げた。
するとすかさず堂上が「うるさい!」と、本日2度目の拳骨を落としたのだった。
それはここ1ヶ月ほどの間に、図書館に納入された本の一覧だった。
多くの本はごく普通に、出版社から納められる。
そしてごくわずかだが、利用者からの寄贈。
特に防衛方として重要なのは、検閲対象図書の情報だ。
新たに加わるそれは、頭に入れていく必要がある。
郁が「この本!」と叫んだのは、つい先日、検閲抗争で持っていかれてしまったばかりの本だった。
良化隊にまんまと裏をかかれ、持ち去られた。
郁は本を持った良化隊員を必死で追走したが、追いつけなかった。
実はその本を最後に借りたのは、郁だった。
古い純文学で、表現や言い回しが難しく、読むのに苦労した。
いろいろなジャンルを読むことが、レファレンスの勉強になる。
堂上や小牧にそう言われて、敢えて苦手なジャンルに手を出したのだ。
だがストーリーそのものは面白かったので、また時間がある時に借りようと思っていた。
検閲対象になる前に絶版になった本だと聞いている。
おそらくもう手に入ることはないのだろう。
そもそも図書館にあった本だって、シミや傷、ページの折り癖ががあった。
出版年月日を見たら昭和だったし、おそらく最初の所有者はそんな希少な本になるとは思わなかったのだろう。
だから粗雑に扱われていたのではなかろうか。
「この間検閲で持っていかれた本、だな。」
「はい!狩られた本は残念だったけど、また納入されて嬉しいです!」
「今度は絶対に守らないとな。」
「はい!」
いつもは鬼教官の堂上の目が、いつになく優しく見える。
郁はふとそんなことを思ったが、気のせいだと受け流すことにした。
きっと二度と読めないと思っていた本が再び納入されて、浮かれているからだ。
図書のリストを見ていた郁は、思わず大声を上げた。
するとすかさず堂上が「うるさい!」と拳骨を落としたのだった。
郁は特殊部隊の事務室で、デスクワークをしていた。
これは体力系の郁にとって、本当に苦手な作業だ。
スラスラこなす手塚と比較されて、堂上や他の隊員から「もっと頑張れ」などとよく言われる。
だが郁は先輩たちだって得意じゃないくせにと思っていた。
どうやら郁ほどではないにしろ、デスクワークが苦手な先輩隊員は少なからずいる。
だが彼らはいよいよ困った時には、伝家の宝刀「堂上に押し付ける」があるのだ。
「堂上教官が部下だったら、押し付けるんだけどなぁ」
思わず心の声がダダ漏れた途端、堂上の拳骨が落ちてきた。
小牧が「うぷぷ」と呻くような声を上げて、床に沈む。
先日の初めての出動の後、少し郁と打ち解けた手塚は微妙な表情だ。
さすがに上官ネタで笑うのも躊躇われ、堪えているのだろう。
「この資料、目を通しておけ。」
堂上は郁に1枚の紙を渡した。続いて小牧と手塚にも同じものを渡している。
ダダ漏れた途端に拳骨が落ちたのは、堂上が資料を渡すために郁の真後ろにいたためのようだ。
まったく運が悪い。
ブツブツと文句を言いながら、資料を見た郁は「あ~、この本!」と声を上げた。
するとすかさず堂上が「うるさい!」と、本日2度目の拳骨を落としたのだった。
それはここ1ヶ月ほどの間に、図書館に納入された本の一覧だった。
多くの本はごく普通に、出版社から納められる。
そしてごくわずかだが、利用者からの寄贈。
特に防衛方として重要なのは、検閲対象図書の情報だ。
新たに加わるそれは、頭に入れていく必要がある。
郁が「この本!」と叫んだのは、つい先日、検閲抗争で持っていかれてしまったばかりの本だった。
良化隊にまんまと裏をかかれ、持ち去られた。
郁は本を持った良化隊員を必死で追走したが、追いつけなかった。
実はその本を最後に借りたのは、郁だった。
古い純文学で、表現や言い回しが難しく、読むのに苦労した。
いろいろなジャンルを読むことが、レファレンスの勉強になる。
堂上や小牧にそう言われて、敢えて苦手なジャンルに手を出したのだ。
だがストーリーそのものは面白かったので、また時間がある時に借りようと思っていた。
検閲対象になる前に絶版になった本だと聞いている。
おそらくもう手に入ることはないのだろう。
そもそも図書館にあった本だって、シミや傷、ページの折り癖ががあった。
出版年月日を見たら昭和だったし、おそらく最初の所有者はそんな希少な本になるとは思わなかったのだろう。
だから粗雑に扱われていたのではなかろうか。
「この間検閲で持っていかれた本、だな。」
「はい!狩られた本は残念だったけど、また納入されて嬉しいです!」
「今度は絶対に守らないとな。」
「はい!」
いつもは鬼教官の堂上の目が、いつになく優しく見える。
郁はふとそんなことを思ったが、気のせいだと受け流すことにした。
きっと二度と読めないと思っていた本が再び納入されて、浮かれているからだ。
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