after story3「自主トレ」
「大丈夫かよ。」
伊月は床に仰向けに転がり、ハァハァと荒い呼吸をする黒子に声をかける。
黒子はいつもの無表情で伊月を見上げながら「大丈夫なわけないでしょう」と答えた。
検閲時の銃火器規制禁止に向けて、伊月俊も忙しい日々を送っていた。
何しろ戦い方がガラリと変わるのである。
フォーメーションも変わるので、覚えなければならないことも多い。
また肉弾戦が多くなることは予想されるので、格闘技訓練が増えた。
それに伴い、伊月は筋力アップのための自主トレも増やした。
だがそれをあざ笑うかのように、検閲の回数が増えた。
良化隊としては、銃が使えるうちにより多くの本を狩っておこうという考えなのだろう。
誰かが「銃弾の在庫処分じゃねーか?」と笑えない冗談を言っていたが、あながち嘘とも思えない。
そんなある日のことだった。
課業後に自主トレに行こうと、伊月は荷物をまとめていた。
基地内にもジムはあるが、ここ最近自主トレをする者が多く、なかなか思うように使えない。
だから伊月は、もっぱら高校時代のチームメイトである相田リコに世話になっている。
彼女の実家はスポーツジムを経営しており、いろいろと融通も利くのだ。
だが寮の部屋を出ようとしたところで、スマホが鳴った。
相手の名前を確認した伊月は「よぉ、どうした?」と気安い声を上げる。
すると「申し訳ないんですが」と少しも申し訳なさを感じない無機質な声が応じた。
高校の後輩にして、現在は図書隊の後方支援部で働く黒子テツヤである。
そして30分後。伊月と黒子は相田ジムにいた。
黒子の用件は「格闘技の稽古をつけて欲しい」だったのだ。
それ自体は別に驚くことでもない。
黒子も特殊部隊ほどではないにしろ、自主トレをしているのは知っている。
さすがに戦闘職種は無理にしろ、館内の不審者くらいは対応できるように鍛錬しているのだ。
だがロッカールームで着替えながら、伊月は「何だ、そりゃ!」と声を上げた。
驚いたのは、黒子の服装だ。
伊月はごくごく普通のトレーニングウェア。
だが黒子は防刃用のベストを着こみ、腕や足にも防刃のプロテクター。
その上ヘルメットとフェイスマスクも着用している。
手袋もしており、肌が露出している箇所がまったくない状態になっていた。
「いったい、何のハンデだよ?」
「気にしないでください。実験したいことがあるだけなので。」
伊月の驚きなど軽く流して、黒子はトレーニングルームに向かう。
案の上、リコや他のジムの利用客も唖然としていたが、当の本人は至って冷静だ。
かくして始めた組み手では、黒子は数分で床に倒れることになった。
「大丈夫かよ。」
「大丈夫なわけないでしょう」
「だろうな。」
床に倒れた黒子は、ヘルメットとフェイスマスクを外し、ハァハァと荒い呼吸をしている。
無理もないだろう。
防刃服はかなり暑いだろうし、フェイスマスクは呼吸も圧迫されるはずだ。
その状態で格闘など、自殺行為に近い。
「すみません。着替えてくるのでちょっとだけ待ってください。」
黒子はそう言って、もう1度ロッカールームに向かう。
そして伊月同様、普通のトレーニングウェアで戻って来た。
いったい何だったのかと思うけれど、伊月は敢えて聞かなかった。
黒子は単なる悪ふざけで、わけのわからないことなどしない。
つまりこれには何かの意味があるのだ。
「お手柔らかにお願いします。」
黒子は頭を下げると、身構えた。
伊月は「わかった。続きをやろう」と手を上げて応じる。
何だかよくわからないが、いつかは話してくれるだろう。
だから今は黒子を信じて、稽古をつけてやればいいのだ。
伊月は床に仰向けに転がり、ハァハァと荒い呼吸をする黒子に声をかける。
黒子はいつもの無表情で伊月を見上げながら「大丈夫なわけないでしょう」と答えた。
検閲時の銃火器規制禁止に向けて、伊月俊も忙しい日々を送っていた。
何しろ戦い方がガラリと変わるのである。
フォーメーションも変わるので、覚えなければならないことも多い。
また肉弾戦が多くなることは予想されるので、格闘技訓練が増えた。
それに伴い、伊月は筋力アップのための自主トレも増やした。
だがそれをあざ笑うかのように、検閲の回数が増えた。
良化隊としては、銃が使えるうちにより多くの本を狩っておこうという考えなのだろう。
誰かが「銃弾の在庫処分じゃねーか?」と笑えない冗談を言っていたが、あながち嘘とも思えない。
そんなある日のことだった。
課業後に自主トレに行こうと、伊月は荷物をまとめていた。
基地内にもジムはあるが、ここ最近自主トレをする者が多く、なかなか思うように使えない。
だから伊月は、もっぱら高校時代のチームメイトである相田リコに世話になっている。
彼女の実家はスポーツジムを経営しており、いろいろと融通も利くのだ。
だが寮の部屋を出ようとしたところで、スマホが鳴った。
相手の名前を確認した伊月は「よぉ、どうした?」と気安い声を上げる。
すると「申し訳ないんですが」と少しも申し訳なさを感じない無機質な声が応じた。
高校の後輩にして、現在は図書隊の後方支援部で働く黒子テツヤである。
そして30分後。伊月と黒子は相田ジムにいた。
黒子の用件は「格闘技の稽古をつけて欲しい」だったのだ。
それ自体は別に驚くことでもない。
黒子も特殊部隊ほどではないにしろ、自主トレをしているのは知っている。
さすがに戦闘職種は無理にしろ、館内の不審者くらいは対応できるように鍛錬しているのだ。
だがロッカールームで着替えながら、伊月は「何だ、そりゃ!」と声を上げた。
驚いたのは、黒子の服装だ。
伊月はごくごく普通のトレーニングウェア。
だが黒子は防刃用のベストを着こみ、腕や足にも防刃のプロテクター。
その上ヘルメットとフェイスマスクも着用している。
手袋もしており、肌が露出している箇所がまったくない状態になっていた。
「いったい、何のハンデだよ?」
「気にしないでください。実験したいことがあるだけなので。」
伊月の驚きなど軽く流して、黒子はトレーニングルームに向かう。
案の上、リコや他のジムの利用客も唖然としていたが、当の本人は至って冷静だ。
かくして始めた組み手では、黒子は数分で床に倒れることになった。
「大丈夫かよ。」
「大丈夫なわけないでしょう」
「だろうな。」
床に倒れた黒子は、ヘルメットとフェイスマスクを外し、ハァハァと荒い呼吸をしている。
無理もないだろう。
防刃服はかなり暑いだろうし、フェイスマスクは呼吸も圧迫されるはずだ。
その状態で格闘など、自殺行為に近い。
「すみません。着替えてくるのでちょっとだけ待ってください。」
黒子はそう言って、もう1度ロッカールームに向かう。
そして伊月同様、普通のトレーニングウェアで戻って来た。
いったい何だったのかと思うけれど、伊月は敢えて聞かなかった。
黒子は単なる悪ふざけで、わけのわからないことなどしない。
つまりこれには何かの意味があるのだ。
「お手柔らかにお願いします。」
黒子は頭を下げると、身構えた。
伊月は「わかった。続きをやろう」と手を上げて応じる。
何だかよくわからないが、いつかは話してくれるだろう。
だから今は黒子を信じて、稽古をつけてやればいいのだ。
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