after story2「密会」
「相変わらず、早いわね。」
柴崎は長い黒髪を揺らせながら、艶やかな笑顔を見せた。
手塚は読んでいた本から目を上げると「おう」と短く応じた。
堂上と郁が結婚し、小牧と毬江もしっかりと愛を育んでいる。
そんな中、手塚と柴崎は微妙な足踏み状態を続けていた。
ありきたりな言葉で表現するなら「友達以上、恋人未満」。
つまりお互いに意識はしつつも、なかなか踏み出せないのである。
2人は公休日が合えば、図書隊の外で会っていた。
名目は情報交換だ。
柴崎は手塚には情報部員であることを明かし、主に未来企画関連の情報をもらっている。
正直なところ、当麻事件の後で良化法が追い詰められつつある今、あまり必要のないことだ。
だが2人とも敢えてそれを口にしない。
そして誰かに見られるとやっかいだからと、わざわざ図書基地から遠い場所を選ぶのだ。
この日も2人は繁華街のオシャレなカフェで待ち合わせた。
女子に人気の高い店で、そこそこ混み合っている。
しかも客の半分はカップル、残り半分は女子のグループだ。
そんな場所での待ち合わせ。
先に到着していた手塚は、かなり目立っていた。
遅れて到着した柴崎は、そんな手塚の姿を見てクスリと笑った。
普通に考えればこんな店に男1人で来店するのは、相当空気が読めないか、ナンパ目的か。
だが外見はかなりイケている手塚は、そのどちらにも見えない。
しかも喧騒の中、窓際の席を陣取って悠然と本を読む姿はかなり浮いていた。
おそらく手塚は、待ち合わせ時間のかなり前に来ているのだろう。
しかもこんな店でも嫌な顔をせずに。
柴崎はそんな手塚の態度が嬉しく、だが憎らしくもある。
嫌がらせのように指名する女子ばかりの店でも、柴崎に会うために来てくれるという優越感。
だがこんな形で彼の想いを確認している自分に、自己嫌悪も感じている。
そしていっそ自分を責めてくれればいいのにと、八つ当たりのような気分にもなるのだ。
「相変わらず、早いわね。」
「おう」
本を閉じて、柴崎を見つめる手塚の表情に笑みが浮かんだ。
柴崎もニッコリと笑顔を返し、周りからは美男美女のカップルに「ほぉぉ」とため息を漏れる。
図書隊内ではあまり目立つことを好まない柴崎だが、今はどうでもいい。
むしろ周りからお似合いに見えた方が嬉しい。
単にカモフラージュではなく、この男は自分のものだと言いたい気分なのだ。
こんなとき柴崎は自分が女の嫌な部分を持っていることを痛感して、ウンザリする。
「何にしようかしら。」
テーブルの上のメニューを取り、めくろうとした柴崎はふとその手を止めた。
手塚は窓の外のとある一点を凝視していたからだ。
その表情に浮かんだのは、まぎれもない動揺だ。
この場面に似つかわしくない手塚の様子に、柴崎は怪訝に思う。
「どうしたの?」
「今、兄貴がいた。」
「え?」
「車に乗っていて、通り過ぎた。」
今さら何をそんなに動揺するのかと、柴崎は首を傾げた。
東京の繁華街、たまたますれ違うことがあっても不思議ではないのに。
そしてそれとは別に、感心していた。
さすが戦闘職種、走っている車の中の人物を見分けられる動体視力はすごい。
だが手塚の次の一言を聞いて、そんな気分も消し飛んだ。
「黒子が運転していた。」
「え?どういうこと?」
手塚の狙撃手の目は、同乗者の顔もはっきりと捕えていたのだ。
柴崎はその聡明な頭脳を、一気に巡らせて考える。
銃火器規制法案の施行を待つ今、手塚の兄、慧と黒子が密会する理由は何か。
だがいくら考えたところで、何も思いつけなかった。
そもそも情報部が把握していない時点で、柴崎にわかりようがない。
「また何かが起こっているってこと?」
柴崎がポツリと呟くと、手塚は尊敬する上官張りに眉間にしわを寄せた。
勘が鋭い2人は、事態が変わりつつあることを感じ取っていたのだ。
柴崎は長い黒髪を揺らせながら、艶やかな笑顔を見せた。
手塚は読んでいた本から目を上げると「おう」と短く応じた。
堂上と郁が結婚し、小牧と毬江もしっかりと愛を育んでいる。
そんな中、手塚と柴崎は微妙な足踏み状態を続けていた。
ありきたりな言葉で表現するなら「友達以上、恋人未満」。
つまりお互いに意識はしつつも、なかなか踏み出せないのである。
2人は公休日が合えば、図書隊の外で会っていた。
名目は情報交換だ。
柴崎は手塚には情報部員であることを明かし、主に未来企画関連の情報をもらっている。
正直なところ、当麻事件の後で良化法が追い詰められつつある今、あまり必要のないことだ。
だが2人とも敢えてそれを口にしない。
そして誰かに見られるとやっかいだからと、わざわざ図書基地から遠い場所を選ぶのだ。
この日も2人は繁華街のオシャレなカフェで待ち合わせた。
女子に人気の高い店で、そこそこ混み合っている。
しかも客の半分はカップル、残り半分は女子のグループだ。
そんな場所での待ち合わせ。
先に到着していた手塚は、かなり目立っていた。
遅れて到着した柴崎は、そんな手塚の姿を見てクスリと笑った。
普通に考えればこんな店に男1人で来店するのは、相当空気が読めないか、ナンパ目的か。
だが外見はかなりイケている手塚は、そのどちらにも見えない。
しかも喧騒の中、窓際の席を陣取って悠然と本を読む姿はかなり浮いていた。
おそらく手塚は、待ち合わせ時間のかなり前に来ているのだろう。
しかもこんな店でも嫌な顔をせずに。
柴崎はそんな手塚の態度が嬉しく、だが憎らしくもある。
嫌がらせのように指名する女子ばかりの店でも、柴崎に会うために来てくれるという優越感。
だがこんな形で彼の想いを確認している自分に、自己嫌悪も感じている。
そしていっそ自分を責めてくれればいいのにと、八つ当たりのような気分にもなるのだ。
「相変わらず、早いわね。」
「おう」
本を閉じて、柴崎を見つめる手塚の表情に笑みが浮かんだ。
柴崎もニッコリと笑顔を返し、周りからは美男美女のカップルに「ほぉぉ」とため息を漏れる。
図書隊内ではあまり目立つことを好まない柴崎だが、今はどうでもいい。
むしろ周りからお似合いに見えた方が嬉しい。
単にカモフラージュではなく、この男は自分のものだと言いたい気分なのだ。
こんなとき柴崎は自分が女の嫌な部分を持っていることを痛感して、ウンザリする。
「何にしようかしら。」
テーブルの上のメニューを取り、めくろうとした柴崎はふとその手を止めた。
手塚は窓の外のとある一点を凝視していたからだ。
その表情に浮かんだのは、まぎれもない動揺だ。
この場面に似つかわしくない手塚の様子に、柴崎は怪訝に思う。
「どうしたの?」
「今、兄貴がいた。」
「え?」
「車に乗っていて、通り過ぎた。」
今さら何をそんなに動揺するのかと、柴崎は首を傾げた。
東京の繁華街、たまたますれ違うことがあっても不思議ではないのに。
そしてそれとは別に、感心していた。
さすが戦闘職種、走っている車の中の人物を見分けられる動体視力はすごい。
だが手塚の次の一言を聞いて、そんな気分も消し飛んだ。
「黒子が運転していた。」
「え?どういうこと?」
手塚の狙撃手の目は、同乗者の顔もはっきりと捕えていたのだ。
柴崎はその聡明な頭脳を、一気に巡らせて考える。
銃火器規制法案の施行を待つ今、手塚の兄、慧と黒子が密会する理由は何か。
だがいくら考えたところで、何も思いつけなかった。
そもそも情報部が把握していない時点で、柴崎にわかりようがない。
「また何かが起こっているってこと?」
柴崎がポツリと呟くと、手塚は尊敬する上官張りに眉間にしわを寄せた。
勘が鋭い2人は、事態が変わりつつあることを感じ取っていたのだ。
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