after story1「新たな嵐」
もしかして、元気がない?
郁は書架のチェックをしている黒子を見ながら、そんなことを思った。
笠原郁が堂上郁になって、2ヶ月が経った。
郁はようやく「堂上三正」と呼ばれることに慣れ、以前と変わらず仕事をしている。
この日は館内業務であり、返却されてきた本を書架に戻していた。
するとヒソヒソと聞こえよがしな声が聞こえてきた。
「なんで結婚したのに、同じ職場なのよ。」
「依怙贔屓されてるからじゃない?」
「え~、ずるくない?」
「特別扱いされてて、いいわね~」
話しているのは、数名の女性業務部員だ。
彼女たちのうちの1人が堂上に想いを寄せており、以前から郁には当たりが強い。
そんな者たちは他にもいて、結婚と共にかなりその数は減った。
だがこのグループは未だに、郁と顔を合わせれば嫌味を言い続けている。
どうやら結婚後も、堂上と郁が同じ職場にいることが気に入らないらしい。
通常、図書隊では同じ職場内で結婚する場合、片方が異動になるのが慣例。
だが堂上も郁も、結婚後も特殊部隊のままだ。
どうやらそれが気に入らないらしい。
単に嫌みが言いたいだけなのか。
もしくは2人の職場が離れれば割り込む余地があるとでも思っているのか。
どうする。
言い返すのも面倒だが、黙っていれば嫌味を言い続けるだろう。
郁がそんなことを思っていると「見苦しいですね」と背後から冷ややかな声がした。
「特殊部隊は精鋭ですよ。簡単に異動なんかできないでしょう。」
相変わらず感情の読めない平坦な表情と声で割り込んできたのは、影の薄い男。
後方支援部の黒子テツヤだ。
「それからこの件は報告します。」
「どうして!?」
「特定の隊員への嫌がらせ、しかも利用者に聞かれたら図書館員の品位が問われますから。」
「誰も聞いてないじゃない!」
「今も堂上三正だけに言ったつもりで、実際ボクにも聞こえてましたよ?」
黒子が郁を「堂上三正」と呼んだことで、彼女たちの頬が引きつった。
どうやら郁を堂上の妻と認めるのは嫌なようだ。
だが黒子は容赦なく「何か弁明はありますか?」と切り返す。
すると女たちは顔を歪めながら、何も言わずに去っていった。
「ありがとうございます。黒子先生!」
「まだあんなのがいたんですね。」
「本当に報告するんですか?」
「しますよ。利用者に不快感を与えるような図書隊員を許しません。」
黒子は「それでは」と一礼すると、書架のチェック作業に戻っていく。
後方支援部の中で、書籍の管理を担当する黒子のメイン業務だ。
郁はその後ろ姿に頭を下げた後「あれ?」と首を傾げた。
そう言えば、黒子先生って呼んだのに何も言われなかった。
郁が特殊部隊に配属されたばかりのころ、地下書庫業務に苦労した。
そのときにわかりやすく教えてくれたのが黒子で、それ以来「黒子先生」と呼んでいる。
黒子はそれを嫌がって、いちいち「先生はやめて下さい」と言うのだ。
だが今回は、何も言われなかった。
もしかして、元気がない?
郁は書架のチェックをしている黒子を見ながら、そんなことを思った。
無表情で感情が読みにくく、まったく普段通りに見せる。
だが何となく、ひどく沈んでいるような気がした。
郁は書架のチェックをしている黒子を見ながら、そんなことを思った。
笠原郁が堂上郁になって、2ヶ月が経った。
郁はようやく「堂上三正」と呼ばれることに慣れ、以前と変わらず仕事をしている。
この日は館内業務であり、返却されてきた本を書架に戻していた。
するとヒソヒソと聞こえよがしな声が聞こえてきた。
「なんで結婚したのに、同じ職場なのよ。」
「依怙贔屓されてるからじゃない?」
「え~、ずるくない?」
「特別扱いされてて、いいわね~」
話しているのは、数名の女性業務部員だ。
彼女たちのうちの1人が堂上に想いを寄せており、以前から郁には当たりが強い。
そんな者たちは他にもいて、結婚と共にかなりその数は減った。
だがこのグループは未だに、郁と顔を合わせれば嫌味を言い続けている。
どうやら結婚後も、堂上と郁が同じ職場にいることが気に入らないらしい。
通常、図書隊では同じ職場内で結婚する場合、片方が異動になるのが慣例。
だが堂上も郁も、結婚後も特殊部隊のままだ。
どうやらそれが気に入らないらしい。
単に嫌みが言いたいだけなのか。
もしくは2人の職場が離れれば割り込む余地があるとでも思っているのか。
どうする。
言い返すのも面倒だが、黙っていれば嫌味を言い続けるだろう。
郁がそんなことを思っていると「見苦しいですね」と背後から冷ややかな声がした。
「特殊部隊は精鋭ですよ。簡単に異動なんかできないでしょう。」
相変わらず感情の読めない平坦な表情と声で割り込んできたのは、影の薄い男。
後方支援部の黒子テツヤだ。
「それからこの件は報告します。」
「どうして!?」
「特定の隊員への嫌がらせ、しかも利用者に聞かれたら図書館員の品位が問われますから。」
「誰も聞いてないじゃない!」
「今も堂上三正だけに言ったつもりで、実際ボクにも聞こえてましたよ?」
黒子が郁を「堂上三正」と呼んだことで、彼女たちの頬が引きつった。
どうやら郁を堂上の妻と認めるのは嫌なようだ。
だが黒子は容赦なく「何か弁明はありますか?」と切り返す。
すると女たちは顔を歪めながら、何も言わずに去っていった。
「ありがとうございます。黒子先生!」
「まだあんなのがいたんですね。」
「本当に報告するんですか?」
「しますよ。利用者に不快感を与えるような図書隊員を許しません。」
黒子は「それでは」と一礼すると、書架のチェック作業に戻っていく。
後方支援部の中で、書籍の管理を担当する黒子のメイン業務だ。
郁はその後ろ姿に頭を下げた後「あれ?」と首を傾げた。
そう言えば、黒子先生って呼んだのに何も言われなかった。
郁が特殊部隊に配属されたばかりのころ、地下書庫業務に苦労した。
そのときにわかりやすく教えてくれたのが黒子で、それ以来「黒子先生」と呼んでいる。
黒子はそれを嫌がって、いちいち「先生はやめて下さい」と言うのだ。
だが今回は、何も言われなかった。
もしかして、元気がない?
郁は書架のチェックをしている黒子を見ながら、そんなことを思った。
無表情で感情が読みにくく、まったく普段通りに見せる。
だが何となく、ひどく沈んでいるような気がした。
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