第3話「不可解」
何かが動いた。
手塚がそう思った瞬間、不本意ながらバディを組まされている相棒はすでに走り出していた。
手塚光は悩んでいた。
自分と同期の特殊部隊隊員、そして手塚が最も苦手とする本能で動く熱血バカ。
特殊部隊の紅一点である笠原郁との距離の取り方がわからないのだ。
最初は事あるごとに、噛みついた。
どうしてできないんだと、何でお前みたいな者がここにいるのだと。
だが尊敬する上官たちは、彼女を認めて受け入れているように見える。
認められない自分が悪いのか、問題があるのか?
悶々としながらも同じ班、毎日顔を合わせなければならない。
しかも今日は2人での館内巡回だった。
今まではまだ新人の2人だから、必ず堂上か小牧と組まされていた。
つまり郁とペアで行動するのは、これが初めてなのだ。
堂上たちも手塚の郁への態度はよくないと思っているように見えた。
それでもこうして組ませるのは、信頼してくれているのだと思う。
それならば手塚も応えなければならない。
冷静に。感情を出さないように。集中力を落とさないように。
絶対に不審なものを見逃さないように。
そうして張りつめている瞬間、手塚の視界の端で何かが動いた。
何ともいえない不吉な予感に、警戒態勢に切り替えた手塚は状況を確認しようとしたのだが。
「おい!笠原!」
手塚は思わず声を上げてしまう。
同じものを見て、感じたであろう郁はすでに走り出していたのだ。
何だかわからない状況でも、とりあえず向かっていく。
なぜ確認してから動けないのか、手塚には理解不能だ。
不吉な予感の元は、窃盗犯だった。
手塚や郁と同年代の青年が、本をカバンに入れて持ち去ろうとしていた。
それを気配で感じて、郁はわけもわからないまま走り出していたのだ。
手塚が追いついた時には、郁は青年の腕を後手に捩り上げていた。
すかさず手錠を取り出して拘束しながら、改めて手塚はこの女が苦手だと思った。
確認もせず走り出す無謀さが、好きになれない。
「ねぇ。あたしたち、何であいつに気付けたと思う?」
犯人の青年を防衛員に引き渡した後、郁が手塚にそう聞いてきた。
手塚は「は?」と声を上げた。
いったい何を言っているのか、意味が分からない。
「そんなの、あいつが本を取った瞬間の気配に気づいたからだろ?」
「でもさぁ、結構距離があったよ。全力で走ってようやく追いつくくらい。あの距離で気配に気付けると思う?」
「そりゃ、確かに距離はあったけど」
手塚は改めて、自分たちが彼に気付いた場所と青年が本を盗った場所の距離を目で計った。
確かに気配を感じるには、遠い距離だ。
だけど2人とも実際に感じたから犯行に気付けたし、犯人を確保できたのだ。
「実際に気付けたんだから、問題ないだろ。」
手塚は郁にそう言い放つと、こちらにやって来た堂上と小牧に敬礼をした。
彼らも巡回警備中だったが、無線で状況は報告している。
それを聞いて、駆け付けてきたのだろう。
「調書に協力してきます。笠原、行くぞ。」
2人の上官、そして郁に声をかけ、手塚はさっさと歩き出す。
その途中、ふと顔見知りの図書隊員が書架のチェックをしているのが目に入る。
先日地下書庫のリクエスト業務を手伝ってくれた、後方支援部の二士だ。
だがこちらに気付いていないようだったので、特に声をかけることもなく、手塚は取調室に向かった。
手塚がそう思った瞬間、不本意ながらバディを組まされている相棒はすでに走り出していた。
手塚光は悩んでいた。
自分と同期の特殊部隊隊員、そして手塚が最も苦手とする本能で動く熱血バカ。
特殊部隊の紅一点である笠原郁との距離の取り方がわからないのだ。
最初は事あるごとに、噛みついた。
どうしてできないんだと、何でお前みたいな者がここにいるのだと。
だが尊敬する上官たちは、彼女を認めて受け入れているように見える。
認められない自分が悪いのか、問題があるのか?
悶々としながらも同じ班、毎日顔を合わせなければならない。
しかも今日は2人での館内巡回だった。
今まではまだ新人の2人だから、必ず堂上か小牧と組まされていた。
つまり郁とペアで行動するのは、これが初めてなのだ。
堂上たちも手塚の郁への態度はよくないと思っているように見えた。
それでもこうして組ませるのは、信頼してくれているのだと思う。
それならば手塚も応えなければならない。
冷静に。感情を出さないように。集中力を落とさないように。
絶対に不審なものを見逃さないように。
そうして張りつめている瞬間、手塚の視界の端で何かが動いた。
何ともいえない不吉な予感に、警戒態勢に切り替えた手塚は状況を確認しようとしたのだが。
「おい!笠原!」
手塚は思わず声を上げてしまう。
同じものを見て、感じたであろう郁はすでに走り出していたのだ。
何だかわからない状況でも、とりあえず向かっていく。
なぜ確認してから動けないのか、手塚には理解不能だ。
不吉な予感の元は、窃盗犯だった。
手塚や郁と同年代の青年が、本をカバンに入れて持ち去ろうとしていた。
それを気配で感じて、郁はわけもわからないまま走り出していたのだ。
手塚が追いついた時には、郁は青年の腕を後手に捩り上げていた。
すかさず手錠を取り出して拘束しながら、改めて手塚はこの女が苦手だと思った。
確認もせず走り出す無謀さが、好きになれない。
「ねぇ。あたしたち、何であいつに気付けたと思う?」
犯人の青年を防衛員に引き渡した後、郁が手塚にそう聞いてきた。
手塚は「は?」と声を上げた。
いったい何を言っているのか、意味が分からない。
「そんなの、あいつが本を取った瞬間の気配に気づいたからだろ?」
「でもさぁ、結構距離があったよ。全力で走ってようやく追いつくくらい。あの距離で気配に気付けると思う?」
「そりゃ、確かに距離はあったけど」
手塚は改めて、自分たちが彼に気付いた場所と青年が本を盗った場所の距離を目で計った。
確かに気配を感じるには、遠い距離だ。
だけど2人とも実際に感じたから犯行に気付けたし、犯人を確保できたのだ。
「実際に気付けたんだから、問題ないだろ。」
手塚は郁にそう言い放つと、こちらにやって来た堂上と小牧に敬礼をした。
彼らも巡回警備中だったが、無線で状況は報告している。
それを聞いて、駆け付けてきたのだろう。
「調書に協力してきます。笠原、行くぞ。」
2人の上官、そして郁に声をかけ、手塚はさっさと歩き出す。
その途中、ふと顔見知りの図書隊員が書架のチェックをしているのが目に入る。
先日地下書庫のリクエスト業務を手伝ってくれた、後方支援部の二士だ。
だがこちらに気付いていないようだったので、特に声をかけることもなく、手塚は取調室に向かった。
1/5ページ