第29話「木島ジン」
「大丈夫ですかね。」
黒子は利用者の母子の後ろ姿を見ながら、ポツリとそう呟いた。
郁はその意味がわからず「何がですか?」と聞き返した。
黒子は栞に続く、第2弾の企画を出した。
検閲抗争で壊された壁などの残骸、コンクリートの欠片を使い、玩具を作る。
手始めとして、塗料で色を付けて楽しもうという児童室向けの企画だった。
問題はいくつかあった。
コンクリート片は歪な形に割れており、中には迂闊に触れば手を切ってしまいそうな断面のものもある。
だから事前に機械を使って、表面を磨くことにした。
普通の図書隊員であれば、だいたいここで断念する。
磨く手間やコストがかかるからだ。
だがそこは後方支援部である黒子の強みだった。
赤司のコネクションを使えば、あっさりと研磨用の機械を格安で貸してくれる会社が見つかった。
次の問題は、コンクリート片は案外重いということだった。
小さな子供でも扱いやすく、だけど大きい子でも楽しめるもの。
何を作ろうかと迷った黒子は、郁に相談した。
すると郁は「特に用途を決めない方がいいんじゃないですか?」と大雑把なアドバイスをした。
だがこれが企画を決定づけることになったのだ。
手のひらに乗るほどのコンクリート片。
ビー玉のように丸い物もあれば、平べったい物もある。
集まった子供たちは好きなものを選んで、色を付ける。
一番人気は穴が開いているものだった。
色を付けた後に紐を通して、ペンダントやストラップなどにするのだ。
それ以外にも、独創的なものもあった。
長方形のものを選んで、車に見立てて絵を書いた子がいた。
動物の姿を書いて、置き物にした子もいる。
かくして子供たちの自由な発想で、コンクリートの瓦礫は華麗な変貌を遂げたのだった。
「郁ちゃん、テツ君、ありがとう~!」
「また来るね~!」
子供たちが笑顔で手を振りながら、児童室を出て行く。
手探りな企画はどうやら成功したようだ。
黒子と郁は並んで、子供たちを送り出す。
郁は子供目線で「また来てね~」と笑い、黒子は子供にも律儀に「またお待ちしています」と頭を下げる。
子供にはこのコントラストも面白いようで、ケラケラと笑いながら出て行く子も多かった。
「ありがとうございました。」
子供たちを送り出し後、黒子は郁に頭を下げた。
この企画は黒子と郁の連名で出された。
郁としては何だか手柄を横取りしたような後ろめたさがあったが、黒子に「ぜひ」と頼まれたのだ。
そしてイベントでは子供たちを仕切り、黒子がサポートするという形になった。
「楽しかったですね。次回は夏休み、自由研究の工作とかだと受けそうですね。」
「え~、夏まで待てません。その前に何度かやりたいです。」
「栞の企画も進めたいですね。笠原士長、そちらもご協力いただけますか?」
「もちろんです!」
2人はそんなことを話しながら、図書館を歩いている。
それを見ていた堂上や柴崎たちは、微妙な気持ちだった。
どんどん楽しい企画を繰り出すのはいいが、彼らは自分たちが考えている以上に目立つのだ。
今だって前向きに話をする2人に嫉妬の視線を向けている者が何人かいる。
だが当の2人はそんな視線などおかまいなしに、企画の話で盛り上がっている。
「ところであの親子が気になります。大丈夫ですかね。」
黒子は図書館を出て行く利用者の母子の後ろ姿を見ながら、ポツリとそう呟いた。
子供の方は先程までイベントを楽しんでいた。
やんちゃそうな男の子は最初は他の子にちょっかいをかけたりして少し手を焼いたが、すぐに企画に没頭した。
長方形のコンクリートに車の絵を描いて、その出来栄えに子供だけでなく黒子や郁も感心したのだ。
「何がですか?」
郁は不思議そうにその母子を、次に黒子を見た。
黒子は母子の姿を目で追いながら「何となくです。雰囲気とか視線とか。嫌な感じがします」と答えた。
郁は「そうかなぁ」と答えて、サラリと流してしまったことを後々後悔することになった。
その子の名は高木雄大。
数か月後に母親による虐待が発覚するのである。
黒子は利用者の母子の後ろ姿を見ながら、ポツリとそう呟いた。
郁はその意味がわからず「何がですか?」と聞き返した。
黒子は栞に続く、第2弾の企画を出した。
検閲抗争で壊された壁などの残骸、コンクリートの欠片を使い、玩具を作る。
手始めとして、塗料で色を付けて楽しもうという児童室向けの企画だった。
問題はいくつかあった。
コンクリート片は歪な形に割れており、中には迂闊に触れば手を切ってしまいそうな断面のものもある。
だから事前に機械を使って、表面を磨くことにした。
普通の図書隊員であれば、だいたいここで断念する。
磨く手間やコストがかかるからだ。
だがそこは後方支援部である黒子の強みだった。
赤司のコネクションを使えば、あっさりと研磨用の機械を格安で貸してくれる会社が見つかった。
次の問題は、コンクリート片は案外重いということだった。
小さな子供でも扱いやすく、だけど大きい子でも楽しめるもの。
何を作ろうかと迷った黒子は、郁に相談した。
すると郁は「特に用途を決めない方がいいんじゃないですか?」と大雑把なアドバイスをした。
だがこれが企画を決定づけることになったのだ。
手のひらに乗るほどのコンクリート片。
ビー玉のように丸い物もあれば、平べったい物もある。
集まった子供たちは好きなものを選んで、色を付ける。
一番人気は穴が開いているものだった。
色を付けた後に紐を通して、ペンダントやストラップなどにするのだ。
それ以外にも、独創的なものもあった。
長方形のものを選んで、車に見立てて絵を書いた子がいた。
動物の姿を書いて、置き物にした子もいる。
かくして子供たちの自由な発想で、コンクリートの瓦礫は華麗な変貌を遂げたのだった。
「郁ちゃん、テツ君、ありがとう~!」
「また来るね~!」
子供たちが笑顔で手を振りながら、児童室を出て行く。
手探りな企画はどうやら成功したようだ。
黒子と郁は並んで、子供たちを送り出す。
郁は子供目線で「また来てね~」と笑い、黒子は子供にも律儀に「またお待ちしています」と頭を下げる。
子供にはこのコントラストも面白いようで、ケラケラと笑いながら出て行く子も多かった。
「ありがとうございました。」
子供たちを送り出し後、黒子は郁に頭を下げた。
この企画は黒子と郁の連名で出された。
郁としては何だか手柄を横取りしたような後ろめたさがあったが、黒子に「ぜひ」と頼まれたのだ。
そしてイベントでは子供たちを仕切り、黒子がサポートするという形になった。
「楽しかったですね。次回は夏休み、自由研究の工作とかだと受けそうですね。」
「え~、夏まで待てません。その前に何度かやりたいです。」
「栞の企画も進めたいですね。笠原士長、そちらもご協力いただけますか?」
「もちろんです!」
2人はそんなことを話しながら、図書館を歩いている。
それを見ていた堂上や柴崎たちは、微妙な気持ちだった。
どんどん楽しい企画を繰り出すのはいいが、彼らは自分たちが考えている以上に目立つのだ。
今だって前向きに話をする2人に嫉妬の視線を向けている者が何人かいる。
だが当の2人はそんな視線などおかまいなしに、企画の話で盛り上がっている。
「ところであの親子が気になります。大丈夫ですかね。」
黒子は図書館を出て行く利用者の母子の後ろ姿を見ながら、ポツリとそう呟いた。
子供の方は先程までイベントを楽しんでいた。
やんちゃそうな男の子は最初は他の子にちょっかいをかけたりして少し手を焼いたが、すぐに企画に没頭した。
長方形のコンクリートに車の絵を描いて、その出来栄えに子供だけでなく黒子や郁も感心したのだ。
「何がですか?」
郁は不思議そうにその母子を、次に黒子を見た。
黒子は母子の姿を目で追いながら「何となくです。雰囲気とか視線とか。嫌な感じがします」と答えた。
郁は「そうかなぁ」と答えて、サラリと流してしまったことを後々後悔することになった。
その子の名は高木雄大。
数か月後に母親による虐待が発覚するのである。
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