第28話「栞」
「テツく~ん!き~ちゃん!」
桃井は昔からの使っている呼び名で2人を呼んだ。
黄瀬も「ももっち!」と応じて、手を振る。
黒子だけが顔をしかめて「図書館では静かにして下さい」と注意した。
黄瀬涼太のブログが更新された。
更新したのは昨日の夜遅くと、今朝早朝の境目くらいの時間だ。
だが反響は大きく、黄瀬のページの閲覧数は過去最高を記録していた。
掲載したのは数枚の写真である。
いずれも武蔵野第一図書館でロケハン中のものだ。
賛同団体が押し入ったり、図書搬入時を良化隊が阻止しようとしたり、検閲時のものもあった。
どれもそれらの光景を見て驚いたり、怒ったり、切ない表情の黄瀬にフォーカスされている。
背景は写り込んだ人間の顔はわからないが、何が起こっているかはわかる程度にボカされていた。
中でも圧巻は検閲抗争時の3枚の写真だった。
1枚目は銃を構える良化隊員、2枚目は図書館前のプランターがはじけ飛ぶ瞬間。
それを見つけている黄瀬の背中越しに、それらの光景が写り込んでいる。
さらに3枚目は花が地面に飛び散った残骸を怒りと悲しみの表情で見ている黄瀬だった。
いずれもロケハンに同行した黒子が撮影したものだ。
そして同時刻に更新された黒子のブログには、図書館の小さなイベントが載せられていた。
その効果は絶大で、図書館はいつもよりも人が多い。
ちなみに桃井もそれ目当てで来館したのである。
図書館員なら誰に声をかけてもよかったが、できれば黒子がいい。
そう思っていたところ、都合よく黄瀬と話をしている黒子を見つけたというわけだ。
「それにしても相変わらず上手いよね。」
「何がですか?」
「テツ君はイベントの告知成功、きーちゃんも好感度アップ。」
「利用しない手はないでしょう。」
桃井の指摘に黒子は淡々と答え、黄瀬は「エヘヘ」とチャラい笑顔を浮かべた。
2人はもちろん示し合わせた上で、同じタイミングでブログを更新したのだ。
黒子は図書館のイベントPRのため。
そして黄瀬は怒りや切ない表情の写真を上げることで、イメージチェンジを図ったのだ。
どちらかと言えばチャラい印象が先行する黄瀬のシリアスな表情に、ネットでの評価も上がっている。
「テツ君、いろいろ気を付けてね。」
桃井は笑顔から真面目な表情に変わると、そう言った。
実は来館して黒子たちを捜している間に、若い男女の図書館員数名の噂話を聞いてしまったのだ。
ヒソヒソ声だったので、はっきりとはわからない。
だが切れ切れに「黒子」「うまくやった」「キセキの世代」「特殊部隊にも気に入られて」などと言っていた。
どう贔屓目に見ようとしても褒め言葉ではなく、悪い方の噂話だ。
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ。」
黒子は律儀に頭を下げた。
人の気配や気持ちの動きに敏感な黒子のことだから、きっと気付いている。
キセキの世代という異名がつき始めた中学時代から、陰口を叩くヤツはいたのだ。
今さら少々のことで動じないし、図書館で働く以上は注意を怠らないだろう。
「で、テツ君。あたしにもちょうだい!」
桃井は黒子に手を出した。
黒子は「わかりました」と苦笑すると、胸ポケットの中から栞を1枚取り出して桃井の手のひらに乗せた。
桃井は昔からの使っている呼び名で2人を呼んだ。
黄瀬も「ももっち!」と応じて、手を振る。
黒子だけが顔をしかめて「図書館では静かにして下さい」と注意した。
黄瀬涼太のブログが更新された。
更新したのは昨日の夜遅くと、今朝早朝の境目くらいの時間だ。
だが反響は大きく、黄瀬のページの閲覧数は過去最高を記録していた。
掲載したのは数枚の写真である。
いずれも武蔵野第一図書館でロケハン中のものだ。
賛同団体が押し入ったり、図書搬入時を良化隊が阻止しようとしたり、検閲時のものもあった。
どれもそれらの光景を見て驚いたり、怒ったり、切ない表情の黄瀬にフォーカスされている。
背景は写り込んだ人間の顔はわからないが、何が起こっているかはわかる程度にボカされていた。
中でも圧巻は検閲抗争時の3枚の写真だった。
1枚目は銃を構える良化隊員、2枚目は図書館前のプランターがはじけ飛ぶ瞬間。
それを見つけている黄瀬の背中越しに、それらの光景が写り込んでいる。
さらに3枚目は花が地面に飛び散った残骸を怒りと悲しみの表情で見ている黄瀬だった。
いずれもロケハンに同行した黒子が撮影したものだ。
そして同時刻に更新された黒子のブログには、図書館の小さなイベントが載せられていた。
その効果は絶大で、図書館はいつもよりも人が多い。
ちなみに桃井もそれ目当てで来館したのである。
図書館員なら誰に声をかけてもよかったが、できれば黒子がいい。
そう思っていたところ、都合よく黄瀬と話をしている黒子を見つけたというわけだ。
「それにしても相変わらず上手いよね。」
「何がですか?」
「テツ君はイベントの告知成功、きーちゃんも好感度アップ。」
「利用しない手はないでしょう。」
桃井の指摘に黒子は淡々と答え、黄瀬は「エヘヘ」とチャラい笑顔を浮かべた。
2人はもちろん示し合わせた上で、同じタイミングでブログを更新したのだ。
黒子は図書館のイベントPRのため。
そして黄瀬は怒りや切ない表情の写真を上げることで、イメージチェンジを図ったのだ。
どちらかと言えばチャラい印象が先行する黄瀬のシリアスな表情に、ネットでの評価も上がっている。
「テツ君、いろいろ気を付けてね。」
桃井は笑顔から真面目な表情に変わると、そう言った。
実は来館して黒子たちを捜している間に、若い男女の図書館員数名の噂話を聞いてしまったのだ。
ヒソヒソ声だったので、はっきりとはわからない。
だが切れ切れに「黒子」「うまくやった」「キセキの世代」「特殊部隊にも気に入られて」などと言っていた。
どう贔屓目に見ようとしても褒め言葉ではなく、悪い方の噂話だ。
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ。」
黒子は律儀に頭を下げた。
人の気配や気持ちの動きに敏感な黒子のことだから、きっと気付いている。
キセキの世代という異名がつき始めた中学時代から、陰口を叩くヤツはいたのだ。
今さら少々のことで動じないし、図書館で働く以上は注意を怠らないだろう。
「で、テツ君。あたしにもちょうだい!」
桃井は黒子に手を出した。
黒子は「わかりました」と苦笑すると、胸ポケットの中から栞を1枚取り出して桃井の手のひらに乗せた。
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