第27話「正化ジャーナル」
「あ、すみません。」
カメラを構えていた黒子は、頭を下げた。
堂上と郁は立ち止まると、バツが悪そうに顔を見合わせた。
一時はギクシャクとしていた堂上と郁だったが、催涙ガス事件直後に解決した。
同時に堂上が多くの図書隊員がいる中で「郁!」と叫んだことから、2人の交際も知れ渡った。
かくして2人は今まで以上のバカップル上等な甘い空気をまき散らすようになった。
もちろん当の2人はまったくその自覚はない。
だが未練がましく堂上や郁に恋心を寄せていた者たちの多くは、ここで諦めた。
それでもなお諦めきれない者たちも、自分たちの恋が実る確率がほぼゼロであることを痛感したようである。
黄瀬の写真集のロケハンが行なわれるようになったのも、この頃である。
図書隊側の担当者に指名された黒子が、図書館のあちこちでカメラを構えて写真を撮っていた。
いわゆる試し撮りだ。
時間帯を変えて館内をあちこち撮影し、それらを比較検討する。
同じ場所でも時間帯によって、趣きはかなり違う。
だからしっかり試し撮り写真を吟味して、実際の撮影場所と時間を決めるのだそうだ。
念のため黒子は「広報」と書かれた腕章をつけている。
もちろん図書隊の制服の着用も必須。
開館時間内に行われることもあるからだ。
まだ黄瀬の写真集の話は、内密である。
だから利用者に聞かれれば「図書隊の広報用の写真です」と答えることになっていた。
事情を知らない図書館員には「内部資料用の写真です」と嘘をついた。
そんな最中、堂上と郁は急な館内業務のヘルプの要請に応え、特殊部隊の庁舎から図書館に向かっていた。
郁が歩きながら、昼のメニューのアジフライが美味しかったと満面の笑みを見せた。
そして堂上はそんな郁を愛おしいと言わんばかりに、微笑した。
そのとき図書館内の敷地内で写真を撮っていた黒子と行き合ったのである。
「あ、すみません。」
カメラを構えていた黒子は、頭を下げた。
この辺りは東京都内とは思えないほど緑が多い。
春や秋など陽気の良い時分には、利用者が日光浴を楽しむ姿が見受けられる場所だ。
この時期は寒いのでくつろぐ利用者はいないが、空気はピンと澄み渡っている。
撮影にはもってこいの場所だ。
そこをロケハンしていたカメラに、2人は写り込んでしまったらしい。
「黒子先生、お疲れさまです!」
郁は元気よく挨拶をするが、堂上は渋い顔だ。
何しろ堂上は写真が苦手で、カメラを向けると心を閉ざした野生生物と化すほどなのだ。
黒子は郁に「お疲れ様です。先生はやめて下さい」ともはや定番の返しをした。
そして堂上と視線を合わせると、これ見よがしにため息をついた。
「ボクが先に来ていたんですけど」
かすかに恨みがましい口調に、堂上は眉間のシワを深くした。
黒子が写真を撮っていたところに2人が来たのだと言いたいのだろう。
堂上はしぶしぶ「すまん」と詫びた。
「どうも」
黒子は素っ気なく応じて、この場はそれで別れた。
だが堂上は何となく引っかかっていた。
いいかげん付き合いが長くなったせいか、黒子の無表情からも何となく感情が読み取れるようになった。
そしてこのときは明らかに黒子の機嫌を損ねたような気がしたのだ。
それが正解だとわかったのは、その日の夜のことだった。
堂上と郁、それぞれのスマホにこのときの2人の写真が送られてきたのだ。
満面の笑みを浮かべる郁と、それを愛おしそうに眺める堂上だ。
寮の自室でそれを見た堂上は戦闘職種らしからぬ緩み切った自分の顔に撃沈した。
我に返って、慌てて郁に連絡をした時にはすでに遅かった。
郁は堂上の自然な笑顔と一緒の貴重なツーショット写真に浮かれて、柴崎に見せた後だったのだ。
柴崎は慎重にパソコンにコピーして保存、翌日には小牧が笑い転げ、手塚は固まった。
そして堂上は二度と黒子の機嫌を損ねてはいけないと痛感したのだった。
カメラを構えていた黒子は、頭を下げた。
堂上と郁は立ち止まると、バツが悪そうに顔を見合わせた。
一時はギクシャクとしていた堂上と郁だったが、催涙ガス事件直後に解決した。
同時に堂上が多くの図書隊員がいる中で「郁!」と叫んだことから、2人の交際も知れ渡った。
かくして2人は今まで以上のバカップル上等な甘い空気をまき散らすようになった。
もちろん当の2人はまったくその自覚はない。
だが未練がましく堂上や郁に恋心を寄せていた者たちの多くは、ここで諦めた。
それでもなお諦めきれない者たちも、自分たちの恋が実る確率がほぼゼロであることを痛感したようである。
黄瀬の写真集のロケハンが行なわれるようになったのも、この頃である。
図書隊側の担当者に指名された黒子が、図書館のあちこちでカメラを構えて写真を撮っていた。
いわゆる試し撮りだ。
時間帯を変えて館内をあちこち撮影し、それらを比較検討する。
同じ場所でも時間帯によって、趣きはかなり違う。
だからしっかり試し撮り写真を吟味して、実際の撮影場所と時間を決めるのだそうだ。
念のため黒子は「広報」と書かれた腕章をつけている。
もちろん図書隊の制服の着用も必須。
開館時間内に行われることもあるからだ。
まだ黄瀬の写真集の話は、内密である。
だから利用者に聞かれれば「図書隊の広報用の写真です」と答えることになっていた。
事情を知らない図書館員には「内部資料用の写真です」と嘘をついた。
そんな最中、堂上と郁は急な館内業務のヘルプの要請に応え、特殊部隊の庁舎から図書館に向かっていた。
郁が歩きながら、昼のメニューのアジフライが美味しかったと満面の笑みを見せた。
そして堂上はそんな郁を愛おしいと言わんばかりに、微笑した。
そのとき図書館内の敷地内で写真を撮っていた黒子と行き合ったのである。
「あ、すみません。」
カメラを構えていた黒子は、頭を下げた。
この辺りは東京都内とは思えないほど緑が多い。
春や秋など陽気の良い時分には、利用者が日光浴を楽しむ姿が見受けられる場所だ。
この時期は寒いのでくつろぐ利用者はいないが、空気はピンと澄み渡っている。
撮影にはもってこいの場所だ。
そこをロケハンしていたカメラに、2人は写り込んでしまったらしい。
「黒子先生、お疲れさまです!」
郁は元気よく挨拶をするが、堂上は渋い顔だ。
何しろ堂上は写真が苦手で、カメラを向けると心を閉ざした野生生物と化すほどなのだ。
黒子は郁に「お疲れ様です。先生はやめて下さい」ともはや定番の返しをした。
そして堂上と視線を合わせると、これ見よがしにため息をついた。
「ボクが先に来ていたんですけど」
かすかに恨みがましい口調に、堂上は眉間のシワを深くした。
黒子が写真を撮っていたところに2人が来たのだと言いたいのだろう。
堂上はしぶしぶ「すまん」と詫びた。
「どうも」
黒子は素っ気なく応じて、この場はそれで別れた。
だが堂上は何となく引っかかっていた。
いいかげん付き合いが長くなったせいか、黒子の無表情からも何となく感情が読み取れるようになった。
そしてこのときは明らかに黒子の機嫌を損ねたような気がしたのだ。
それが正解だとわかったのは、その日の夜のことだった。
堂上と郁、それぞれのスマホにこのときの2人の写真が送られてきたのだ。
満面の笑みを浮かべる郁と、それを愛おしそうに眺める堂上だ。
寮の自室でそれを見た堂上は戦闘職種らしからぬ緩み切った自分の顔に撃沈した。
我に返って、慌てて郁に連絡をした時にはすでに遅かった。
郁は堂上の自然な笑顔と一緒の貴重なツーショット写真に浮かれて、柴崎に見せた後だったのだ。
柴崎は慎重にパソコンにコピーして保存、翌日には小牧が笑い転げ、手塚は固まった。
そして堂上は二度と黒子の機嫌を損ねてはいけないと痛感したのだった。
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