第24話「関係解消」
「今日はきっと利用者は少ないよね。」
「そうだね~。楽できる。」
キャハハと笑う女性図書館員を見て、黒子はこっそりとため息をついた。
テレビのニュースは2つの話題を大きく報じていた。
1つは今年一番の台風が関東に上陸したという話。
そしてもう1つは、当麻蔵人の裁判の最高裁判決が出るという話だ。
そんなときでも黒子はいつも通り、図書館で書籍のチェックをしていた。
もしも敗訴であれば、当麻はそのまま大使館に駆け込み、亡命する。
ここまでいろいろ協力したが、もう黒子にできることはない。
あとはせいぜい何もない顔で、普段通りの仕事をするだけだ。
ポーカーフェイスは得意なはずなのに。
黒子は書架から背表紙が傷んだ本を取り出すと、意図的にゆっくりとブックワゴンに載せた。
高校の頃の試合前だって、こんなには緊張しなかった。
図書館内でならどんなときでも平静でいられるつもりだったが、まだまだらしい。
もしも黒子と親しい者が今の黒子を見ても「こんな日によく平静だな」というレベルではある。
だが黒子にしてみれば、やはり仕草の端々に動揺が出てしまっていると思っていた。
だが今日の結果1つで、これからのメディア良化法と図書館の歴史が変わるのだ。
そして1人の作家のその作家生命も。
それを思えばどうしても落ち着かない。
だがそんなとき、女性業務部員が2人、書架の間を通り過ぎた。
「今日はきっと利用者は少ないよね。」
「そうだね~。楽できる。」
2人は笑いながら、黒子には気づかずに歩き去っていく。
それを聞いた黒子は、もう1度深く呼吸した。
こんな一大事の日にあまりにも能天気な言葉に、カチンと来たのだ。
亡命のことは知らなくたって、最高裁判決の日だとはわかっているだろうに。
まだまだボクは、精神的に未熟らしい。
黒子はさらに丁寧な動作を心掛けながら、また傷んだ本を見つけて取り出した。
例え結果がどうなろうと、やることは変わらないと自分に言い聞かせながら。
すると今度は別の女性業務部員が数名、また書架の間を通り過ぎていく。
「今日、最高裁の判決が出れば、当麻先生の警護が終わるのかなぁ。」
「そうしたらまた堂上班、図書館勤務が増えるよね。」
「そうそう、そしたら今度こそ堂上二正に告白する!」
「でも堂上二正って、笠原士長といい雰囲気って噂だけど。」
「何言ってんのよ。あんな女らしさのカケラもない山猿なんかと」
そんな会話が通り過ぎていくのを見て、黒子はまた深く息をついた。
そして一度書架から離れて、こっそりと彼女たちの顔を盗み見た。
入隊1年目の女性業務部員のグループだ。
黒子でもかろうじて名字くらいはわかる。
これはさすがに見逃せないかな。
黒子は何もない顔で書架に戻りながら、口元を歪ませた。
こんなときこそ普段通りであるべき。
その考えは変わらない。
だけど見逃せることと見逃せないことはあるのだ。
彼女たちの発言は、後日「堂上二正と笠原士長を見守ろうの会」の会長と副会長の耳に入った。
そして「見守ろうの会」の会員たちの手によって、慎重に巧妙に噂の2人から遠ざけられることになる。
さらに告白などできる距離に近づくこともできないまま、堂上と郁がラブラブになる様を見せつけられるのだ。
だが今は知る由もなく、図書隊にとって一世一代の日にありもしない妄想に笑っていた。
「さて、どうなりますか。」
黒子は本を抱えて歩きながら、窓越しに暗い空を見上げた。
そしてまるで「そう簡単にはいかないよ」と宣言するような荒れ模様に、またこっそりとため息をついたのだった。
「そうだね~。楽できる。」
キャハハと笑う女性図書館員を見て、黒子はこっそりとため息をついた。
テレビのニュースは2つの話題を大きく報じていた。
1つは今年一番の台風が関東に上陸したという話。
そしてもう1つは、当麻蔵人の裁判の最高裁判決が出るという話だ。
そんなときでも黒子はいつも通り、図書館で書籍のチェックをしていた。
もしも敗訴であれば、当麻はそのまま大使館に駆け込み、亡命する。
ここまでいろいろ協力したが、もう黒子にできることはない。
あとはせいぜい何もない顔で、普段通りの仕事をするだけだ。
ポーカーフェイスは得意なはずなのに。
黒子は書架から背表紙が傷んだ本を取り出すと、意図的にゆっくりとブックワゴンに載せた。
高校の頃の試合前だって、こんなには緊張しなかった。
図書館内でならどんなときでも平静でいられるつもりだったが、まだまだらしい。
もしも黒子と親しい者が今の黒子を見ても「こんな日によく平静だな」というレベルではある。
だが黒子にしてみれば、やはり仕草の端々に動揺が出てしまっていると思っていた。
だが今日の結果1つで、これからのメディア良化法と図書館の歴史が変わるのだ。
そして1人の作家のその作家生命も。
それを思えばどうしても落ち着かない。
だがそんなとき、女性業務部員が2人、書架の間を通り過ぎた。
「今日はきっと利用者は少ないよね。」
「そうだね~。楽できる。」
2人は笑いながら、黒子には気づかずに歩き去っていく。
それを聞いた黒子は、もう1度深く呼吸した。
こんな一大事の日にあまりにも能天気な言葉に、カチンと来たのだ。
亡命のことは知らなくたって、最高裁判決の日だとはわかっているだろうに。
まだまだボクは、精神的に未熟らしい。
黒子はさらに丁寧な動作を心掛けながら、また傷んだ本を見つけて取り出した。
例え結果がどうなろうと、やることは変わらないと自分に言い聞かせながら。
すると今度は別の女性業務部員が数名、また書架の間を通り過ぎていく。
「今日、最高裁の判決が出れば、当麻先生の警護が終わるのかなぁ。」
「そうしたらまた堂上班、図書館勤務が増えるよね。」
「そうそう、そしたら今度こそ堂上二正に告白する!」
「でも堂上二正って、笠原士長といい雰囲気って噂だけど。」
「何言ってんのよ。あんな女らしさのカケラもない山猿なんかと」
そんな会話が通り過ぎていくのを見て、黒子はまた深く息をついた。
そして一度書架から離れて、こっそりと彼女たちの顔を盗み見た。
入隊1年目の女性業務部員のグループだ。
黒子でもかろうじて名字くらいはわかる。
これはさすがに見逃せないかな。
黒子は何もない顔で書架に戻りながら、口元を歪ませた。
こんなときこそ普段通りであるべき。
その考えは変わらない。
だけど見逃せることと見逃せないことはあるのだ。
彼女たちの発言は、後日「堂上二正と笠原士長を見守ろうの会」の会長と副会長の耳に入った。
そして「見守ろうの会」の会員たちの手によって、慎重に巧妙に噂の2人から遠ざけられることになる。
さらに告白などできる距離に近づくこともできないまま、堂上と郁がラブラブになる様を見せつけられるのだ。
だが今は知る由もなく、図書隊にとって一世一代の日にありもしない妄想に笑っていた。
「さて、どうなりますか。」
黒子は本を抱えて歩きながら、窓越しに暗い空を見上げた。
そしてまるで「そう簡単にはいかないよ」と宣言するような荒れ模様に、またこっそりとため息をついたのだった。
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