第23話「あくまで噂」
「最高裁まで行って、表現の自由も守れないような判決が出るなら」
「当麻先生、いっそどこかの国に亡命でもしちゃえばどうでしょうね~」
郁はのんびりと茶を啜りながら、そう言った。
特に何も考えていたわけではない。
ただただ思い付きを口にしたにすぎず、自分の言葉が後に大きな流れを作ることなど知る由もなかった。
当麻の控訴審の判決が出た。
一審より少しは進歩したものの、事実上は敗訴。
残念なその内容を受けて、図書特殊部隊は会議室に招集された。
そして隊員たちは知恵を絞って、考えられるアイディアを出し合う。
こんなとき郁は、まったくと言っていいほど無力だ。
知力と体力が求められる特殊部隊において、郁の能力の比率は体力の方が大きいのだ。
完全に空気と化し、ただただお茶を啜るばかりだ。
そして普段はオチャラケている先輩隊員たちが、実は聡明な頭脳を持っていることを思い知る。
こんなときふと思うのは、黒子たちのことだった。
郁たちは稲嶺が作り上げた図書隊という枠の中で、戦っている。
だが彼らはその枠の外から、検閲の撤廃を目指している。
彼らを見ていると、郁はますます自分の無力さを痛感する。
特殊部隊にいればまだまだ下っ端だと言い訳できるが、黒子たちはほぼ全員が自分と同年齢だ。
若いとか経験が足りないなんて、彼らに言えば一笑に付されるだろう。
裁判の様子についても、彼らはブログにアップしていた。
日本国内の過去に国を相手にした裁判の事例をまとめ、その勝率の低さを問題にしていたり。
またさらに突っ込んで、現役の裁判官の個人の実名を挙げてその傾向をまとめたりもしていた。
今まで考えたことがなかったが、裁判官によって常に国が勝利の判決を下す者と、わりと国に批判的な判決を下す者がいるのだ。
NBAプレイヤーの2人がいるせいで、彼らのブログは海外からのアクセスも多い。
英語版でも見られるようになっており、この裁判の理不尽さは世界に向けても配信されている。
だから郁からすんなりと「亡命」などという言葉が出たのだ。
彼らのブログはサーバーが海外にあるため、検閲の手が届かない。
それあらいっそ当麻も海外を拠点にしてしまった方が、楽ではないのか。
何となくそんな風に考えたせいに過ぎない。
「えらいぞ、お前の脳味噌でよく思いついた!」
堂上がそう叫んだ時に思わず拳が出たのは、決して地味に頭脳を貶められた怒りではない。
その前の問い詰め方が怖すぎて、打って変わった上機嫌の落差に理不尽さを感じただけだ。
だから特殊部隊の先輩たちに「やったな」などと言われると、非常に座りが悪い。
郁にしてみれば、想い人をグーで殴ったという痛恨の思い出なのだ。
とはいえ、当麻の亡命に向けての動きはここから始まった。
これが大きな流れとなり、やがて抗争時の火器規制、しいては検閲撤廃へ動き出す。
そして郁は「唯一の特殊部隊女性隊員」の上に「当麻事件の立役者」という肩書がつくことになる。
この話は何年にも渡って、人々の噂の種になった。
郁はやたらと神格化された自分の話題を聞くたびに、郁は後に恋人、さらには夫ととなる堂上に愚痴った。
だが堂上はそのたびに、にべもなく突き放した。
曰く「俺が王子様と呼ばれて、完全無欠の図書隊員扱いされた気分を味わえ」と。
「当麻先生、いっそどこかの国に亡命でもしちゃえばどうでしょうね~」
郁はのんびりと茶を啜りながら、そう言った。
特に何も考えていたわけではない。
ただただ思い付きを口にしたにすぎず、自分の言葉が後に大きな流れを作ることなど知る由もなかった。
当麻の控訴審の判決が出た。
一審より少しは進歩したものの、事実上は敗訴。
残念なその内容を受けて、図書特殊部隊は会議室に招集された。
そして隊員たちは知恵を絞って、考えられるアイディアを出し合う。
こんなとき郁は、まったくと言っていいほど無力だ。
知力と体力が求められる特殊部隊において、郁の能力の比率は体力の方が大きいのだ。
完全に空気と化し、ただただお茶を啜るばかりだ。
そして普段はオチャラケている先輩隊員たちが、実は聡明な頭脳を持っていることを思い知る。
こんなときふと思うのは、黒子たちのことだった。
郁たちは稲嶺が作り上げた図書隊という枠の中で、戦っている。
だが彼らはその枠の外から、検閲の撤廃を目指している。
彼らを見ていると、郁はますます自分の無力さを痛感する。
特殊部隊にいればまだまだ下っ端だと言い訳できるが、黒子たちはほぼ全員が自分と同年齢だ。
若いとか経験が足りないなんて、彼らに言えば一笑に付されるだろう。
裁判の様子についても、彼らはブログにアップしていた。
日本国内の過去に国を相手にした裁判の事例をまとめ、その勝率の低さを問題にしていたり。
またさらに突っ込んで、現役の裁判官の個人の実名を挙げてその傾向をまとめたりもしていた。
今まで考えたことがなかったが、裁判官によって常に国が勝利の判決を下す者と、わりと国に批判的な判決を下す者がいるのだ。
NBAプレイヤーの2人がいるせいで、彼らのブログは海外からのアクセスも多い。
英語版でも見られるようになっており、この裁判の理不尽さは世界に向けても配信されている。
だから郁からすんなりと「亡命」などという言葉が出たのだ。
彼らのブログはサーバーが海外にあるため、検閲の手が届かない。
それあらいっそ当麻も海外を拠点にしてしまった方が、楽ではないのか。
何となくそんな風に考えたせいに過ぎない。
「えらいぞ、お前の脳味噌でよく思いついた!」
堂上がそう叫んだ時に思わず拳が出たのは、決して地味に頭脳を貶められた怒りではない。
その前の問い詰め方が怖すぎて、打って変わった上機嫌の落差に理不尽さを感じただけだ。
だから特殊部隊の先輩たちに「やったな」などと言われると、非常に座りが悪い。
郁にしてみれば、想い人をグーで殴ったという痛恨の思い出なのだ。
とはいえ、当麻の亡命に向けての動きはここから始まった。
これが大きな流れとなり、やがて抗争時の火器規制、しいては検閲撤廃へ動き出す。
そして郁は「唯一の特殊部隊女性隊員」の上に「当麻事件の立役者」という肩書がつくことになる。
この話は何年にも渡って、人々の噂の種になった。
郁はやたらと神格化された自分の話題を聞くたびに、郁は後に恋人、さらには夫ととなる堂上に愚痴った。
だが堂上はそのたびに、にべもなく突き放した。
曰く「俺が王子様と呼ばれて、完全無欠の図書隊員扱いされた気分を味わえ」と。
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