第20話「終わりと始まり」
「黒ちん、久しぶり~」
紫原は巨体に似合わぬ緩い声を上げると、電話の向こうからも「確かに久しぶりって気がしますね」と答えが返ってきた。
無表情な彼にしては笑っているような気がしたので、紫原も「あはは」と笑った。
茨城県展、初日。
早朝から紫原は、出動した。
美術県展の最優秀作品「自由」を奪うのが、課せられた任務だ。
紫原からすれば、まったく面倒極まりない話だった。
まず任務がバカバカしい。
そもそも良化隊なんて、世間から嫌われているのは当然の認識だ。
制服を破られるくらいの話で、いまさら目くじらを立てる理由がわからない。
それに茨城くんだりまで出張することも面倒だし、早朝から働かされるのも面倒だ。
茨城入りしたときには、黒子に電話を入れた。
盛大にグチってやろうと思ったからだ。
後方支援部とはいえ、図書隊にいる黒子が一番話が通じやすい。
本来なら職務規定で、業務の細かいことは言えない。
だが黒子なら面倒だと連呼するだけで、今の状況を察してくれる。
予想通り、電話に出た彼は紫原のグチを聞いて「大変ですね」と相槌を打ってくれた。
きっといつもの真面目な顔で、いちいち頷いていたのだろう。
「紫原君が電話してくると思って、茨城限定のお菓子の情報をリサーチしておきました。」
紫原がひとしきりグチった後、黒子はそう言った。
わざわざ調べておいたとは、手際の良いことだ。
だが黒子は、結構細かいことを言ってくる。
水戸準基地近くのコンビニの情報を言われた時に、なるほどと思った。
黒子も今回のことで茨城入りしているのだが、職務規定でそれが言えない
だから実際に行かなければわからないようなコンビニ情報を喋って、暗にそれを伝えてきたのだ。
紫原はありがたく黒子の情報を利用した。
教えてもらったコンビニには、茨城限定のお菓子が売っていたのだ。
それを食べながら、ここで黒子に会うことはないだろうと思った。
防衛員ではない黒子は、戦闘には出てこないはずだ。
宿舎でバリバリとスナック菓子を齧りながら、紫原は苦笑した。
思い出すのは、学生時代のこと。
バスケで引く手あまただった黒子が、大学には進まずバスケも辞めると言い出した。
そして第2の夢として、検閲の撤廃を掲げたのだ。
紫原は最初、黒子がおかしくなったと思った。
あれほどバスケが好きだと言っていた男が、どうして辞めるのか。
そしてなぜ検閲を撤廃なんて、どう考えても実現不可能なことを夢にしたのか。
だが赤司が「面白いな。オレもそれに乗ろう」と言い出したのだ。
紫原同様、呆れたように見ていた者たちも1人、また1人とそれに加わった。
彼らがあまりにも楽しそうだったので、紫原もその輪に入ることにしたのだ。
しかも誰もが思いつかなかった良化隊員として。
反対側から彼らを見ながら、できることを捜すことにした。
そして今回も面白いものを見た。
何とゴツい男たちに混ざって、細くて小さな黒子が戦場を走り回っていた。
そして抗争終了間際の最後の押し合いでも。
盾の向こう側にいたのは女子隊員で、ひねりつぶすのがかわいそうだと思っていた矢先、根武谷が現れた。
そして黒子は「キセキの世代、バーサス、無冠の五将。番外編ってところですかね」などと言い放ったのだ。
これなら思いっきり戦える。しかも検閲など関係なく楽しんで。
結局、絵は奪えなかったけれど、紫原には悔いはなかった。
その日の夕方、紫原はまた黒子に電話をした。
思わず「久しぶり」などと言ったが、抗争で顔を合わせてから半日しか経っていない。
だが黒子も「確かに久しぶりって気がしますね」と言ってくれた。
いろいろあり過ぎて、ひどく時間が経ったような気がしていたのは紫原だけではなかった。
そう思うだけで、楽しかった。
「それではまた、会いましょう。」
黒子が最後にそう言ってくれたので、紫原も「またね」と答えて電話を切った。
検閲が撤廃される最後の抗争まで、しっかり見届ける。
それが今の紫原の秘かな夢だった。
紫原は巨体に似合わぬ緩い声を上げると、電話の向こうからも「確かに久しぶりって気がしますね」と答えが返ってきた。
無表情な彼にしては笑っているような気がしたので、紫原も「あはは」と笑った。
茨城県展、初日。
早朝から紫原は、出動した。
美術県展の最優秀作品「自由」を奪うのが、課せられた任務だ。
紫原からすれば、まったく面倒極まりない話だった。
まず任務がバカバカしい。
そもそも良化隊なんて、世間から嫌われているのは当然の認識だ。
制服を破られるくらいの話で、いまさら目くじらを立てる理由がわからない。
それに茨城くんだりまで出張することも面倒だし、早朝から働かされるのも面倒だ。
茨城入りしたときには、黒子に電話を入れた。
盛大にグチってやろうと思ったからだ。
後方支援部とはいえ、図書隊にいる黒子が一番話が通じやすい。
本来なら職務規定で、業務の細かいことは言えない。
だが黒子なら面倒だと連呼するだけで、今の状況を察してくれる。
予想通り、電話に出た彼は紫原のグチを聞いて「大変ですね」と相槌を打ってくれた。
きっといつもの真面目な顔で、いちいち頷いていたのだろう。
「紫原君が電話してくると思って、茨城限定のお菓子の情報をリサーチしておきました。」
紫原がひとしきりグチった後、黒子はそう言った。
わざわざ調べておいたとは、手際の良いことだ。
だが黒子は、結構細かいことを言ってくる。
水戸準基地近くのコンビニの情報を言われた時に、なるほどと思った。
黒子も今回のことで茨城入りしているのだが、職務規定でそれが言えない
だから実際に行かなければわからないようなコンビニ情報を喋って、暗にそれを伝えてきたのだ。
紫原はありがたく黒子の情報を利用した。
教えてもらったコンビニには、茨城限定のお菓子が売っていたのだ。
それを食べながら、ここで黒子に会うことはないだろうと思った。
防衛員ではない黒子は、戦闘には出てこないはずだ。
宿舎でバリバリとスナック菓子を齧りながら、紫原は苦笑した。
思い出すのは、学生時代のこと。
バスケで引く手あまただった黒子が、大学には進まずバスケも辞めると言い出した。
そして第2の夢として、検閲の撤廃を掲げたのだ。
紫原は最初、黒子がおかしくなったと思った。
あれほどバスケが好きだと言っていた男が、どうして辞めるのか。
そしてなぜ検閲を撤廃なんて、どう考えても実現不可能なことを夢にしたのか。
だが赤司が「面白いな。オレもそれに乗ろう」と言い出したのだ。
紫原同様、呆れたように見ていた者たちも1人、また1人とそれに加わった。
彼らがあまりにも楽しそうだったので、紫原もその輪に入ることにしたのだ。
しかも誰もが思いつかなかった良化隊員として。
反対側から彼らを見ながら、できることを捜すことにした。
そして今回も面白いものを見た。
何とゴツい男たちに混ざって、細くて小さな黒子が戦場を走り回っていた。
そして抗争終了間際の最後の押し合いでも。
盾の向こう側にいたのは女子隊員で、ひねりつぶすのがかわいそうだと思っていた矢先、根武谷が現れた。
そして黒子は「キセキの世代、バーサス、無冠の五将。番外編ってところですかね」などと言い放ったのだ。
これなら思いっきり戦える。しかも検閲など関係なく楽しんで。
結局、絵は奪えなかったけれど、紫原には悔いはなかった。
その日の夕方、紫原はまた黒子に電話をした。
思わず「久しぶり」などと言ったが、抗争で顔を合わせてから半日しか経っていない。
だが黒子も「確かに久しぶりって気がしますね」と言ってくれた。
いろいろあり過ぎて、ひどく時間が経ったような気がしていたのは紫原だけではなかった。
そう思うだけで、楽しかった。
「それではまた、会いましょう。」
黒子が最後にそう言ってくれたので、紫原も「またね」と答えて電話を切った。
検閲が撤廃される最後の抗争まで、しっかり見届ける。
それが今の紫原の秘かな夢だった。
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