第19話「それぞれの戦闘」
あれは誰だ?
手塚は首を傾げながら、台車を押している戦闘服の隊員を凝視した。
水戸の隊員は全員覚えたはずなのに、誰だかわからなかったのだ。
茨城県展開催初日、午前6時。
激しい銃声と共に、戦闘は始まった。
手塚は進藤と共に、美術館側の屋上に配置されていた。
最初に進藤が撃たれた時には、慌てた。
だが何とか敵の狙撃手を撃破できた。
敵は木に狙撃手を配置しているという情報が入ってきたからだ。
それを知らせた無線の声は堂上だったが、きっと思いついたのは郁だ。
手塚は訳もなく、それを確信していた。
そしてこんな時なのに、得意気な顔で木登りをする子供時代の郁を想像して笑った。
進藤の離脱後に、小牧が配置された。
その後は予定通り、美術館に近づく良化隊員を狙撃する。
基本は威嚇だ。
だがあからさまに威嚇とバレれば、効果がない。
相手に脅威を与えつつ、上空から全体像を俯瞰し、異常を見つければ報告する。
それが手塚と小牧に与えられたミッションだ。
時間が経過するたびに気になったのは、やはり水戸隊員の不慣れさだった。
命令されるまで動けないし、その動きもとにかく鈍いのだ。
やはり特殊部隊とは精鋭揃いなのだと、今さらのように感心してしまう。
それが当たり前になっているから、水戸隊員たちの様子にイライラする。
手塚のイライラが不安に変わったのは、戦闘が中盤に差し掛かった頃だった。
弾薬などの補給のタイミングが遅れ始めたのだ。
補給用の台車は重く、慣れていないとまっすぐに走れない。
たどたどしい動きは狙われやすく、負傷する者もいた。
まったく悪循環だ。
ついには女子隊員が補給に回り始めたのを見て、心が痛んだ。
2人がかりでヨタヨタと必死に台車を押している。
それを見た手塚は、もしも自分が良化隊の狙撃手だったらどうするだろうと想像する。
不慣れな隊員たちの中で、群を抜いて動きが遅くて硬い補給担当の女子隊員は、格好の的だ。
自分なら彼女たちを撃てと命令されても、引き金を引くのは躊躇う。
だが木の上に狙撃手を配置して奇襲するようなヤツらなら、きっと躊躇わない。
彼女たちを狙う良化隊員はいないかと気を配った。
戦闘に男子も女子も関係ない。
彼女たちを「贔屓」するのは、間違いだとわかっている。
だがやはり女子の身体に銃の傷はつけたくない。
万が一柴崎の身体に銃痕などついたらなどと、想像するだけで心が冷えた。
だが終盤に差し掛かった時、手塚は「あれ?」と思った。
補給に来た隊員2人が、誰だかわからなかったのだ。
水戸の隊員は一緒に訓練もしたし、顔と名前がかろうじて一致する程度だが何とか覚えている。
だから補給が来るたびに、誰だと認識できたのだ。
1人は特殊部隊にいてもおかしくない、筋肉隆々の大男。
そしてもう1人は、せいぜい郁より少し大きいくらいの小柄な男だ。
水戸にあんなヤツ、いたか?
それでも小柄な男の方は、何となく見覚えがある気がする。
その謎は程なくして、解けた。
隣の小牧が「黒子一士?」と声を上げたからだ。
手塚はまさかと思いながら、もう一度小柄な男を見て「あ!」と声を上げた。
戦闘服とヘルメットで印象が変わっていたが、あれは確かに黒子だ。
どうして黒子が補給などしているのかわからないが、それほど大変ということなのだろう。
手塚は銃を構えると、近づいてくる良化隊員を狙って撃った。
とにかくここを絶対に守り切るのが、今の手塚の任務だ。
手塚は首を傾げながら、台車を押している戦闘服の隊員を凝視した。
水戸の隊員は全員覚えたはずなのに、誰だかわからなかったのだ。
茨城県展開催初日、午前6時。
激しい銃声と共に、戦闘は始まった。
手塚は進藤と共に、美術館側の屋上に配置されていた。
最初に進藤が撃たれた時には、慌てた。
だが何とか敵の狙撃手を撃破できた。
敵は木に狙撃手を配置しているという情報が入ってきたからだ。
それを知らせた無線の声は堂上だったが、きっと思いついたのは郁だ。
手塚は訳もなく、それを確信していた。
そしてこんな時なのに、得意気な顔で木登りをする子供時代の郁を想像して笑った。
進藤の離脱後に、小牧が配置された。
その後は予定通り、美術館に近づく良化隊員を狙撃する。
基本は威嚇だ。
だがあからさまに威嚇とバレれば、効果がない。
相手に脅威を与えつつ、上空から全体像を俯瞰し、異常を見つければ報告する。
それが手塚と小牧に与えられたミッションだ。
時間が経過するたびに気になったのは、やはり水戸隊員の不慣れさだった。
命令されるまで動けないし、その動きもとにかく鈍いのだ。
やはり特殊部隊とは精鋭揃いなのだと、今さらのように感心してしまう。
それが当たり前になっているから、水戸隊員たちの様子にイライラする。
手塚のイライラが不安に変わったのは、戦闘が中盤に差し掛かった頃だった。
弾薬などの補給のタイミングが遅れ始めたのだ。
補給用の台車は重く、慣れていないとまっすぐに走れない。
たどたどしい動きは狙われやすく、負傷する者もいた。
まったく悪循環だ。
ついには女子隊員が補給に回り始めたのを見て、心が痛んだ。
2人がかりでヨタヨタと必死に台車を押している。
それを見た手塚は、もしも自分が良化隊の狙撃手だったらどうするだろうと想像する。
不慣れな隊員たちの中で、群を抜いて動きが遅くて硬い補給担当の女子隊員は、格好の的だ。
自分なら彼女たちを撃てと命令されても、引き金を引くのは躊躇う。
だが木の上に狙撃手を配置して奇襲するようなヤツらなら、きっと躊躇わない。
彼女たちを狙う良化隊員はいないかと気を配った。
戦闘に男子も女子も関係ない。
彼女たちを「贔屓」するのは、間違いだとわかっている。
だがやはり女子の身体に銃の傷はつけたくない。
万が一柴崎の身体に銃痕などついたらなどと、想像するだけで心が冷えた。
だが終盤に差し掛かった時、手塚は「あれ?」と思った。
補給に来た隊員2人が、誰だかわからなかったのだ。
水戸の隊員は一緒に訓練もしたし、顔と名前がかろうじて一致する程度だが何とか覚えている。
だから補給が来るたびに、誰だと認識できたのだ。
1人は特殊部隊にいてもおかしくない、筋肉隆々の大男。
そしてもう1人は、せいぜい郁より少し大きいくらいの小柄な男だ。
水戸にあんなヤツ、いたか?
それでも小柄な男の方は、何となく見覚えがある気がする。
その謎は程なくして、解けた。
隣の小牧が「黒子一士?」と声を上げたからだ。
手塚はまさかと思いながら、もう一度小柄な男を見て「あ!」と声を上げた。
戦闘服とヘルメットで印象が変わっていたが、あれは確かに黒子だ。
どうして黒子が補給などしているのかわからないが、それほど大変ということなのだろう。
手塚は銃を構えると、近づいてくる良化隊員を狙って撃った。
とにかくここを絶対に守り切るのが、今の手塚の任務だ。
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