第13話「告白」

「黒子テツヤぁぁ~!」
背後から怒声が響き、黒子はゆっくりと振り向く。
すると何か長い棒のようなものを振り上げた男が、突進してくるのが見えた。

郁の査問や痴漢の囮捜査など、さまざまなことがあった正化32年も終わり、年が明けた。
だが黒子は相変わらずマイペースだ。
日中は後方支援部の仕事を、黙々とこなしていく。
そして本の書評を載せるブログも、淡々と更新していた。

黒子の書評は実に公正だった。
扱う本の分野は多岐にわたる。
小説や評論、ノンフィクションや専門書まで。
特徴はすべてトータルで褒めている点だ。
長所と短所をちゃんと示し、だが最後は良い点を挙げて締めくくっている。
だから嫌みがなく、読んだ者はすんなりと納得できるのだ。

検閲対象本を特別扱いすることもなかった。
同じように批判して、褒める。
さらに公正を期すために、図書隊寄りの本と良化隊寄りの本は同じ数だけ扱っていた。
前回良化隊批判の本だった場合は、今回は図書隊の問題点を挙げた本を扱う。
そんな感じで、週1ペースで黒子のブログは更新されていた。

そしてそろそろ昇任試験の季節。
昨年昇任した黒子は、今回は関係ない。
ちなみに今回は「子供への読み聞かせ」だそうだ。
そして館内では絵本を物色する図書館員の姿が目立つようになった。

そんなある日のこと。
黒子は館内で、配架作業を行なっていた。
今回は新刊の本を書架に収める作業だ。
実は黒子はこの作業が、図書館業務の中では一番好きだ。
新しい本を受け取り、乱丁や落丁がないかチェックをしてからラベルを貼る。
そしてピカピカの本を書架に収めるのだ。

この一連の作業は、実に気持ちがいい。
自分がもし正式な図書館員だったら、こんな楽しいことを後方支援部にやらせるなんてと文句を言うだろう。
全ての新刊本を書架に納めた黒子は、代わりに2冊ほどの本を手に取った。
配架しながら見つけた、傷みの激しい本だ。
後方支援部の事務所に持ち帰って、修繕しなくては。
そして本を抱えて館員用のバックヤードに向かったところで、その声が聞こえたのだ。

「黒子テツヤぁぁ~!」
長い棒のようなものを振り上げた若い男が、叫びながら黒子に突進してきたのだ。
アルミ製の警棒だと黒子が認識した時には、もう男は目の前に来ていた。
振り下ろされた一撃を、かろうじて躱す。
だがその瞬間、持っていた本が床に落ちた。
若い男は空振りしたことに怒りを増幅させながら、もう1度警棒を振り上げ、迫って来る。
その瞬間、男の足が黒子が落としてしまった本を踏みつけた。

「ふざけるな!」
黒子は怒りを露わにしながら、ポケットの中から小さな機械を取り出した。
振り下ろされる警棒を物ともせず、機械のスイッチをオンにして男に向かって突き出す。
誰かが「バカ!逃げろ!」と叫んでいるのが聞こえたが、止まらなかった。
どこの誰だか知らないが、自分の目の前で本を踏んづけた男。
自分の手で一太刀、くれてやらなければ気が済まない。

やがて男は駆け付けてきた防衛員たちに取り押さえられた。
その中には郁もいて「黒子先生!救護室に!」と叫んでいる。
そこでようやく黒子は自分もケガをしていることがわかったのだった。
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