第12話「アレックス」
「ったく、何とかならねーのかよ。」
進藤が独り言を装って発したその言葉は、実は自分に向けられている。
伊月は「無理なソムリエ」とダジャレをかますと、事務室を出て図書館に向かった。
最近風当たりが強い。
伊月はヒシヒシとそれを感じていた。
理由は簡単、高校の後輩であり、現在は後方支援部の隊員、黒子テツヤの存在だ。
黒子は独自のやり方で、メディア良化法に挑んでいる。
それは今までの原則派や行政派、未来企画などとも違う斬新な方法で。
問題は黒子は図書特殊部隊の存在を否定的にとらえていることだった。
何となく感じていたけれど、先日の戦闘不要の命令が出たことで確信に変わった。
あなた方のメンツだの意地だのプライドなんて関係ありません。
戦うことだけが本を守ると思ったら、大間違いです。
黒子にそう言われて、誰も言い返せなかった。
それから数日経っても、特殊部隊の空気は微妙に重苦しい。
その矛先は、伊月に向かっていた。
事あるごとに先輩隊員たちが「何とかならないのか」と聞いてくる。
だが伊月は「無理」と答えるしかなかった。
黒子は伊月には一切情報をくれないからだ。
かつての仲間たちは、検閲撤廃を目標にしてそれぞれの役割を演じているのに。
図書隊員なのに、いや図書隊員だからか。
仕方がないこととはいえ、少々寂しい。
伊月は気を取り直して、先輩隊員とバディを組んで館内を巡回警備していた。
いろいろ不満はあるものの、図書館に来れば気はまぎれる。
たとえ巡回とはいえ、大好きな本の中を歩き回るのは楽しいのだ。
伊月が図書隊員を目指した理由にも、実は黒子が大きくかかわっている。
元々本好きではあったが、高校の頃にそれに拍車がかかった。
黒子が図書委員だったからだ。
ダジャレ好きの伊月に、それなら落語の本が参考になると教えてくれたりしたのだ。
それが今では、検閲と戦う図書隊員か。
思い出に浸りそうになった伊月が、巡回中だと慌てて気を引き締めた時だった。
「お、すごい美人!」
バディの先輩隊員が、館内の一点に視線を止めながらそう言った。
伊月も釣られてそちらを見て「あ!」と声を上げた。
抜群のプロポーションと派手な美貌、そして美しい金髪のアメリカ人女性。
だが伊月が驚いたのは、それだけではない。
その美女は知り合いであり、そして。
「笠原、逃げろ!」
伊月は美女に近づこうとする郁を見つけて、そう叫んだ。
このアメリカ美女は、かわいい女子供を見ると止まらない悪癖があるのだ。
「え?何ですか?」
郁は伊月の声を聞き取ったものの、何のことかわからなかったようだ。
当たり前だ。説明する時間がない。
それどころか、声が誰から発せられたかさえわからなかっただろう。
「ぎゃあぁ~!!」
かくして郁は悲鳴を上げ、伊月は遅かったと肩を落とした。
鍛えられた腹筋から発せられた郁の声は、武蔵野第一図書館内の隅から隅まで響き渡ったのだった。
進藤が独り言を装って発したその言葉は、実は自分に向けられている。
伊月は「無理なソムリエ」とダジャレをかますと、事務室を出て図書館に向かった。
最近風当たりが強い。
伊月はヒシヒシとそれを感じていた。
理由は簡単、高校の後輩であり、現在は後方支援部の隊員、黒子テツヤの存在だ。
黒子は独自のやり方で、メディア良化法に挑んでいる。
それは今までの原則派や行政派、未来企画などとも違う斬新な方法で。
問題は黒子は図書特殊部隊の存在を否定的にとらえていることだった。
何となく感じていたけれど、先日の戦闘不要の命令が出たことで確信に変わった。
あなた方のメンツだの意地だのプライドなんて関係ありません。
戦うことだけが本を守ると思ったら、大間違いです。
黒子にそう言われて、誰も言い返せなかった。
それから数日経っても、特殊部隊の空気は微妙に重苦しい。
その矛先は、伊月に向かっていた。
事あるごとに先輩隊員たちが「何とかならないのか」と聞いてくる。
だが伊月は「無理」と答えるしかなかった。
黒子は伊月には一切情報をくれないからだ。
かつての仲間たちは、検閲撤廃を目標にしてそれぞれの役割を演じているのに。
図書隊員なのに、いや図書隊員だからか。
仕方がないこととはいえ、少々寂しい。
伊月は気を取り直して、先輩隊員とバディを組んで館内を巡回警備していた。
いろいろ不満はあるものの、図書館に来れば気はまぎれる。
たとえ巡回とはいえ、大好きな本の中を歩き回るのは楽しいのだ。
伊月が図書隊員を目指した理由にも、実は黒子が大きくかかわっている。
元々本好きではあったが、高校の頃にそれに拍車がかかった。
黒子が図書委員だったからだ。
ダジャレ好きの伊月に、それなら落語の本が参考になると教えてくれたりしたのだ。
それが今では、検閲と戦う図書隊員か。
思い出に浸りそうになった伊月が、巡回中だと慌てて気を引き締めた時だった。
「お、すごい美人!」
バディの先輩隊員が、館内の一点に視線を止めながらそう言った。
伊月も釣られてそちらを見て「あ!」と声を上げた。
抜群のプロポーションと派手な美貌、そして美しい金髪のアメリカ人女性。
だが伊月が驚いたのは、それだけではない。
その美女は知り合いであり、そして。
「笠原、逃げろ!」
伊月は美女に近づこうとする郁を見つけて、そう叫んだ。
このアメリカ美女は、かわいい女子供を見ると止まらない悪癖があるのだ。
「え?何ですか?」
郁は伊月の声を聞き取ったものの、何のことかわからなかったようだ。
当たり前だ。説明する時間がない。
それどころか、声が誰から発せられたかさえわからなかっただろう。
「ぎゃあぁ~!!」
かくして郁は悲鳴を上げ、伊月は遅かったと肩を落とした。
鍛えられた腹筋から発せられた郁の声は、武蔵野第一図書館内の隅から隅まで響き渡ったのだった。
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