第38話「これが裏技!?」
「「井坂さんが!?」」
高野と律は思わず声を上げる。
見事にハモったその声を聞いて、黒子は「仲がいいですね」と呟いた。
高野と律がかつて所属した丸川書店の代表取締役社長、井坂龍一郎が訪米することになった。
名目は視察。
アメリカの出版関係の人間と会ったり、パーティに出席したりするらしい。
そして秘書の朝比奈薫から、黒子に連絡があったのだ。
作家の「まこと・りん」先生にも、ぜひお会いしたいと。
「高野さんと律さんも、都合がつくなら来られないかとおっしゃってました。」
火神と共に律たちの部屋を訪れた黒子は、いつもの感情のこもらない声でそう言った。
井坂や朝比奈に会えるのは嬉しい。
高野と律は顔を見合わせて「ぜひ!」と声を上げた後、ある事実に気付く。
「会うって、井坂さん、ここに来るの?」
律が思わずそう聞くと、黒子は「まさか」と答える。
大企業の社長であり、多忙な井坂は、アメリカでも分刻みのスケジュールなのだ。
このマンションにまでわざわざ来てくれるとは、考えにくい。
つまり黒子が、井坂の指定する場所まで出向くことになるのだ。
「外に出るの?大丈夫?」
律はもっともな疑問を口にした。
火神と黒子の恋愛が世間に知られてしまった後、黒子は一切外出をしていない。
マンション内のジムや周回コースのランニング以外は、ずっと部屋にいたのだ。
そして外には未だに、パパラッチらしいガラの悪い連中がいる。
黒子が出かけるのは、危険ではないのか。
「大丈夫です。実はボク、裏技があるので。」
「裏技?」
「ええ。本当は誰にも気づかれずに外出できるんですよ。ただ少々面倒なだけで。」
「???」
謎かけのような黒子の言葉に、高野も律も首を傾げながら、ずっと黙っていた火神を見る。
無言の視線は「どういう意味?」という問いかけだ。
火神は頭を掻きながら「実際に見た方が早い!ですよ」と答えた。
ちなみに火神は今、一連の騒ぎのせいで、所属チームから自宅待機を命じられていた。
恋人が同性であることが知られ、とにかくチームへのアプローチは大変なものになっていたのだ。
逆境に負けず頑張れという好意的な声と、同性愛者などチームから追放しろという否定の声。
その割合は概ね半々らしい。
とにかく今、試合に出ると、試合会場は大混乱になる。
チームからそう言われてしまえば、火神も休むしかなかった。
だが火神は取り乱すこともなく、落ち着いていた。
むしろ「これで黒子と2人きりの甘い時間が過ごせる!」とはしゃいでいるほどだ。
だが黒子は黒子で「何、バカなこと言ってるんですか」といつも通りの無表情。
まったくこの2人は、世間があれだけ騒いでいるというのに、まったく動じない。
結局「裏技」が何たるかを高野と律は、教えてもらえなかった。
そして井坂に会いに行く当日。
高野と律は黒子と共に、マンションのエントランスから外を見る。
相変わらずパパラッチらしき人間がうようよしていた。
「やはり多いですね。ここからは別行動にしましょう。」
黒子は事もなげにそう言い切った。
高野は「危険だ」と、律は「俺たちがガードするから」と告げる。
だが黒子は「井坂さんのところで会いましょう」と答えた。
そして次の瞬間、黒子の姿は消えていた。
「え?嘘!」
「どこ行ったんだ?黒子君!」
高野と律は、黒子がかつて「幻の6人目(シックスマン)」と呼ばれていたことを知っている。
だが現実にこれほど明確な「視線誘導(ミスディレクション)」を目の当たりにするのは、初めてだった。
なぜなら作家として生きていくには、必要のない技なのだから。
これが裏技!?
高野と律は呆然と、辺りをキョロキョロと見回した。
だが忽然と消えた黒子の姿を、見つけることはできなかった。
高野と律は思わず声を上げる。
見事にハモったその声を聞いて、黒子は「仲がいいですね」と呟いた。
高野と律がかつて所属した丸川書店の代表取締役社長、井坂龍一郎が訪米することになった。
名目は視察。
アメリカの出版関係の人間と会ったり、パーティに出席したりするらしい。
そして秘書の朝比奈薫から、黒子に連絡があったのだ。
作家の「まこと・りん」先生にも、ぜひお会いしたいと。
「高野さんと律さんも、都合がつくなら来られないかとおっしゃってました。」
火神と共に律たちの部屋を訪れた黒子は、いつもの感情のこもらない声でそう言った。
井坂や朝比奈に会えるのは嬉しい。
高野と律は顔を見合わせて「ぜひ!」と声を上げた後、ある事実に気付く。
「会うって、井坂さん、ここに来るの?」
律が思わずそう聞くと、黒子は「まさか」と答える。
大企業の社長であり、多忙な井坂は、アメリカでも分刻みのスケジュールなのだ。
このマンションにまでわざわざ来てくれるとは、考えにくい。
つまり黒子が、井坂の指定する場所まで出向くことになるのだ。
「外に出るの?大丈夫?」
律はもっともな疑問を口にした。
火神と黒子の恋愛が世間に知られてしまった後、黒子は一切外出をしていない。
マンション内のジムや周回コースのランニング以外は、ずっと部屋にいたのだ。
そして外には未だに、パパラッチらしいガラの悪い連中がいる。
黒子が出かけるのは、危険ではないのか。
「大丈夫です。実はボク、裏技があるので。」
「裏技?」
「ええ。本当は誰にも気づかれずに外出できるんですよ。ただ少々面倒なだけで。」
「???」
謎かけのような黒子の言葉に、高野も律も首を傾げながら、ずっと黙っていた火神を見る。
無言の視線は「どういう意味?」という問いかけだ。
火神は頭を掻きながら「実際に見た方が早い!ですよ」と答えた。
ちなみに火神は今、一連の騒ぎのせいで、所属チームから自宅待機を命じられていた。
恋人が同性であることが知られ、とにかくチームへのアプローチは大変なものになっていたのだ。
逆境に負けず頑張れという好意的な声と、同性愛者などチームから追放しろという否定の声。
その割合は概ね半々らしい。
とにかく今、試合に出ると、試合会場は大混乱になる。
チームからそう言われてしまえば、火神も休むしかなかった。
だが火神は取り乱すこともなく、落ち着いていた。
むしろ「これで黒子と2人きりの甘い時間が過ごせる!」とはしゃいでいるほどだ。
だが黒子は黒子で「何、バカなこと言ってるんですか」といつも通りの無表情。
まったくこの2人は、世間があれだけ騒いでいるというのに、まったく動じない。
結局「裏技」が何たるかを高野と律は、教えてもらえなかった。
そして井坂に会いに行く当日。
高野と律は黒子と共に、マンションのエントランスから外を見る。
相変わらずパパラッチらしき人間がうようよしていた。
「やはり多いですね。ここからは別行動にしましょう。」
黒子は事もなげにそう言い切った。
高野は「危険だ」と、律は「俺たちがガードするから」と告げる。
だが黒子は「井坂さんのところで会いましょう」と答えた。
そして次の瞬間、黒子の姿は消えていた。
「え?嘘!」
「どこ行ったんだ?黒子君!」
高野と律は、黒子がかつて「幻の6人目(シックスマン)」と呼ばれていたことを知っている。
だが現実にこれほど明確な「視線誘導(ミスディレクション)」を目の当たりにするのは、初めてだった。
なぜなら作家として生きていくには、必要のない技なのだから。
これが裏技!?
高野と律は呆然と、辺りをキョロキョロと見回した。
だが忽然と消えた黒子の姿を、見つけることはできなかった。
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