第32話「すごい人気じゃないか」
『それにしても、すごい人気じゃないか』
電話の向こうの赤司は、軽やかな声で笑った。
黒子はいつもの通りの抑揚のない声で「おかげさまで」と答えた。
黒子が律と共に参加した、本の出版記念パーティ。
その翌日から、2人の周辺は劇的に変わった。
まず本の売り上げが、恐ろしい勢いで伸びた。
書店では軒並み売り切れ続出、大急ぎで増版がなされているらしい。
黒子自身はあまりそういう数字に興味はない。
だが律の翻訳本が売れるのは、喜ばしいことだと思っている。
そして黒子と律、いや作家の「まこと・りん」と翻訳家「織田律子」の人気が上がった。
パーティの日に会場に踏み込んできた暴漢を、一瞬で取り押さえたからだ。
しかも黒子も律も完璧なメイクアップとドレスアップで、美女仕様になっていた。
そんな2人の見事な立ち回りを、録画した客がいたらしい。
その映像がユーチューブなどの無料動画サイトにアップされたのだ。
その再生回数は、ものすごいことになっている。
削除依頼はかけている。
だがすぐにコピーされ、またアップされるからもうイタチごっこだ。
それに関して、黒子も律も深刻に考えていなかった。
むしろあの姿が「まこと・りん」と「織田律子」として認識されるのは、してやったりなのだ。
本物の黒子と律は、性別から違うのだし、カモフラージュにはちょうどいい。
その上、本が売れるのだから、ありがたいことこの上ない。
火神と高野はパートナーの映像が出回るのが気に入らないようだが、些細なことだ。
赤司から黒子に電話がかかってきたのは、そんな騒動の最中だった。
『それにしても、すごい人気じゃないか』
電話の向こうの赤司は、軽やかな声で笑った。
黒子はいつもの通りの抑揚のない声で「おかげさまで」と答えた。
さすがこの男は、情報が早い。
無料動画サイトの映像まで、しっかりチェック済みだ。
『お前も律さんも、すごく綺麗だ。驚いたよ。』
「お褒めに預かって光栄ですが、ボクに関してはメイクとドレスが成せる業です。」
赤司の賛辞を、黒子は謙虚に受け流す。
黒子は自分の容姿に美など、感じないからだ。
だがなおも赤司は『そんなことはない。律さんにも負けてないよ』と褒めることをやめない。
「ところで赤司君がボクの美しさを褒めるために電話をしてきたとは、思えないんですが。」
黒子は冷静にそうツッコんだ。
そう、まったく赤司らしくない。
もしも黒子を賛美するために電話してきたのだとしたら、第三の人格が出たのかと疑うところだ。
『実はうちの系列会社で、お前の作品とコラボで商品を出したいんだそうだ。』
赤司がビジネスの話をしてきたので、黒子はようやく納得した。
あのパーティの影響は、アメリカ国内だけの話ではない。
動画は日本でも話題になっており、日本語版のオリジナル小説もまた売れているのだ。
この先、アニメ化だ映画化だと、さらに話題になり、売れていく。
その前にコラボグッズなどの企画など、ビジネスチャンスを押さえようということだ。
「わかりました。」
黒子があっさりと即決すると、赤司が『いいのか?』と驚いている。
コラボグッズなんて話は今までもあったが、黒子は興味がないとことわっていたのだ。
「いいですよ。赤司君にまかせれば、つまらないものは出ないでしょうから。」
黒子はプレッシャーをかけながらも、頷いていた。
赤司には日本滞在時に世話になったし、これくらい還元してもいい。
それにプライドにかけても、いいものを作ってくれるはずだ。
「それより日本で、何かニュースはありますか?」
黒子が話題を変えると、赤司はかつての仲間たちの現在の様子をいろいろ話してくれる。
ほんの束の間だが、黒子は懐かしい友人たちの近況を知り、愉快な気分になった。
電話の向こうの赤司は、軽やかな声で笑った。
黒子はいつもの通りの抑揚のない声で「おかげさまで」と答えた。
黒子が律と共に参加した、本の出版記念パーティ。
その翌日から、2人の周辺は劇的に変わった。
まず本の売り上げが、恐ろしい勢いで伸びた。
書店では軒並み売り切れ続出、大急ぎで増版がなされているらしい。
黒子自身はあまりそういう数字に興味はない。
だが律の翻訳本が売れるのは、喜ばしいことだと思っている。
そして黒子と律、いや作家の「まこと・りん」と翻訳家「織田律子」の人気が上がった。
パーティの日に会場に踏み込んできた暴漢を、一瞬で取り押さえたからだ。
しかも黒子も律も完璧なメイクアップとドレスアップで、美女仕様になっていた。
そんな2人の見事な立ち回りを、録画した客がいたらしい。
その映像がユーチューブなどの無料動画サイトにアップされたのだ。
その再生回数は、ものすごいことになっている。
削除依頼はかけている。
だがすぐにコピーされ、またアップされるからもうイタチごっこだ。
それに関して、黒子も律も深刻に考えていなかった。
むしろあの姿が「まこと・りん」と「織田律子」として認識されるのは、してやったりなのだ。
本物の黒子と律は、性別から違うのだし、カモフラージュにはちょうどいい。
その上、本が売れるのだから、ありがたいことこの上ない。
火神と高野はパートナーの映像が出回るのが気に入らないようだが、些細なことだ。
赤司から黒子に電話がかかってきたのは、そんな騒動の最中だった。
『それにしても、すごい人気じゃないか』
電話の向こうの赤司は、軽やかな声で笑った。
黒子はいつもの通りの抑揚のない声で「おかげさまで」と答えた。
さすがこの男は、情報が早い。
無料動画サイトの映像まで、しっかりチェック済みだ。
『お前も律さんも、すごく綺麗だ。驚いたよ。』
「お褒めに預かって光栄ですが、ボクに関してはメイクとドレスが成せる業です。」
赤司の賛辞を、黒子は謙虚に受け流す。
黒子は自分の容姿に美など、感じないからだ。
だがなおも赤司は『そんなことはない。律さんにも負けてないよ』と褒めることをやめない。
「ところで赤司君がボクの美しさを褒めるために電話をしてきたとは、思えないんですが。」
黒子は冷静にそうツッコんだ。
そう、まったく赤司らしくない。
もしも黒子を賛美するために電話してきたのだとしたら、第三の人格が出たのかと疑うところだ。
『実はうちの系列会社で、お前の作品とコラボで商品を出したいんだそうだ。』
赤司がビジネスの話をしてきたので、黒子はようやく納得した。
あのパーティの影響は、アメリカ国内だけの話ではない。
動画は日本でも話題になっており、日本語版のオリジナル小説もまた売れているのだ。
この先、アニメ化だ映画化だと、さらに話題になり、売れていく。
その前にコラボグッズなどの企画など、ビジネスチャンスを押さえようということだ。
「わかりました。」
黒子があっさりと即決すると、赤司が『いいのか?』と驚いている。
コラボグッズなんて話は今までもあったが、黒子は興味がないとことわっていたのだ。
「いいですよ。赤司君にまかせれば、つまらないものは出ないでしょうから。」
黒子はプレッシャーをかけながらも、頷いていた。
赤司には日本滞在時に世話になったし、これくらい還元してもいい。
それにプライドにかけても、いいものを作ってくれるはずだ。
「それより日本で、何かニュースはありますか?」
黒子が話題を変えると、赤司はかつての仲間たちの現在の様子をいろいろ話してくれる。
ほんの束の間だが、黒子は懐かしい友人たちの近況を知り、愉快な気分になった。
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