第3話「宇佐見秋彦、好きなんですか?」
火神の父親と会った後、黒子の気分は落ち込んだ。
覚悟はしていたが、祝福されない恋愛はやはりつらい。
しかもそれが愛する恋人の肉親なら、なおのことだ。
いっそ別れろと迫られた方がマシだったのかもしれない。
ただ祝福できないと言われて、気まずいまま、火神の父親は帰って行った。
その翌日、黒子はマンションの敷地内の遊歩道を歩いていた。
黒子が住むのは、高所得者向けの高級マンション。
セキュリティがしっかりしており、入居者以外の人間は入れない。
そして敷地内には、フィットネスジムやちょっとした散歩ができる遊歩道があるのだ。
黒子はよく小説のストーリーを考えながら、歩く。
ネタや物語の構成、文章の言い回しなど、ここでの散歩でいいアイディアが浮かぶことが多い。
だが今日は違った。
頭の中で、火神の父親の言葉がグルグルと回っている。
火神には父親の訪問を打ち明けており「気にする必要はない」と言われた。
確かにその通りではある。
火神はバスケファンなら誰もが知るNBAプレイヤー、何をするにも親の了解などいらない。
それでもそう簡単に、親は親と割り切れるものではない。
憂鬱な気分で遊歩道を歩く黒子は、知っている顔を見つけた。
遊歩道内にいくつか設置されているベンチ。
その1つに腰かけて、本を読んでいる青年だ。
彼の名は織田律。
先日、マンション内のフィットネスジムで、挨拶を交わした。
理由は単純明快、このマンションではかなり少数派の日本人であるからだ。
律はじっと本に目を落としたまま、黒子には気づかない。
黒子はゆっくりと律に近づきながら、声をかけようかどうしようかと迷った。
律は本に集中していてこちらに気付いていないし、黒子は現在絶賛落ち込み中だ。
だがやはり数少ない日本人なのだし、スルーするのはあんまりだろう。
黒子は律の前に立つと「こんにちは、織田さん」と声をかけた。
「あ、こんにちは。黒子君。」
律は慌てて顔を上げると、挨拶を返してくれる。
黒子は律が読んでいる本の表紙を、チラリと覗き見た。
直森賞と菊川賞と国際文学賞大賞を受賞した人気作家の本だった。
「宇佐見秋彦、好きなんですか?」
黒子は律が本の作家の名を上げて、そう聞いた。
律は一瞬「え?」と声を上げるが、すぐに「ええ、すごく」と笑う。
黒子はその笑顔につられるように「僕も好きです」と言った。
すると律はふと何かを思いついたような表情で、身を乗り出して来た。
「黒子君、日本語の本って持ってる?」
「・・・ええ。小説なら何冊かあります。僕も本が好きなので。」
「よかったら、貸してもらえないかな?」
律は笑いながらも、どこか切羽詰まったような表情で、そう言った。
黒子はその剣幕に驚き、一瞬首を傾げる。
だが別に貸さない理由もないので「いいですよ」と答えた。
「ありがとう!ずっとマンションにこもっていると、本が読みたくなるんだよね。」
律はそう言って、本当に嬉しそうに笑っている。
だが黒子は、これまた首を傾げてしまう。
マンションにこもらなければならない理由って何だろう?
そういう仕事なのか、何か事情があるのか?
「じゃあうちに来ませんか?好きな本を選んでください。」
黒子はとりあえず、律を自宅に誘った。
火神は今日から遠征なのだ。
1人で憂鬱な気分を持て余すよりは、マシかもしれない。
覚悟はしていたが、祝福されない恋愛はやはりつらい。
しかもそれが愛する恋人の肉親なら、なおのことだ。
いっそ別れろと迫られた方がマシだったのかもしれない。
ただ祝福できないと言われて、気まずいまま、火神の父親は帰って行った。
その翌日、黒子はマンションの敷地内の遊歩道を歩いていた。
黒子が住むのは、高所得者向けの高級マンション。
セキュリティがしっかりしており、入居者以外の人間は入れない。
そして敷地内には、フィットネスジムやちょっとした散歩ができる遊歩道があるのだ。
黒子はよく小説のストーリーを考えながら、歩く。
ネタや物語の構成、文章の言い回しなど、ここでの散歩でいいアイディアが浮かぶことが多い。
だが今日は違った。
頭の中で、火神の父親の言葉がグルグルと回っている。
火神には父親の訪問を打ち明けており「気にする必要はない」と言われた。
確かにその通りではある。
火神はバスケファンなら誰もが知るNBAプレイヤー、何をするにも親の了解などいらない。
それでもそう簡単に、親は親と割り切れるものではない。
憂鬱な気分で遊歩道を歩く黒子は、知っている顔を見つけた。
遊歩道内にいくつか設置されているベンチ。
その1つに腰かけて、本を読んでいる青年だ。
彼の名は織田律。
先日、マンション内のフィットネスジムで、挨拶を交わした。
理由は単純明快、このマンションではかなり少数派の日本人であるからだ。
律はじっと本に目を落としたまま、黒子には気づかない。
黒子はゆっくりと律に近づきながら、声をかけようかどうしようかと迷った。
律は本に集中していてこちらに気付いていないし、黒子は現在絶賛落ち込み中だ。
だがやはり数少ない日本人なのだし、スルーするのはあんまりだろう。
黒子は律の前に立つと「こんにちは、織田さん」と声をかけた。
「あ、こんにちは。黒子君。」
律は慌てて顔を上げると、挨拶を返してくれる。
黒子は律が読んでいる本の表紙を、チラリと覗き見た。
直森賞と菊川賞と国際文学賞大賞を受賞した人気作家の本だった。
「宇佐見秋彦、好きなんですか?」
黒子は律が本の作家の名を上げて、そう聞いた。
律は一瞬「え?」と声を上げるが、すぐに「ええ、すごく」と笑う。
黒子はその笑顔につられるように「僕も好きです」と言った。
すると律はふと何かを思いついたような表情で、身を乗り出して来た。
「黒子君、日本語の本って持ってる?」
「・・・ええ。小説なら何冊かあります。僕も本が好きなので。」
「よかったら、貸してもらえないかな?」
律は笑いながらも、どこか切羽詰まったような表情で、そう言った。
黒子はその剣幕に驚き、一瞬首を傾げる。
だが別に貸さない理由もないので「いいですよ」と答えた。
「ありがとう!ずっとマンションにこもっていると、本が読みたくなるんだよね。」
律はそう言って、本当に嬉しそうに笑っている。
だが黒子は、これまた首を傾げてしまう。
マンションにこもらなければならない理由って何だろう?
そういう仕事なのか、何か事情があるのか?
「じゃあうちに来ませんか?好きな本を選んでください。」
黒子はとりあえず、律を自宅に誘った。
火神は今日から遠征なのだ。
1人で憂鬱な気分を持て余すよりは、マシかもしれない。
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