第23話「聞くな!」
「お久しぶりです。」
律は静かに頭を下げた。
あれほど恐れた実家の父親と、婚約者の父親。
だけど今は、臆することなく向かい合うことができる。
「元気そうだな。」
父は静かにそう言った。
その目が微かに笑ったように見えたが、気のせいかもしれない。
何しろ律は、家を捨てて、犯罪まで犯して、日本から逃げたのだ。
久し振りの再会に親が喜んでくれるなんて、虫のいい話だ。
「また会えてよかった。」
杏は涙ぐみながら、再会を喜んでくれている。
彼女にだけは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だが彼女の父である小日向は、苦虫を噛み潰したような顔で、律とは視線を合わせない。
当然と言えば当然だ。大事な娘を傷つけられたのだから。
というか、罵倒されないだけマシというべきかもしれない。
「単刀直入に聞きますが、週刊誌を騒がせている父さんのスキャンダルは本当のことですか?」
律はきっぱりとそう告げた。
懐かしむようなことを言えるような立場ではない。
さっさとここへ来た目的を果たすべく、問いかけた。
最近、週刊誌で小野寺出版の社長の醜聞が、まことしやかに書きたてられている。
会社の金を使い込んだとか、粉飾決算だとか脱税だとか。
ほとんどがデマだ。出版社の利益なんて、たかが知れている。
だが世間のイメージが悪くなることは、否めない。
「それに俺、アメリカで襲撃も受けてます。まさか裏で糸を引いてなんかいないですよね」
律はさらに質問を重ねた。
一応父の方を向いているが、小日向に向けた質問でもある。
この男が根も葉もないデマをばらまいたのではないかと、疑っているからだ。
事実、赤司が調べてくれた報告書によると、小日向の仕業である可能性が高いとあったのだ。
「私は何も知らない。君こそ私に言うことはないのか。」
小日向はにべもなくそう言った。
そう、律は杏との婚約パーティの席で爆弾事件を起こして、小日向が犯人であるように偽装した。
さすがに警察もバカではなく、小日向が逮捕されることはなかったことが、せめてもの救いだ。
「さぁ何のことでしょう?俺は自分自身と好きな人を守りたかっただけですが」
律はきっぱりと突っぱねた。
あのときは他に方法を思いつかなかったから、やれることをやっただけだ。
だが慎重に言葉は選んだ。
万が一にも小日向氏が録音でもしていたら、それが証拠になってしまう。
何としても逮捕なんか、される気はないのだ。
「そんな言い訳が通るのか」
「言い訳じゃありません。俺は大事な人を守るためなら何だってする。」
「君にいったい何ができると言うんだ?」
小日向は律を許すつもりはないらしい。
律は責めるようなその視線を、しっかりと受け止めた。
別に嫌ってくれても、憎んでくれてもいい。
だが両親に害が及ぶなら、戦わなければならない。
「身を守るだけの力はつけましたよ。腕力も人脈も。」
律はそう言って、パーティ客と談笑する赤司にチラリと視線を送った。
腕力は先程暴漢を倒したことで、パフォーマンスになっただろう。
赤司は単に黒子の友人だから、バックボーンと呼ぶのはおこがましい。
だけど今、そう見せかけることはできる。
はっきり言って嫌なやり方だが、背に腹は代えられない。
「俺はあのときより武器が増えました。使う機会がないといいんですけど。」
律はポーカーフェイスを装いながら、そう告げた。
感情のこもらない表情と声は、黒子を真似てやってみた。
変に激するよりも説得力があるのは、身をもって体験している。
律はちらりと壁際の方へ眼をやった。
視線の先では、当の黒子が静かにこちらを見守ってくれていた。
律は静かに頭を下げた。
あれほど恐れた実家の父親と、婚約者の父親。
だけど今は、臆することなく向かい合うことができる。
「元気そうだな。」
父は静かにそう言った。
その目が微かに笑ったように見えたが、気のせいかもしれない。
何しろ律は、家を捨てて、犯罪まで犯して、日本から逃げたのだ。
久し振りの再会に親が喜んでくれるなんて、虫のいい話だ。
「また会えてよかった。」
杏は涙ぐみながら、再会を喜んでくれている。
彼女にだけは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だが彼女の父である小日向は、苦虫を噛み潰したような顔で、律とは視線を合わせない。
当然と言えば当然だ。大事な娘を傷つけられたのだから。
というか、罵倒されないだけマシというべきかもしれない。
「単刀直入に聞きますが、週刊誌を騒がせている父さんのスキャンダルは本当のことですか?」
律はきっぱりとそう告げた。
懐かしむようなことを言えるような立場ではない。
さっさとここへ来た目的を果たすべく、問いかけた。
最近、週刊誌で小野寺出版の社長の醜聞が、まことしやかに書きたてられている。
会社の金を使い込んだとか、粉飾決算だとか脱税だとか。
ほとんどがデマだ。出版社の利益なんて、たかが知れている。
だが世間のイメージが悪くなることは、否めない。
「それに俺、アメリカで襲撃も受けてます。まさか裏で糸を引いてなんかいないですよね」
律はさらに質問を重ねた。
一応父の方を向いているが、小日向に向けた質問でもある。
この男が根も葉もないデマをばらまいたのではないかと、疑っているからだ。
事実、赤司が調べてくれた報告書によると、小日向の仕業である可能性が高いとあったのだ。
「私は何も知らない。君こそ私に言うことはないのか。」
小日向はにべもなくそう言った。
そう、律は杏との婚約パーティの席で爆弾事件を起こして、小日向が犯人であるように偽装した。
さすがに警察もバカではなく、小日向が逮捕されることはなかったことが、せめてもの救いだ。
「さぁ何のことでしょう?俺は自分自身と好きな人を守りたかっただけですが」
律はきっぱりと突っぱねた。
あのときは他に方法を思いつかなかったから、やれることをやっただけだ。
だが慎重に言葉は選んだ。
万が一にも小日向氏が録音でもしていたら、それが証拠になってしまう。
何としても逮捕なんか、される気はないのだ。
「そんな言い訳が通るのか」
「言い訳じゃありません。俺は大事な人を守るためなら何だってする。」
「君にいったい何ができると言うんだ?」
小日向は律を許すつもりはないらしい。
律は責めるようなその視線を、しっかりと受け止めた。
別に嫌ってくれても、憎んでくれてもいい。
だが両親に害が及ぶなら、戦わなければならない。
「身を守るだけの力はつけましたよ。腕力も人脈も。」
律はそう言って、パーティ客と談笑する赤司にチラリと視線を送った。
腕力は先程暴漢を倒したことで、パフォーマンスになっただろう。
赤司は単に黒子の友人だから、バックボーンと呼ぶのはおこがましい。
だけど今、そう見せかけることはできる。
はっきり言って嫌なやり方だが、背に腹は代えられない。
「俺はあのときより武器が増えました。使う機会がないといいんですけど。」
律はポーカーフェイスを装いながら、そう告げた。
感情のこもらない表情と声は、黒子を真似てやってみた。
変に激するよりも説得力があるのは、身をもって体験している。
律はちらりと壁際の方へ眼をやった。
視線の先では、当の黒子が静かにこちらを見守ってくれていた。
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