第15話「絶対やる。」
「本当に申し訳ありません。」
律は深々と頭を下げた。
黒子は「困ります」と言ったが、律はなかなか頭を上げてくれなかった。
ついに律が翻訳した黒子の本が、発売された。
だがそれはほとんど世間の話題に登ることはなかった。
そして発売日からしばらく経っても、全然売れ行きが伸びなかったのだ。
考えられる要素は、いくつかある。
たまたま全米で超有名な人気作家が新作を出版したのと重なったこと。
また宣伝活動をあまりしなかったせいもある。
顔や素性を知られたくない黒子と律は、アメリカでの知名度はまるでないくせに、何もしなかった。
書店でも扱いは小さいため、本を出したことを認知すらされない。
作品がいかに優れていても、これではどうしようもなかった。
「俺の力不足で、黒子君にはホントにもう」
「いえ、あの」
「素晴らしい本なのに、売れないのはきっと翻訳のせいで」
「そんなことは」
「これじゃ黒子君の経歴に、傷が」
「ボクなら大丈夫ですから」
黒子の部屋にやって来た律は、売り上げが伸びていないことを告げると、ひたすら頭を下げた。
そのあまりの恐縮ぶりに、黒子こそ恐縮してしまう。
黒子はむしろ、日本で売れすぎていると思っている。
慎ましく暮らせば一生なんとかなるくらいの金はあるし、この先は書きたいものだけ書けばいい。
だから翻訳本の売り上げには、さほど興味がなかった。
「ボクのことより、律さんですよ。」
「え?」
「一文一文、丁寧に訳してくれたのに。それを読んでもらえないのが悔しくてたまりません。」
「・・・ありがとう」
それが黒子の正直な気持ちだった。
黒子の物語を気に入ってくれて、その世界観を英語で築き上げてくれた。
そんな律の努力が報われないとしたら、悔しいし、悲しい。
「2作目、どうするんですか?」
黒子はふと気になっていることを聞いた。
律は黒子の作品を全部翻訳するつもりで、今2作目の本を訳している最中だ。
売り上げが見込めないなら、早々に諦めた方がいいのかもしれないのだが。
「出すよ。とりあえず出版社との契約は済んでるし」
「1作目がこれでは」
「絶対やる。だっていい本なんだから。」
「こちらの方が申し訳ない気がします。」
黒子と律は顔を見合わせて、苦笑した。
とりあえずもう一度、2人で勝負する。
勝てるかどうかはわからないが、それはやらない理由にはならないということだ。
そういえば。
黒子はふとあることを思い出して、律の顔を見た。
つい先日ネットで見た、とあるニュース。
律の父親が経営する小野寺出版のスキャンダルのことだ。
ネタ元はきちんとした新聞社などではなく、どちらかと言えばB級の週刊誌系。
だから当初はガセである可能性は高く、立ち消えになってしまうかと思っていた。
でもしばらく経った今でも疑惑として、週刊誌やネットを賑わしているようだ。
普段なら見出しだけで無視するようなネタだが、やはり律の実家となれば気になった。
聞けるようなら聞いてみようか。
黒子はそう思っていたけれど、実際に律と話しているうちにそんな気はなくなった。
話す気があれば、きっと律の方から話してくれるだろう。
律は黒子の物語に惚れ込んで、それを訳すことに一生懸命になってくれている。
そんな律に余計な気を使わせる必要なんかない。
「きっといつか売れますよ。」
「うわ、強気だね。黒子君」
「一応、根拠はあるんですが。」
黒子は意味あり気に笑って見せた。
いつか律が翻訳してくれた本が売れた時、種明かしをするつもりだった。
律は深々と頭を下げた。
黒子は「困ります」と言ったが、律はなかなか頭を上げてくれなかった。
ついに律が翻訳した黒子の本が、発売された。
だがそれはほとんど世間の話題に登ることはなかった。
そして発売日からしばらく経っても、全然売れ行きが伸びなかったのだ。
考えられる要素は、いくつかある。
たまたま全米で超有名な人気作家が新作を出版したのと重なったこと。
また宣伝活動をあまりしなかったせいもある。
顔や素性を知られたくない黒子と律は、アメリカでの知名度はまるでないくせに、何もしなかった。
書店でも扱いは小さいため、本を出したことを認知すらされない。
作品がいかに優れていても、これではどうしようもなかった。
「俺の力不足で、黒子君にはホントにもう」
「いえ、あの」
「素晴らしい本なのに、売れないのはきっと翻訳のせいで」
「そんなことは」
「これじゃ黒子君の経歴に、傷が」
「ボクなら大丈夫ですから」
黒子の部屋にやって来た律は、売り上げが伸びていないことを告げると、ひたすら頭を下げた。
そのあまりの恐縮ぶりに、黒子こそ恐縮してしまう。
黒子はむしろ、日本で売れすぎていると思っている。
慎ましく暮らせば一生なんとかなるくらいの金はあるし、この先は書きたいものだけ書けばいい。
だから翻訳本の売り上げには、さほど興味がなかった。
「ボクのことより、律さんですよ。」
「え?」
「一文一文、丁寧に訳してくれたのに。それを読んでもらえないのが悔しくてたまりません。」
「・・・ありがとう」
それが黒子の正直な気持ちだった。
黒子の物語を気に入ってくれて、その世界観を英語で築き上げてくれた。
そんな律の努力が報われないとしたら、悔しいし、悲しい。
「2作目、どうするんですか?」
黒子はふと気になっていることを聞いた。
律は黒子の作品を全部翻訳するつもりで、今2作目の本を訳している最中だ。
売り上げが見込めないなら、早々に諦めた方がいいのかもしれないのだが。
「出すよ。とりあえず出版社との契約は済んでるし」
「1作目がこれでは」
「絶対やる。だっていい本なんだから。」
「こちらの方が申し訳ない気がします。」
黒子と律は顔を見合わせて、苦笑した。
とりあえずもう一度、2人で勝負する。
勝てるかどうかはわからないが、それはやらない理由にはならないということだ。
そういえば。
黒子はふとあることを思い出して、律の顔を見た。
つい先日ネットで見た、とあるニュース。
律の父親が経営する小野寺出版のスキャンダルのことだ。
ネタ元はきちんとした新聞社などではなく、どちらかと言えばB級の週刊誌系。
だから当初はガセである可能性は高く、立ち消えになってしまうかと思っていた。
でもしばらく経った今でも疑惑として、週刊誌やネットを賑わしているようだ。
普段なら見出しだけで無視するようなネタだが、やはり律の実家となれば気になった。
聞けるようなら聞いてみようか。
黒子はそう思っていたけれど、実際に律と話しているうちにそんな気はなくなった。
話す気があれば、きっと律の方から話してくれるだろう。
律は黒子の物語に惚れ込んで、それを訳すことに一生懸命になってくれている。
そんな律に余計な気を使わせる必要なんかない。
「きっといつか売れますよ。」
「うわ、強気だね。黒子君」
「一応、根拠はあるんですが。」
黒子は意味あり気に笑って見せた。
いつか律が翻訳してくれた本が売れた時、種明かしをするつもりだった。
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