第12話「このままではすませない」

「マジかよ!?」
事の顛末を聞かされた一同、火神も青峰も氷室、そして高野と律は呆然とするしかなかった。

黒子の行方がわからなくなり、焦る火神の元にかかってきた1本の電話。
それは意外な人物からだった。
なぜこんなときにと、電話を切ろうとした矢先に「黒子君を保護した」と言われる。
そして「今からそちらへ連れていく」と告げられ、電話は切れた。

「オヤジが。。。黒子を保護したって」
電話を切った火神は、呆然とそう告げた。
そう、相手は火神の父親だ。
それを聞いた瞬間、その場にいた全員、そしてパソコンの中の赤司までが「はぁぁ!?」と叫んだ。
そして青峰に「どういうことだ!?」と問い詰められる。
だが火神だって、さっぱりわからなかった。
火神の父は、一応黒子と面識がある。
火神と黒子が付き合っていることを知って、火神が不在の時に黒子に会いに来たのだ。
そして黒子に「祝福できない」と告げ、一時期黒子はかなり落ち込んでいた。
その父がなぜ、黒子を保護し、連れてくると言うのか。
あまりの唐突な展開に、火神はもしかして聞き間違いなのかと疑った。

でも電話から約1時間後、黒子はひょっこりと帰ってきた。
全員が喜び、ホッとしたものの、素直にこれでよかったとは思えない。
事情がわからないから、頭の中で「?」が乱れ飛んでいるのだ。
黒子だけが冷静に「ただいま、帰りました」と頭を下げる。
パソコンの中の赤司が『無事で何よりだ』と言った。

「火神君のお父さんに、車で送ってもらいました。」
黒子はそう告げると、ソファに腰を下ろした。
火神たちはそれを取り囲むようにして座ると、視線で「早く説明しろ」と急かす。
黒子は「では」と前置きをして、おもむろにこの誘拐事件の顛末を語り始めた。

黒子を拉致した犯人は、火神の父が勤める会社で働く男だった。
そして黒子が狙われた原因は、火神の父にある。
火神の父は心を許した会社の同僚に、ふとしたはずみにもらしてしまったのだ。
息子のルームメイトは人気作家で、恋人でもあると。
それをたまたま耳にしてしまった男が、この誘拐事件を企てた。
火神の息子がNBAプレイヤーであることは、有名な事実だ。
どう転んでも、多額の身代金が取れると踏んだのだろう。

黒子が火神の父親に発見されたのは、偶然ではなく必然だ。
犯人の男は、会社の倉庫を黒子の監禁場所にしたからだ。
そして在庫確認のために、倉庫を訪れた火神の父と鉢合わせしたという訳だ。
こうして火神の父親の車で、マンション前まで送ってもらったのだという。

「マジかよ!?」
事の顛末を聞かされた一同、火神も青峰も氷室、そして高野と律は呆然とするしかなかった。
だが黒子はいつもの無表情のまま「すごく眠いんですけど」と言う。
そしてその言葉通り、その場でウトウトと舟を漕ぎ始めてしまった。

取りあえず黒子をゆっくり休ませよう。
全員が暗黙のうちにその雰囲気を察して、火神を残して部屋を出て行った。
赤司も『また連絡する』と告げて、通信を切る。
火神は眠ってしまった黒子の身体をひょいと持ち上げると、ベットへと運んだ。
心なしか、少し軽くなった気がする。
黒子が目を覚ましたら、まずはしっかり食事をさせなければ。
火神はそんなことを思いながら、黒子をベットに寝かせた。

黒子が無事に戻ったことは嬉しいが、このままではすませない。
本来なら警察を呼んで、黒子は捜査に協力するべきだ。
それをしないで黒子を送ってきたということは、父は事件をうやむやにするつもりなのだ。

オヤジ、何を考えてやがる。
火神はそっとベットルームの扉を閉めると、きつく拳を握りしめた。
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